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12 私のためって、どういうことですか?
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「――とにかく、今は王城に戻れ。君に話したいこともある」
殿下は私の肩を抱いて玄関に向かおうとした。慌ててそれを振り払う。またあの場所に逆戻りだなんて、冗談じゃない。殿下は驚いて腕をつかみ直そうとするので、それも振り払った。
「おやめください!私は戻りませんわ!」
「君のためだ!!」
殿下はこらえきれずといった表情で悲痛な叫び声を上げた。
「…はい?私のため?」
何が私のためになるというのか。疑問に思って尋ねると、殿下はまた目を逸らしてしまった。
「…ほら、その…無断で外出したとなると…外聞が、そう、外聞が悪いだろう?だから…」
言い淀む殿下を不思議な物を見るような目で見つめていると、パチンと扇を鳴らす音が響いた。音のした方へ向くと、お母様が悠然として微笑んでいた。
「殿下、どうかそこまでになさってくださいませ。殿下にどのような理由があろうとも、リリアが望まない限り王城にリリアを戻すことはありませんわ。だって、殿下はただの婚約者でいらっしゃいますもの。親である私たちの意向が優先されるのが当然ですわよね?」
「夫人、あなたの言いたいことは分かる。だが、あなたは知っているはずだ…」
「あら、知った上で申し上げていますのよ?」
何のことか分からない言葉の応酬を呆然と聞いていると、お母様はドアの方に歩いていき、ドアを自分で開けた。
「お帰りはこちらですわ。またいらしてくださいね。そんな機会があれば、ですけど」
「………」
「殿下?」
殿下は動こうとしない。誰も何も言えずにいると、殿下は私の方を振り返った。
「…分かった。今から話すことは他言無用で頼む。国家機密にも関わることだ。…すまないが、リリアと公爵夫妻だけにしてもらえないだろうか?」
お父様が苦い顔をしながら使用人たちに目配せすると、訓練された使用人たちは一斉にドアの向こうへ消えた。
「は…?国家機密、ですか?」
いきなり何を言い出すのかと思って殿下を見ると、殿下は先ほどのように目を逸らしたりせず、まっすぐに私を見据える。
「帝国が動き出した。麦や豆などの輸送経路を妨害しているのではないかと考えている」
「…!それは…」
「最近麦の価格が高騰しているのは知っているだろう?」
私はうなずいた。
「どうやら、輸送途中で荷馬車を襲っている者がいるらしい」
「…!!それは本当ですか?」
麦や豆は非常に重要な食料だ。王国ではそれらは地方から王都に輸送されている。王都での麦の価格は地方から輸送されてくる麦の量によって決まっている。豊作なら安く、あまり収穫がよくなければ高くなるのだ。そして最近は、かなり価格が高くなっていた。
「それを帝国が…?なぜです?だって、50年前に締結された停戦協定はまだ有効のはず。そこには一切の略奪を禁ず、と書かれてあったはずでは…」
隣国である帝国は我が王国の約3倍の面積を誇り、周辺の国々は常に侵略の恐怖に怯えている。我が王国もその一つで、50年前の小競り合いのような戦争を最後に停戦協定がむすばれ、つかの間の平和が訪れていたのだった。
「どうやら、単独犯ではないらしい。襲われた荷馬車に乗っていた者たちの話では、襲撃者たちは役割を分担して襲撃しており、剣の腕は訓練をうけた兵士のようだったという。さらに、現場に落ちていた小刀の柄は帝国で作られた物だと判明した…今年帝国は雨がほとんど降らないせいで未曾有の凶作だ。周辺の国々で略奪を働いていても不思議はない」
「そうですか…本当に帝国が意図的にやっていたとしたら外交問題になりますね。…あの、まだよく話が見えてこないのですが、それと私の婚約破棄の話と一体何の関係があるのですか?」
殿下は顔をしかめ、苦々しそうな口調で言った。
「実は…王国内に、帝国の内通者がいるのではないかという話が出ている。それも複数人。その筆頭として名前が挙がっているのが、フランクリン子爵家なのだ」
私はあいた口が塞がらず、ぽかんと殿下を見つめていた。
内通者?ガーネット様の実家が?
「子爵家が主な仕事としている養蚕は、近年売り上げがかなり下がっている。にもかかわらず、子爵家はいまだに羽振りがいい。パーティーをいくつも主催し、まるで金に困っている様子がない。どこかから資金が提供されていると考えるのが自然だ」
「……」
殿下は私に向き直る。間近で碧眼の瞳に見つめられ、吸い込まれるのかと錯覚した。
「リリア、よくきいてほしい。私がガーネットを側室にしたのは、子爵家をより近くで監視するためなのだ」
殿下は私の肩を抱いて玄関に向かおうとした。慌ててそれを振り払う。またあの場所に逆戻りだなんて、冗談じゃない。殿下は驚いて腕をつかみ直そうとするので、それも振り払った。
「おやめください!私は戻りませんわ!」
「君のためだ!!」
殿下はこらえきれずといった表情で悲痛な叫び声を上げた。
「…はい?私のため?」
何が私のためになるというのか。疑問に思って尋ねると、殿下はまた目を逸らしてしまった。
「…ほら、その…無断で外出したとなると…外聞が、そう、外聞が悪いだろう?だから…」
言い淀む殿下を不思議な物を見るような目で見つめていると、パチンと扇を鳴らす音が響いた。音のした方へ向くと、お母様が悠然として微笑んでいた。
「殿下、どうかそこまでになさってくださいませ。殿下にどのような理由があろうとも、リリアが望まない限り王城にリリアを戻すことはありませんわ。だって、殿下はただの婚約者でいらっしゃいますもの。親である私たちの意向が優先されるのが当然ですわよね?」
「夫人、あなたの言いたいことは分かる。だが、あなたは知っているはずだ…」
「あら、知った上で申し上げていますのよ?」
何のことか分からない言葉の応酬を呆然と聞いていると、お母様はドアの方に歩いていき、ドアを自分で開けた。
「お帰りはこちらですわ。またいらしてくださいね。そんな機会があれば、ですけど」
「………」
「殿下?」
殿下は動こうとしない。誰も何も言えずにいると、殿下は私の方を振り返った。
「…分かった。今から話すことは他言無用で頼む。国家機密にも関わることだ。…すまないが、リリアと公爵夫妻だけにしてもらえないだろうか?」
お父様が苦い顔をしながら使用人たちに目配せすると、訓練された使用人たちは一斉にドアの向こうへ消えた。
「は…?国家機密、ですか?」
いきなり何を言い出すのかと思って殿下を見ると、殿下は先ほどのように目を逸らしたりせず、まっすぐに私を見据える。
「帝国が動き出した。麦や豆などの輸送経路を妨害しているのではないかと考えている」
「…!それは…」
「最近麦の価格が高騰しているのは知っているだろう?」
私はうなずいた。
「どうやら、輸送途中で荷馬車を襲っている者がいるらしい」
「…!!それは本当ですか?」
麦や豆は非常に重要な食料だ。王国ではそれらは地方から王都に輸送されている。王都での麦の価格は地方から輸送されてくる麦の量によって決まっている。豊作なら安く、あまり収穫がよくなければ高くなるのだ。そして最近は、かなり価格が高くなっていた。
「それを帝国が…?なぜです?だって、50年前に締結された停戦協定はまだ有効のはず。そこには一切の略奪を禁ず、と書かれてあったはずでは…」
隣国である帝国は我が王国の約3倍の面積を誇り、周辺の国々は常に侵略の恐怖に怯えている。我が王国もその一つで、50年前の小競り合いのような戦争を最後に停戦協定がむすばれ、つかの間の平和が訪れていたのだった。
「どうやら、単独犯ではないらしい。襲われた荷馬車に乗っていた者たちの話では、襲撃者たちは役割を分担して襲撃しており、剣の腕は訓練をうけた兵士のようだったという。さらに、現場に落ちていた小刀の柄は帝国で作られた物だと判明した…今年帝国は雨がほとんど降らないせいで未曾有の凶作だ。周辺の国々で略奪を働いていても不思議はない」
「そうですか…本当に帝国が意図的にやっていたとしたら外交問題になりますね。…あの、まだよく話が見えてこないのですが、それと私の婚約破棄の話と一体何の関係があるのですか?」
殿下は顔をしかめ、苦々しそうな口調で言った。
「実は…王国内に、帝国の内通者がいるのではないかという話が出ている。それも複数人。その筆頭として名前が挙がっているのが、フランクリン子爵家なのだ」
私はあいた口が塞がらず、ぽかんと殿下を見つめていた。
内通者?ガーネット様の実家が?
「子爵家が主な仕事としている養蚕は、近年売り上げがかなり下がっている。にもかかわらず、子爵家はいまだに羽振りがいい。パーティーをいくつも主催し、まるで金に困っている様子がない。どこかから資金が提供されていると考えるのが自然だ」
「……」
殿下は私に向き直る。間近で碧眼の瞳に見つめられ、吸い込まれるのかと錯覚した。
「リリア、よくきいてほしい。私がガーネットを側室にしたのは、子爵家をより近くで監視するためなのだ」
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