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2  嫌がらせなんて、きいてません

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「あら、ごめんあそばせ。わたくしの侍女が粗相をしてしまって」


ああ、まただ。リリア・カーテノイドは本日何度目かのため息を吐いた。今私は頭の上から盛大にお茶をかぶっており、その元凶である侍女たちとその主である女がクスクスと上品に笑っていた。



「まあ、リリア様の魅力は紅茶をかぶったくらいでは薄れないから問題ございませんわよね?」



そう言って微笑むのはガーネット・フランクリン子爵令嬢。私の婚約者の側室である。
たっぷりとした黒髪を優雅に巻き上げており、その美貌と機知に富んだ会話から社交界での評判も高い。一体誰と婚約するのかと噂になっていたとき、私の婚約者である王太子殿下が側室に召し上げたのだった。





その話を聞いたときは悲しみと絶望で目の前が真っ暗になり、生まれて初めて失神した。6歳の時公爵令嬢として殿下の婚約者となって10年、側室の話が出ているのは知っていたが殿下は相手にしていなかった。だから私や私の家族も安心していたのに。


なぜ今、側室を。まだ結婚もしていないし、跡継ぎがつくれないと決まった訳でもないのに。そんなにその女のことが好きなの?私には何の相談もなく?





公爵令嬢として厳しく育てられてきた私が、生まれて初めて人前で泣いた。悲しい、悔しいなんて言葉では言い表せない。ひとしきり泣いた後、私は心を殺すことを覚えた。私の家族や使用人たちが、つらそうな顔をしていたから。私さえ我慢すれば、私さえ耐えればみんな幸せになると言い聞かせて。



ガーネット様は殿下の寵愛を一身に受け、世継ぎの誕生も近いのではないかと噂されていた。殿下は来る日も来る日もガーネット様の寝室を訪れ、私の部屋の前を素通りしていく。殿下の足音が聞こえるたびに胸がギシギシと痛んだ。


ガーネット様の寵愛をみた王城の侍女たちは、私を見捨てた。要するに、婚約者であるにもかかわらず殿下の寵愛を受けられない私を見限り、ガーネット様が私に嫌がらせするのを手伝うようになったのだった。


あるときは料理の味付けが食べられないほどまずくされていたり。あるときにはガーネット様のドレスを破ったと騒ぎ立てたり。
そのようなことが頻繁に起こったせいで、王城での私はすっかり「殿下に愛されず、側室に当たる性悪女」として認識されてしまった。


そんなこんなで王城での生活が平穏な訳もなく。度重なるガーネット様や侍女からの嫌がらせに、私の中で何かが切れた。



もう、逃げていいですよね?
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