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番外編 Selection《悠斗side》
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袋の中には小粒のキューブ。馴染みのあるそれは、俺が瀬菜の誕生日に用意したプレゼントだった。見るも無惨なそれは散り散りになり、廃棄物と化している。
よく見ると、廃棄物意外にハガキ大の封筒が入っていた。ゆっくりとそれを手に取り、意を決して封を開ける。小さな白いカードが目に入るが、それにしては重みがある。
封筒の中で右往左往する重み。手のひらに取り出すと、小さなリングが転がり落ちる。細く小さなそれは、男性のものにしては小ぶりだ。柔らかく色白の肌を嫌でも思い出す。
そっと唇をリングに落とし、愛しい人に口づけをしているような錯角に捉われるが、虚しさだけが募っていく。
「……瀬菜……会いたい……どうか……許して……」
願望だけが膨らんで抑え込めない。
中途半端にリングを指に絡め、カードを確認する。なにか書いてあるのは間違いないはずだ。けれど決して自分が喜ぶものではないと理解しているはずなのに、どうしてか淡い期待を抱いてしまう。
そして俺は後悔する。その時にはすでに取り返しもつかず、ただ静かに夜露を流す。サヨナラの言葉を胸に抱きしめながら──。
***
「サーヨーナーラー? う~ん~、グッバイ?」
「……おい、返せ」
「これは別れの時に使う日本語だろ? なんだユート? こんなに大切に持ち歩くなんて、余程の未練があるってことだろ? どんな美人から贈られたんだ?」
「うるさい」
勝手に財布を漁るホームステイ先の遠い親戚で二歳年上のアーヴィンは、カードを光にかざしながら茶々を入れてくる。
金髪でブルーアイの好青年は、俺より若干背が高い。ガタイがいい彼からすれば、日本人の俺などひ弱な子供にしか見えないだろう。
「うるさいとは心外だ。ユートがここに来たばかりの頃、俺がどれだけ可愛がってやったことか。よく思い出せ。根暗なお前をここまで育てたのは誰だ? そうッ‼ この俺様だ‼」
……と、まぁ、面倒な俺様である。
確かに俺はアメリカに渡米したばかりのころは、死人同然だった。そしてアーヴィンの明るさに助けられたのは間違いない。
反発し拒否を示していた俺に、根気よく付き添ってくれたアーヴィンには感謝してもしきれない。
「はいはい。君のおかげで今の俺があるよ。ハニー」
「ハニー? ハニーだって? そこはダーリンだろ⁉」
一々突っ込んでいては時間がいくらあっても足りない。アーヴィンに有効な手段は無視に限る。
「……またお得意の無視かよ。しかしなんだってこんなに沢山カードを入れてるんだ? 日本人に日本語の勉強は必要ないだろう? これはなんて読む? 漢字は流石に読めない」
アーヴィンはサヨナラとは別のカードを抜き出してきた。
「これは読めなくても読まなくてもいい」
「なんだよケチだな。日本語教えてくれる約束だろ?」
「ん? 人の財布を漁っておいてよく言う。けど、約束はちゃんとするよ」
カードを奪い取ると、俺は口元を綻ばせ言った。
「希望……そう書いてあるんだよ」
首を傾げ納得していない様子のアーヴィン。村上君が運んでくれた瀬菜の思い。確かに自分は間違った選択をしてしまったかもしれない。けれど必ず最後に正しい答えを掴んでみせる。
だから今は迷わない。一分一秒でも早く、愛しい人の元へ戻るために──。
❥ 番外編 Selection【終】──Next番外編へ── ❥
よく見ると、廃棄物意外にハガキ大の封筒が入っていた。ゆっくりとそれを手に取り、意を決して封を開ける。小さな白いカードが目に入るが、それにしては重みがある。
封筒の中で右往左往する重み。手のひらに取り出すと、小さなリングが転がり落ちる。細く小さなそれは、男性のものにしては小ぶりだ。柔らかく色白の肌を嫌でも思い出す。
そっと唇をリングに落とし、愛しい人に口づけをしているような錯角に捉われるが、虚しさだけが募っていく。
「……瀬菜……会いたい……どうか……許して……」
願望だけが膨らんで抑え込めない。
中途半端にリングを指に絡め、カードを確認する。なにか書いてあるのは間違いないはずだ。けれど決して自分が喜ぶものではないと理解しているはずなのに、どうしてか淡い期待を抱いてしまう。
そして俺は後悔する。その時にはすでに取り返しもつかず、ただ静かに夜露を流す。サヨナラの言葉を胸に抱きしめながら──。
***
「サーヨーナーラー? う~ん~、グッバイ?」
「……おい、返せ」
「これは別れの時に使う日本語だろ? なんだユート? こんなに大切に持ち歩くなんて、余程の未練があるってことだろ? どんな美人から贈られたんだ?」
「うるさい」
勝手に財布を漁るホームステイ先の遠い親戚で二歳年上のアーヴィンは、カードを光にかざしながら茶々を入れてくる。
金髪でブルーアイの好青年は、俺より若干背が高い。ガタイがいい彼からすれば、日本人の俺などひ弱な子供にしか見えないだろう。
「うるさいとは心外だ。ユートがここに来たばかりの頃、俺がどれだけ可愛がってやったことか。よく思い出せ。根暗なお前をここまで育てたのは誰だ? そうッ‼ この俺様だ‼」
……と、まぁ、面倒な俺様である。
確かに俺はアメリカに渡米したばかりのころは、死人同然だった。そしてアーヴィンの明るさに助けられたのは間違いない。
反発し拒否を示していた俺に、根気よく付き添ってくれたアーヴィンには感謝してもしきれない。
「はいはい。君のおかげで今の俺があるよ。ハニー」
「ハニー? ハニーだって? そこはダーリンだろ⁉」
一々突っ込んでいては時間がいくらあっても足りない。アーヴィンに有効な手段は無視に限る。
「……またお得意の無視かよ。しかしなんだってこんなに沢山カードを入れてるんだ? 日本人に日本語の勉強は必要ないだろう? これはなんて読む? 漢字は流石に読めない」
アーヴィンはサヨナラとは別のカードを抜き出してきた。
「これは読めなくても読まなくてもいい」
「なんだよケチだな。日本語教えてくれる約束だろ?」
「ん? 人の財布を漁っておいてよく言う。けど、約束はちゃんとするよ」
カードを奪い取ると、俺は口元を綻ばせ言った。
「希望……そう書いてあるんだよ」
首を傾げ納得していない様子のアーヴィン。村上君が運んでくれた瀬菜の思い。確かに自分は間違った選択をしてしまったかもしれない。けれど必ず最後に正しい答えを掴んでみせる。
だから今は迷わない。一分一秒でも早く、愛しい人の元へ戻るために──。
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