2 / 18
2 嫌がらせなんて、きいてません
しおりを挟む
2.
「あら、ごめんあそばせ。わたくしの侍女が粗相をしてしまって」
ああ、まただ。リリア・カーテノイドは本日何度目かのため息を吐いた。今私は頭の上から盛大にお茶をかぶっており、その元凶である侍女たちとその主である女がクスクスと上品に笑っていた。
「まあ、リリア様の魅力は紅茶をかぶったくらいでは薄れないから問題ございませんわよね?」
そう言って微笑むのはガーネット・フランクリン子爵令嬢。私の婚約者の側室である。
たっぷりとした黒髪を優雅に巻き上げており、その美貌と機知に富んだ会話から社交界での評判も高い。一体誰と婚約するのかと噂になっていたとき、私の婚約者である王太子殿下が側室に召し上げたのだった。
その話を聞いたときは悲しみと絶望で目の前が真っ暗になり、生まれて初めて失神した。6歳の時公爵令嬢として殿下の婚約者となって10年、側室の話が出ているのは知っていたが殿下は相手にしていなかった。だから私や私の家族も安心していたのに。
なぜ今、側室を。まだ結婚もしていないし、跡継ぎがつくれないと決まった訳でもないのに。そんなにその女のことが好きなの?私には何の相談もなく?
公爵令嬢として厳しく育てられてきた私が、生まれて初めて人前で泣いた。悲しい、悔しいなんて言葉では言い表せない。ひとしきり泣いた後、私は心を殺すことを覚えた。私の家族や使用人たちが、つらそうな顔をしていたから。私さえ我慢すれば、私さえ耐えればみんな幸せになると言い聞かせて。
ガーネット様は殿下の寵愛を一身に受け、世継ぎの誕生も近いのではないかと噂されていた。殿下は来る日も来る日もガーネット様の寝室を訪れ、私の部屋の前を素通りしていく。殿下の足音が聞こえるたびに胸がギシギシと痛んだ。
ガーネット様の寵愛をみた王城の侍女たちは、私を見捨てた。要するに、婚約者であるにもかかわらず殿下の寵愛を受けられない私を見限り、ガーネット様が私に嫌がらせするのを手伝うようになったのだった。
あるときは料理の味付けが食べられないほどまずくされていたり。あるときにはガーネット様のドレスを破ったと騒ぎ立てたり。
そのようなことが頻繁に起こったせいで、王城での私はすっかり「殿下に愛されず、側室に当たる性悪女」として認識されてしまった。
そんなこんなで王城での生活が平穏な訳もなく。度重なるガーネット様や侍女からの嫌がらせに、私の中で何かが切れた。
もう、逃げていいですよね?
「あら、ごめんあそばせ。わたくしの侍女が粗相をしてしまって」
ああ、まただ。リリア・カーテノイドは本日何度目かのため息を吐いた。今私は頭の上から盛大にお茶をかぶっており、その元凶である侍女たちとその主である女がクスクスと上品に笑っていた。
「まあ、リリア様の魅力は紅茶をかぶったくらいでは薄れないから問題ございませんわよね?」
そう言って微笑むのはガーネット・フランクリン子爵令嬢。私の婚約者の側室である。
たっぷりとした黒髪を優雅に巻き上げており、その美貌と機知に富んだ会話から社交界での評判も高い。一体誰と婚約するのかと噂になっていたとき、私の婚約者である王太子殿下が側室に召し上げたのだった。
その話を聞いたときは悲しみと絶望で目の前が真っ暗になり、生まれて初めて失神した。6歳の時公爵令嬢として殿下の婚約者となって10年、側室の話が出ているのは知っていたが殿下は相手にしていなかった。だから私や私の家族も安心していたのに。
なぜ今、側室を。まだ結婚もしていないし、跡継ぎがつくれないと決まった訳でもないのに。そんなにその女のことが好きなの?私には何の相談もなく?
公爵令嬢として厳しく育てられてきた私が、生まれて初めて人前で泣いた。悲しい、悔しいなんて言葉では言い表せない。ひとしきり泣いた後、私は心を殺すことを覚えた。私の家族や使用人たちが、つらそうな顔をしていたから。私さえ我慢すれば、私さえ耐えればみんな幸せになると言い聞かせて。
ガーネット様は殿下の寵愛を一身に受け、世継ぎの誕生も近いのではないかと噂されていた。殿下は来る日も来る日もガーネット様の寝室を訪れ、私の部屋の前を素通りしていく。殿下の足音が聞こえるたびに胸がギシギシと痛んだ。
ガーネット様の寵愛をみた王城の侍女たちは、私を見捨てた。要するに、婚約者であるにもかかわらず殿下の寵愛を受けられない私を見限り、ガーネット様が私に嫌がらせするのを手伝うようになったのだった。
あるときは料理の味付けが食べられないほどまずくされていたり。あるときにはガーネット様のドレスを破ったと騒ぎ立てたり。
そのようなことが頻繁に起こったせいで、王城での私はすっかり「殿下に愛されず、側室に当たる性悪女」として認識されてしまった。
そんなこんなで王城での生活が平穏な訳もなく。度重なるガーネット様や侍女からの嫌がらせに、私の中で何かが切れた。
もう、逃げていいですよね?
124
お気に入りに追加
10,201
あなたにおすすめの小説
【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。
たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。
わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。
ううん、もう見るのも嫌だった。
結婚して1年を過ぎた。
政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。
なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。
見ようとしない。
わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。
義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。
わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。
そして彼は側室を迎えた。
拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。
ただそれがオリエに伝わることは……
とても設定はゆるいお話です。
短編から長編へ変更しました。
すみません
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
殿下、側妃とお幸せに! 正妃をやめたら溺愛されました
まるねこ
恋愛
旧題:お飾り妃になってしまいました
第15回アルファポリス恋愛大賞で奨励賞を頂きました⭐︎読者の皆様お読み頂きありがとうございます!
結婚式1月前に突然告白される。相手は男爵令嬢ですか、婚約破棄ですね。分かりました。えっ?違うの?嫌です。お飾り妃なんてなりたくありません。
側妃を迎えたいと言ったので、了承したら溺愛されました
ひとみん
恋愛
タイトル変更しました!旧「国王陛下の長い一日」です。書いているうちに、何かあわないな・・・と。
内容そのまんまのタイトルです(笑
「側妃を迎えたいと思うのだが」国王が言った。
「了承しました。では今この時から夫婦関係は終了という事でいいですね?」王妃が言った。
「え?」困惑する国王に彼女は一言。「結婚の条件に書いていますわよ」と誓約書を見せる。
其処には確かに書いていた。王妃が恋人を作る事も了承すると。
そして今更ながら国王は気付く。王妃を愛していると。
困惑する王妃の心を射止めるために頑張るヘタレ国王のお話しです。
ご都合主義のゆるゆる設定です。
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。
和泉鷹央
恋愛
アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。
自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。
だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。
しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。
結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。
炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥
2021年9月2日。
完結しました。
応援、ありがとうございます。
他の投稿サイトにも掲載しています。
心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。
木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。
そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。
ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。
そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。
こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる