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8 殿下がやってきました、一体何の用ですか?

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おうたいしでんか?


なんで、彼が。先触れは?お兄様が事情を話しているはずではないの?というかこういうのって使者に任せるものじゃないの?私の実家なんて婚約期間で1,2回しかきたことないくせに、何で今来てらっしゃるの?


様々な疑問がぐるぐると頭の中を回っている。動くこともできずその場に根がはえたようにじっとしていると、お父様がこちらにやってきた。


「リリア、今王太子殿下がいらっしゃった。おまえは自分の部屋に戻っていなさい。何を言われても会う必要など無いからな」


その言葉でようやく我に返ると、私はある可能性に行き着いた。機嫌の悪い殿下に逆らったら、私だけでなく家族まで不敬罪に処されるのではないだろうか。私は青くなってお父様にすがりついた。


「で、ですがお父様、殿下が私に会いたいとおっしゃったら会わせてくださいませ。でないと殿下はお父様やお母様までお怒りになるかもしれません!」


しかし、それにお父様が応えることはなかった。いきなり応接室のドアが開き、風が一気に入り込んだのだ。


「その通りだ、リリア。賢明な判断だ。無駄な犠牲は出さない方がいいぞ。今は私も理性的である自信がないからな」


背後から響いたのは、きいたこともないような地を這うように低い声。そのあまりの冷気に背筋が凍った。


何年かぶりにかけられた殿下の声。
嬉しいはずなのに、全く喜べない。だってその声は、痛いほどに怒気をはらんでいたから。


振り向くことさえもできない私をかばうように、お父様は憤然として王太子殿下の前に立ちはだかった。


「殿下、困りますぞ、勝手に上がられては!王家の方々は他人の家に無断で侵入できる法律でも作られたのですか?」


「そんなものはないが、作ってもいいかもしれないな。王家に無許可で王城を出入りしようとする逆臣まがいの者もいるようだしな」


お父様の冗談をさらりとかわすと、殿下はつかつかと中に入って私のそばへ寄った。


「さて、リリア。今ならまだ許してやる。言え。なぜ勝手に王城を出た?しかも婚約破棄だと?ふざけているのか。私は婚約破棄はしないと何度も言ったはずだぞ」


「あ…!」


殿下はギリッと私の手首をつかんで引き上げた。痛みが走って声を上げると、殿下ははっとしたように手を離した。


「す、すまない…怪我させるつもりは」


「いえ…大丈夫ですわ。もう痛みませんし、お気になさらず」


「そ、そうか…」


「………」


しばらく誰も何も言葉を発しなかった。お父様は親の敵のように殿下を睨み付けているし、殿下はやや冷静になったのか私と目を合わそうとせず気まずそうにしている。お母様やアンナたちはどうなることやらとただただ遠巻きに見守っていた。


やがて、殿下が咳払いをして私に向き直った。


「リリア、話をしよう。私たちの間には言葉が足りなかった…もう一度私にチャンスをくれないだろうか?」
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