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6 作戦会議です、ほんとに大丈夫ですよね?

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――数時間前――

「いいか、王城の警備は昼が一番薄くなる。王と王妃が謁見に出られるから、他の場所に騎士が少ないんだ。警備の交代の時間を狙って抜け出せ。次の騎士が来る時間は俺が遅らせてやる」




グレイはそう言って紙に書いた王城の見取り図を指し示した。そこには複雑な迷路のような王城の廊下が詳細に記されていた。王城の地図は何人たりとも持ち出せない。ということはこの地図はグレイが書いたのだろうか。彼は伯爵家の次男として育ってきた。幼い頃から王城への出入りも多かったから、その時に覚えたのだろうか。




かなり細部まで書かれているし、騎士や使用人たちの部屋まで全て書かれている。一体いつどうやってこんなものを書いたのか。疑問は尽きないが、今は他にもっときかなければならないことがある。




「でも、その時間帯は騎士以外にもたくさんの人が居るわ。文官とか、侍女とか…」




「だから、おまえとサリーが入れ替わるんだよ。服を替えてメガネでもかけときゃ誰も気づきゃしない」




「でも馬車が…」




「おまえが乗る馬車は手配してある。それに乗って帰れ」




「なんでそんなに準備がいいの?」




さすがにびっくりしてそうきくと、グレイはいたずらが成功した子供のように無邪気な顔で笑った。不意を突かれ、思わずその表情にドキッとしてしまって慌てて顔をそらす。





「忘れたのか?俺が優秀だって。こんなことくらい何でもないな」




「…でも、サリーを身代わりになんて…」




内心の動揺を悟られたくなくて顔をそらしながらそうつぶやくと、ああ、とグレイは相づちをうった。




「サリーは公爵家の人に回収してもらえ。先触れもださずに娘が出戻ってきたらまず公爵家の誰かが王城に来るだろうからな。サリーに会わせてくれと言ってもらえ。そうしたらサリーはすぐ公爵家に戻れるだろうよ。みんなおまえがいなくなったことに気を取られてるだろうしな」




「グレイは…?護衛騎士のあなたが私に気づきませんでしたって、そんなことゆるされないでしょう?」




「俺はおまえの変装に気づかなかったってことにはするが…まあ許されないだろうな。おまえの護衛騎士でいるのは無理だろう」




「そんな…!なんでそこまで…」



私が立ち上がって抗議の声を上げると、グレイは口元だけで自嘲気味に笑った。いつものふざけたチャラ男の表情を消し、真顔になって私の顔をのぞき込んだ。いきなり近付いてきた金色の瞳に思わず一歩下がる。




「おまえ、それ本気で言ってるのかよ?なんで俺がおまえだけのために出世コースから外れる真似するかって?逆にきくが、何でだと思う?おまえはなんて答えてほしいんだ?」




「グ、グレイ?」




猛禽類のような金色の瞳が私を捉えて放さない。私は息もできずただグレイを見つめていると、グレイはまたいつもの人当たりのいい笑顔を浮かべた。




「おまえが心配することじゃない。ほら、そろそろ交代の時間だぞ。服を着替えたほうがいい」




「まって、グレ…」



グレイはひらひらと手をふって扉の向こうに消えた。




「なんなのよ、一体…」

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