王子×悪戯戯曲

そら汰★

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番外編 Selection《悠斗side》

01

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 もし、あの時に違う方法を選んでいれば、きっとこうはならなかったのではないだろうか──。
 そう思う自分はなんて浅ましいのだろう……。


「お客様……」

 柔らかな声に瞼を上げる。きっちりと制服を身に纏った上品な女性。ぼんやりとその姿を見つめていると、頬を薔薇色に染め少し上擦った声で現状を伝えられた。

「おやすみのところ申し訳ございません。当便、乱気流の影響で揺れが発生しております。リクライニングを戻して、シートベルトをお締めください」

 マニュアルに沿った回答。外は暗くガタガタと機体を揺らす音がする。

「……はい。ありがとうございます」

 ぼんやりとそう答え、言われたとおりに座席を起こし、シートベルトを閉める手前で停止する。膝の上に置いた茶色の袋。もし数時間前にこれを開封していたら、なにか変わっていただろうか。
 例えば空港で封を開けていたのなら、俺は飛行機に乗らずに瀬菜の元へ駆けつけていたのだろうか。
 いや、それよりももっと……もっと前に……。
 ぐるぐると思考を巡らせ、数時間前に差し出された茶色い袋に視線を落とす。現実から逃れるようにイフを辿る。



「……ユウ、これ……ヤナから」

 空港の搭乗口に向かう前、カナちゃんからそう言われ渡された包み。期待をしている自分と疑心暗鬼な自分。少し震えた指先で受け取り、弱虫な自分がとった行動。

「……あり、がと。瀬菜は……なにか?」
「いや、伝言は受けていない……」
「……そっか……」

 そう言い茶色の袋を開けもせず片手に携え微笑む。

「……ユウ、本当に行くのか? もう一度……ヤナと話をしたら……」

 引き止める友人に、首を横に振る。
 もう決まったことなのだ。見送りに来てくれた友人はいつもの顔ぶれ。そこに居るはずの大切な人は残像だけが脳裏に存在している。もうどれぐらい姿を見ていないのだろうか。最後の日に期待をしていなかったといえば嘘になる。優しい愛しい人は、この日にだけは姿を表してくれるはず……と。けれど現実はそう甘くはなかったようだ。
 友人たちに簡単に挨拶をし、背を向けると俺はゲートをくぐり抜けた。

 飛行機が離陸し、もう引き返せないのだと瞳を閉じた。なにかアクションを起こすたび、後悔しそうで怖かったのだ。だからカナちゃんから受け取った、瀬菜からの袋も開けられずにいた。

「……あの、お客様、シートベルトを……」
「あぁ、すみません……」

 再度注意を受け、シートベルトを閉めようとするが震える指先に力が入らない。

「あの、そちらお預かりしますよ?」

 咄嗟に伸びてくる手に思わず口が開く。

「──ッ、触るな‼」

 そう怒鳴り激怒すると徐々に沸点が下がりハッとする。青ざめたキャビンアテンダントは恐怖を滲ませ、訝しげな表情を見せる。
 なにか不審物と思われれば厄介だ。回収されまいと封を開け、中身を確認し今度は俺が硬直して青ざめた。すぐに中身を見せながら謝罪をし、得に問題はないとその場を収めた。
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