王子×悪戯戯曲

そら汰★

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終幕 これからもずっと。

01

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「瀬菜ー! せ~な~! ちょっと来てー!」

 クローゼットの中でゴソゴソと物色していると、どこかで悠斗が俺の名前を連呼していた。山盛りの服の間からひょこっと顔を出し見渡すが、寝室からではなさそうだ。
 まだ決まってないのに……と、持っていたスーツを掛け直しペタペタと裸足でリビングに向かった。

 呼ばれたはずだかリビングにもキッチンにも居らず、洗面所へ向かう。開け放たれた扉を潜ると……。

「王子様かよ……」

 ボソリと呟きながら目を大きく広げてしまう。目の前に現れたキラキラと輝く姿に、見慣れた俺でさえ息を飲んでしまう。
 入学の頃よりも大人びた顔立ち。持ち上がった口元は柔らかく、華やかな印象を与えていた。ダークグレーの細みのスーツ。薄いブルーのワイシャツ。髪はフワフワでサイドにきっちり流した前髪が、今時風で清潔感がある。
 褒め言葉を口にするつもりはなかったが、自然と口から呟きが漏れてしまった。それほど悠斗のスーツ姿に、トキメキを感じてしまったのだ。西洋の絵本から出て来たいつかのお姫様はすっかり成長し、おとぎ話の王子様……とは流石にいかないが、現代の英国プリンスといったところだろう。

「ふふっ、なんだか今の言い方懐かしいね?」
「あ~、そんなこともあったな。で? 大声で俺を呼んでなんだよ。ゆうちゃん!」
「クスッ、ねっ、どれがいいと思う?」
「……それだけのことで俺を呼んだのか⁉︎」

 どうやら自分ひとりでは決めあぐねいていたようだ。

「うん、瀬菜に選んで欲しくて」
「自分の好みでいいだろ?」
「ダーメ。ほら、ネクタイって束縛されてるみたいでしょ? だからこれから会社に行くときは瀬菜に毎日選んでもらうんだ♡」
「俺は……別に束縛なんて……」
「そう? なら二人でアメリカ旅行したとき──」
「わわわぁ~~! 分かったよ! ほら、これでみんながときめく王子だよ。満足か!」

 スクスク笑う悠斗の首に、直感で選んだネクタイを掛ける。三年生になり二人の関係が落ち着いた頃に行ったアメリカ旅行のことを言われると、束縛に関してはなにも言えなくなる俺だ。


 あれから二年の月日が流れ、俺たちは今日、大学生最後の一日を迎えようとしていた。大学四年間は、まさに嵐の如く波風を立てながら過ぎていった。
 振り返ってみても、思い出を語るには一日では時間が足りなそうだ。沢山悩み泣いて、沢山喜び笑い合った。
 ただ淡々と過ぎていく……四年前まではそう思っていたけれど、大学生活は高校の頃よりも感情が揺さぶられ、忍耐を学んで来れたかもしれない。

 社会に出ればおそらくもっと悩み、困難に立ち向かう強い精神が必要になるのだろう。それでも誰もが俺たちを認めてくれるように、一人前になろうと二人で約束を交わした。
 四年生の就職活動で内定はいくつかもらえたが、最終的に俺が選んだのはリッカグループだ。俺がリッカを選んだのには……立花家と柳家を巻き込みつつまぁ、色々あった。
 平凡な取り柄のない俺は贔屓だと言われ、目の敵にされるのも重々承知している。それは悠斗も同じで、親の七光りと俺よりもさらに陰口を叩かれるはずだ。だからこそ、俺が支えていきたい……そう考えての決断だった。高校受験の頃から目標にしていた俺の夢が、大学四年間で勉強してきたことがやっと実になる。
 最初は望み通りとはいかないが、最終的には佐伯さんのようなポジション、つまり悠斗の秘書になることが目的だった。
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