王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第26幕 iの意味

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 涙を拭い「へへっ……下手っぴだよ?」と伝えると、データーが入ったタブレットを取りに、趣味用に充てがった小部屋に向かおうとし立ち止まる。
 そういえば……部長には何度も言われた。

『柳の写真はいつも切ないな~』
『どんな気持ちで毎日撮ってるんだ?』
『お前、もしかして片想いでもしてるのか?』

 部長の言葉を思い出すと顔を真っ赤に染め、耳まで痛いぐらいに熱くなる。ドクドクと心臓が鳴り響き胸を叩いてくる。
 散々気持ちを吐露して、今さら羞恥もなにもない訳だが、言葉にするのと写真を見られるとでは、レベルが遥かに異なる。例えるなら丸裸にされてしまう……そんな気分。

 悠斗が俺の写真を見ながら、どう思うかは正直分からない。けれど雑誌に掲載されたカットだけで、感想をスラスラ口にしていたのだ。
 写真を悠斗に見せる──ということは、すなわち悠斗に対する俺の想いをぶち撒けることに繋がる。
 事情を知らない部長にもダダ漏れの俺の写真。一枚、また一枚と捲る度、『好き……逢いたい……』っと言っているようなものではないか。
 今まで自分が撮った写真を脳裏に浮かべ、見せるべきではないのではと頭を抱えていた。

「……瀬菜? もしかして酔ってる?」
「へっ? あっ、うん! あっ、でも全然酔ってない!」

 心配そうに俺に歩み寄る悠斗が、俯く俺の前にしゃがみ込み俺の両手を握ってくる。

「酔ってるのに全然酔ってないって、それ……どっちなの?」
「へへっ……どっちだろ」
「瀬菜の酔っ払い姿、どんなか知っているけどな」
「あれだよ! ほろ酔いみたいな……悠斗は? 眠くない?」

 目を泳がせながら言い訳を探す俺を、探るように覗き込む悠斗。きっと俺の心のうちを知ったら、余計に見せろとせがまれるに違いない。

「……あのさ、今日はもう遅いし、また今度にしよ!」
「ん? 休みだし、少しぐらい夜ふかししても……」
「あはは……いや、そうだけど……ほら、お風呂も入らないとだし!」
「お酒飲んでるのに?」
「ベッドには清い身体で入りたいだろ?」
「あぁ、そっか……うん」

 不服そうにしていた悠斗は、ニコリと笑顔で立ち上がり、スッと手を頬に滑らせると耳元に顔を寄せ、蕩ける甘い声を送り込んだ。

「……セックスしたいなら、そう言ってくれればいいのに。最近してなかったし、我慢できないってことだよね?」
「──ッ! なっなっなっ‼︎」

 クスクスと笑いながら、悠斗は勘違いをしている様子。考えてもいなかったことを言われ、ひとり焦るのだった。
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