王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
689 / 716
第26幕 iの意味

08

しおりを挟む
 お湯を沸かしながら日本茶用に急須を棚から出した。おそらく佐伯さんも来ていると思い湯呑茶碗を自分たちの分と合わせて四客用意した。

「ほぉー……いい部屋じゃないか。だか少し狭くないか?」

 リビングまで聞こえてきた声にビクッと肩を揺らす。
 声の主のあとを追うように悠斗の声も聞こえてきた。

「急の訪問でずいぶんな言いようですね。嫌味でも言いに?」
「あ~……悠斗君。急にごめんね?」

 リビングに入って来た人物を目視すると、頭で分かっていたはずだが茶葉をドバっと急須に入れてしまった。

「祐一さんが謝る必要はないですよ。どうせ爺様が駄々捏ねたんでしょ?」
「うぅ……悠斗くんそんな言い方しないでよ。たまたま……近くを通って……」
「悠斗、お前が招待しないのが悪い」
「はいはい……取り敢えずウロウロしないで、ソファーに座っていてください」

 ため息をつき俺に視線を移す悠斗は「五人分だった」と、俺の手伝いをしてくれた。俺の手元に視線を移した悠斗はクスッと笑い、入れ過ぎた茶葉をお皿に移していく。

「これじゃ凄く苦くなっちゃうよ」
「ははは……ちょっと驚いて」

 来客は悠斗のおじいさんと祐一さん佐伯さんの三人だった。仕事の途中でたまたまマンションの前を通りかかったと、三人共スーツ姿できっちりとしている。
 たまたまとはいえ、いったいどうしたのだろう。落ち着き皮肉交じりに対応する悠斗とは違い、俺はひとり不安になり慌てふためいていた。
 動揺し色々なことを憶測していると、違うことにハッとする。先ほどまでおやつでもくれるかもしれないと、俺の回りをウロウロと彷徨っていたユウの姿が見当たらない。急な来客に気が回らなかった。
 サーッと顔を青くさせ、キョロキョロと部屋を見渡す。気を許さない相手に威嚇する性格だ。飛びついてスーツを汚してしまっては大変だ。そんな俺の気持ちとは裏腹に、ユウは尻尾を振りながら行儀よくお座りをしていた。

「お前、大きくなったね。迷惑は掛けていないか?」
「ワフッ!」

 にこやかにユウの頭を撫でるおじいさん姿。大人しく愛想を振り撒き素直に喜ぶユウ。
 まるで自分の本当の主人はおじいさんだと、頭を垂れる姿にハッとする。

 ──ユウを俺に託したのは……。
 脚長おじさんは……悠斗のおじいさんなんだ。

 お茶を出すとおじいさんと視線が合い微笑みかけられた。高校を卒業した日以来で少し目尻の皺が増えたが、相変わらず若々しい。

「瀬菜ちゃんも久し振りだね。元気にしていたかね?」
「……はい。おじいさんもお変わりないですか?」
「あぁ、歳は取ったよ。君は背が伸びた? それに色っぽくなったね? 色々経験したのかな?」
「色っぽいかどうかは分かりませんが、少しだけ伸びたんです。経験は……色々あったかもしれないです」

 立ちながら会話をする俺に、悠斗が床にクッションを置き座るように言う。悠斗と二人で並びちょこんと腰掛けると、なんだか会社の重役たちにこれからお説教を受けるような気分だ。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...