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9 ジェームズ視点①

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いやな予感は、的中した。


愛しい妹が何の先触れもなく転がり込むように家に帰ってきて、泣き出すから一体何があったのかと思っていると、「殿下と婚約破棄したい」とのこと。


正直心当たりはありすぎるほどだったから、父上とも打ち合わせた上で殿下に直接それとなく言ってみることにした。できれば慰謝料とか、慰謝料とか、もらえないかなあ…なんて全く考えなかったわけじゃないけど。


だってかわいい妹が傷つけられたんだもの、向こうが償うのは当然でしょ?もらったお金で妹と旅行でも行こっかな~なんて考えながら、僕は早くも妹の傷心旅行の計画を立て始めていたんだけど。


一体何があったの?


殿下に会うための許可を取ろうと手続きに進むための部屋に向かっていく途中、侍女や使用人たちの様子が明らかにおかしい。いつもなら「用事ですか?今忙しいので」なんて言いそうな雰囲気出してテキパキと働いてるくせに、今日はまるでなにかに怯えているかのようだ。城中がどんよりと空気が重い。


特に僕を見る目!なぜか僕を見るとみな目をそらして足早に去って行く。なんでそんな魔物でも見るかのような目で僕のこと見るの?僕なんかしたかな?


「ジェームズ?」


聞き覚えのある声がすると思ったら、見知った文官の一人だった。王立学院を共に卒業した同期だ。


「やあ、マイク。久しぶりだな。元気にしてたか?」


「俺のことはいい。それよりお前、大丈夫なのか」


「え?」


「殿下だよ、王太子殿下」


「ああそう、今から王太子殿下にお目にかかりに行くところだ。確かあっちの部屋で手続きすればいいんだったよな?というか今日、なんか変じゃないか?なんでみんな落ち着きがないんだ?」


「ちょっとまて、もしかしてお前何も知らないのか」


マイクは途端に顔色を変えた。さすがにおかしいと思い尋ねる。


「一体何の話だ?侍女たちの怯えた態度にも関係あるのか?」


「そりゃ怯えるだろうよ!殿下がものすごく怒っていらっしゃるんだ。カーテノイド公爵令嬢を探し出せってね」


「へえ…」


事情を知っている僕は、はぐらかそうと適当に返事した。しかしマイクはなおも言いつのる。


「今彼女の侍女たちと護衛騎士が殿下に呼び出されて絞められてる。伯爵家の護衛騎士は殴り飛ばされたって話だ。おまえ、殿下に呼び出されてたぞ。家に使者が行ってるはずだ。それで来たのかと思ったが違ったのか?」


「え?なぐ…」


僕は普段の殿下を思い出していた。めったに笑わなくて、「氷の君」なんてあだ名がついちゃうくらい無愛想だけど、部下には優しい王太子殿下。騎士に混じって訓練されていたこともあり、騎士とは特に仲が良い。その殿下が部下の騎士を殴った?


…え、待って、これってもしかしてやばい?滅多に会わない僕なんかチョンと首切られちゃわない?ちょっと待って、殿下に会いたく無くなってきたんですけど。


「ん~、どうしよっかなあ、やっぱり今日はやめて別の日に…」


「カーテノイド公爵令息が来てるだと!?なぜすぐに知らせない!!どこにいるんだ!さっさと連れてこい!!」


風のようにやってきた殿下の声が廊下に響き渡り、皆が一斉にこちらを振り向く。皆の視線をたどった殿下と目が合う。殿下はまさに怒れる神のようで、僕を見つめる氷の瞳は怒りに燃えている。


わー、きれいな人って怒ってもきれいなんだなあ、と僕は現実逃避を始めた。
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