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3 実家に帰ります、後のことは知りません
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「エーリク殿下は素晴らしいお方です。あなたはそれに恥じない婚約者であるべきなのです」
未来の王妃のための教育と称して、また今日も膨大な量の課題が出される。そして教育係であるベンジャミン伯爵夫人は、リリアをみてため息をついた。
「まあ、まだ終わっていないのですか?こんな不出来な方に国の未来を任せなくてはならないなんて、殿下もお気の毒に。全く、殿下のご寵愛がなくなるのも当然ですわね」
「はあ…」
終わっているはずもないページをめくりながら、伯爵夫人は芝居がかった調子で首をふった。
「嫉妬は最も醜い女の感情です。優れた王妃は夫の側室に声をかけ、これから仲良くしましょうねというものなのですよ」
そういう夫人は夫の愛人に子供が居ると知ったとき怒り狂って手がつけられなかったそうだが、自分のことはすっかり忘れているらしい。この人とは長く話すだけ無駄だ。
苦痛な時間が終わると、私の腹心の侍女、サリーが部屋に入ってきた。
「リリア様!」
「サリー」
サリーは憤怒の色を浮かべながら私に駆け寄った。
「あの女狐!自分のことは棚に上げてお嬢様になんてことを…」
「サリー、落ち着いて。いつものことでしょう?気にするだけ無駄よ。それより、熱い
お茶が飲みたいわ。いれてもらえるかしら?」
「はい、ただいまご用意いたします」
サリーがお茶をいれにドアの向こうに消えた。私はふうとため息をつき、窓の外をぼんやりと眺めた。
「お嬢様、今日は何のお茶になさいますか?」
「いつもの薔薇のでお願いできるかしら。それとね、サリー。ちょっとお話があるの。あなたにもかかわることだから聞いてほしいわ」
「…?はい。何でしょう、お嬢様」
「私、殿下との婚約を解消しようと思うの」
「…!そ、それは…」
サリーは手に持っていた紅茶のカップを取り落とした。
「殿下には他に思う方がいらっしゃるし、私は嫌われている。これ以上私がここにいる意味はないわ」
「お嬢様は…お嬢様はそれでよろしいのですかっ!?幼い頃からお嬢様は殿下だけをみていらっしゃいました!このまま殿下の婚約者でなくなって…それでよろしいのですか?」
「…殿下のお気持ちは仕方のないことだもの。きっと私にも至らないところがあったのだわ。でも、私は殿下に気に入っていただけるように努力したし、後悔はない。だからもう潮時だと思うの。私は、殿下の居ない人生を歩みたい」
「お嬢様…」
ほんとうは、今でも彼が好きだ。でももう、疲れたの。これ以上、あの胸の奥がきしんで冷たくなっていくような、あんな感覚を味わいたくない。彼がガーネット様と笑い合っているところをみたくない。私と目が合ったら気まずそうに目をそらす彼をみたくない。
だから、私は。
「実家に帰るわ」
未来の王妃のための教育と称して、また今日も膨大な量の課題が出される。そして教育係であるベンジャミン伯爵夫人は、リリアをみてため息をついた。
「まあ、まだ終わっていないのですか?こんな不出来な方に国の未来を任せなくてはならないなんて、殿下もお気の毒に。全く、殿下のご寵愛がなくなるのも当然ですわね」
「はあ…」
終わっているはずもないページをめくりながら、伯爵夫人は芝居がかった調子で首をふった。
「嫉妬は最も醜い女の感情です。優れた王妃は夫の側室に声をかけ、これから仲良くしましょうねというものなのですよ」
そういう夫人は夫の愛人に子供が居ると知ったとき怒り狂って手がつけられなかったそうだが、自分のことはすっかり忘れているらしい。この人とは長く話すだけ無駄だ。
苦痛な時間が終わると、私の腹心の侍女、サリーが部屋に入ってきた。
「リリア様!」
「サリー」
サリーは憤怒の色を浮かべながら私に駆け寄った。
「あの女狐!自分のことは棚に上げてお嬢様になんてことを…」
「サリー、落ち着いて。いつものことでしょう?気にするだけ無駄よ。それより、熱い
お茶が飲みたいわ。いれてもらえるかしら?」
「はい、ただいまご用意いたします」
サリーがお茶をいれにドアの向こうに消えた。私はふうとため息をつき、窓の外をぼんやりと眺めた。
「お嬢様、今日は何のお茶になさいますか?」
「いつもの薔薇のでお願いできるかしら。それとね、サリー。ちょっとお話があるの。あなたにもかかわることだから聞いてほしいわ」
「…?はい。何でしょう、お嬢様」
「私、殿下との婚約を解消しようと思うの」
「…!そ、それは…」
サリーは手に持っていた紅茶のカップを取り落とした。
「殿下には他に思う方がいらっしゃるし、私は嫌われている。これ以上私がここにいる意味はないわ」
「お嬢様は…お嬢様はそれでよろしいのですかっ!?幼い頃からお嬢様は殿下だけをみていらっしゃいました!このまま殿下の婚約者でなくなって…それでよろしいのですか?」
「…殿下のお気持ちは仕方のないことだもの。きっと私にも至らないところがあったのだわ。でも、私は殿下に気に入っていただけるように努力したし、後悔はない。だからもう潮時だと思うの。私は、殿下の居ない人生を歩みたい」
「お嬢様…」
ほんとうは、今でも彼が好きだ。でももう、疲れたの。これ以上、あの胸の奥がきしんで冷たくなっていくような、あんな感覚を味わいたくない。彼がガーネット様と笑い合っているところをみたくない。私と目が合ったら気まずそうに目をそらす彼をみたくない。
だから、私は。
「実家に帰るわ」
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