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第26幕 iの意味
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お湯を沸かしながら日本茶用に急須を棚から出した。おそらく佐伯さんも来ていると思い湯呑茶碗を自分たちの分と合わせて四客用意した。
「ほぉー……いい部屋じゃないか。だか少し狭くないか?」
リビングまで聞こえてきた声にビクッと肩を揺らす。
声の主のあとを追うように悠斗の声も聞こえてきた。
「急の訪問でずいぶんな言いようですね。嫌味でも言いに?」
「あ~……悠斗君。急にごめんね?」
リビングに入って来た人物を目視すると、頭で分かっていたはずだが茶葉をドバっと急須に入れてしまった。
「祐一さんが謝る必要はないですよ。どうせ爺様が駄々捏ねたんでしょ?」
「うぅ……悠斗くんそんな言い方しないでよ。たまたま……近くを通って……」
「悠斗、お前が招待しないのが悪い」
「はいはい……取り敢えずウロウロしないで、ソファーに座っていてください」
ため息をつき俺に視線を移す悠斗は「五人分だった」と、俺の手伝いをしてくれた。俺の手元に視線を移した悠斗はクスッと笑い、入れ過ぎた茶葉をお皿に移していく。
「これじゃ凄く苦くなっちゃうよ」
「ははは……ちょっと驚いて」
来客は悠斗のおじいさんと祐一さん佐伯さんの三人だった。仕事の途中でたまたまマンションの前を通りかかったと、三人共スーツ姿できっちりとしている。
たまたまとはいえ、いったいどうしたのだろう。落ち着き皮肉交じりに対応する悠斗とは違い、俺はひとり不安になり慌てふためいていた。
動揺し色々なことを憶測していると、違うことにハッとする。先ほどまでおやつでもくれるかもしれないと、俺の回りをウロウロと彷徨っていたユウの姿が見当たらない。急な来客に気が回らなかった。
サーッと顔を青くさせ、キョロキョロと部屋を見渡す。気を許さない相手に威嚇する性格だ。飛びついてスーツを汚してしまっては大変だ。そんな俺の気持ちとは裏腹に、ユウは尻尾を振りながら行儀よくお座りをしていた。
「お前、大きくなったね。迷惑は掛けていないか?」
「ワフッ!」
にこやかにユウの頭を撫でるおじいさん姿。大人しく愛想を振り撒き素直に喜ぶユウ。
まるで自分の本当の主人はおじいさんだと、頭を垂れる姿にハッとする。
──ユウを俺に託したのは……。
脚長おじさんは……悠斗のおじいさんなんだ。
お茶を出すとおじいさんと視線が合い微笑みかけられた。高校を卒業した日以来で少し目尻の皺が増えたが、相変わらず若々しい。
「瀬菜ちゃんも久し振りだね。元気にしていたかね?」
「……はい。おじいさんもお変わりないですか?」
「あぁ、歳は取ったよ。君は背が伸びた? それに色っぽくなったね? 色々経験したのかな?」
「色っぽいかどうかは分かりませんが、少しだけ伸びたんです。経験は……色々あったかもしれないです」
立ちながら会話をする俺に、悠斗が床にクッションを置き座るように言う。悠斗と二人で並びちょこんと腰掛けると、なんだか会社の重役たちにこれからお説教を受けるような気分だ。
「ほぉー……いい部屋じゃないか。だか少し狭くないか?」
リビングまで聞こえてきた声にビクッと肩を揺らす。
声の主のあとを追うように悠斗の声も聞こえてきた。
「急の訪問でずいぶんな言いようですね。嫌味でも言いに?」
「あ~……悠斗君。急にごめんね?」
リビングに入って来た人物を目視すると、頭で分かっていたはずだが茶葉をドバっと急須に入れてしまった。
「祐一さんが謝る必要はないですよ。どうせ爺様が駄々捏ねたんでしょ?」
「うぅ……悠斗くんそんな言い方しないでよ。たまたま……近くを通って……」
「悠斗、お前が招待しないのが悪い」
「はいはい……取り敢えずウロウロしないで、ソファーに座っていてください」
ため息をつき俺に視線を移す悠斗は「五人分だった」と、俺の手伝いをしてくれた。俺の手元に視線を移した悠斗はクスッと笑い、入れ過ぎた茶葉をお皿に移していく。
「これじゃ凄く苦くなっちゃうよ」
「ははは……ちょっと驚いて」
来客は悠斗のおじいさんと祐一さん佐伯さんの三人だった。仕事の途中でたまたまマンションの前を通りかかったと、三人共スーツ姿できっちりとしている。
たまたまとはいえ、いったいどうしたのだろう。落ち着き皮肉交じりに対応する悠斗とは違い、俺はひとり不安になり慌てふためいていた。
動揺し色々なことを憶測していると、違うことにハッとする。先ほどまでおやつでもくれるかもしれないと、俺の回りをウロウロと彷徨っていたユウの姿が見当たらない。急な来客に気が回らなかった。
サーッと顔を青くさせ、キョロキョロと部屋を見渡す。気を許さない相手に威嚇する性格だ。飛びついてスーツを汚してしまっては大変だ。そんな俺の気持ちとは裏腹に、ユウは尻尾を振りながら行儀よくお座りをしていた。
「お前、大きくなったね。迷惑は掛けていないか?」
「ワフッ!」
にこやかにユウの頭を撫でるおじいさん姿。大人しく愛想を振り撒き素直に喜ぶユウ。
まるで自分の本当の主人はおじいさんだと、頭を垂れる姿にハッとする。
──ユウを俺に託したのは……。
脚長おじさんは……悠斗のおじいさんなんだ。
お茶を出すとおじいさんと視線が合い微笑みかけられた。高校を卒業した日以来で少し目尻の皺が増えたが、相変わらず若々しい。
「瀬菜ちゃんも久し振りだね。元気にしていたかね?」
「……はい。おじいさんもお変わりないですか?」
「あぁ、歳は取ったよ。君は背が伸びた? それに色っぽくなったね? 色々経験したのかな?」
「色っぽいかどうかは分かりませんが、少しだけ伸びたんです。経験は……色々あったかもしれないです」
立ちながら会話をする俺に、悠斗が床にクッションを置き座るように言う。悠斗と二人で並びちょこんと腰掛けると、なんだか会社の重役たちにこれからお説教を受けるような気分だ。
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