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第26幕 iの意味
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「あっ、やばい遅刻する。今日一限から講義入ってるからもう行かないと」
「早くない?」
「うん、まぁちょっと……昨日休んだし。それじゃまたあとでな」
「瀬菜待って、忘れ物」
玄関で靴を履き家を出ようとすると、悠斗に腕を掴まれ引き止められた。鍵は引っ越した日に渡され、鞄に入れたはずだ。新しい携帯番号も早々に伝え、待ち合わせには困らない。
「……あっ! カメラ!」
「クスッ、大切でしょ? それと……」
悠斗の顔が迫り唇を啄まれる。目を広げ固まる俺は、みるみる顔が熱く火照ってしまう。
「これも大切だよ? 俺もあとで追いかける。お昼は一緒に食べよ?」
「う、うん……行って……来ます……」
ニコニコ顔の悠斗に手を振られ、初めて新居から大学へと向かった。
景色が異なる道に晴れた朝の空気が気持ちいい。どんよりと過ごしていた数日前と今では、足取りも軽やかで世界が百八十度変わる。しばらくはこの幸せな日々を堪能したい。だからニヤつく顔を他人がどう思おうと、気になどしていなかった。
教室に入ると、入り口でキョロキョロと座席を見渡した。あれから玉夫とは連絡を取っていない。早く来たのは玉夫と顔を合わせて話をしたかったからでもある。
……来てないか。
そりゃ……そうだよな……。
折角早く来たのに仕方がないかと、座る場所を確保すべく歩を進めると、肩に掛けたメッセンジャーバッグの紐をグイッと掴まれ後退った。
「おはよ。瀬菜ちゃん。今日はずいぶん早いじゃん」
俺を抱き込むようにし上から見下ろす玉夫は、普段と変わらず調子のいい口調で俺に笑い掛けていた。
「はよ。いきなり掴むなよ。危ないだろ」
「フッ、ちゃんと抱きしめてるでしょが」
「そうかよ」
「昨日来てなかったから寂しくて。一日一瀬菜ちゃんは、やっぱり必要だわ」
「はいはい。俺も寂しかったよ。それより、あのあと大丈夫だったか? みんなにその……いじめられたり」
「あぁ、まぁ……程ほどに? それと、改めて……ごめん。俺の顔見たくないなら……」
それ以上言わせまいと玉夫の両頬を、両手でパチンと挟み込む。
「玉夫、言ったろ? お前は俺の友達だ。約束しただろ? これからもって!」
「フッ……そうだね。瀬菜ちゃんは変わり者だった。……座ろっか」
玉夫は俺の頭をポンポンとし、うしろの座席を指差すと階段を登っていく。普段通りの玉夫にホッとすると、俺も玉夫のあとを追いかけた。
「瀬菜ちゃんはあのあとどうだったの?」
「……どうって、まだ話すことは沢山あるけど、取り敢えず仲直りした」
「なら、頑張った甲斐はあったんだ」
「うん……玉夫のおかげかな。あんなことがなかったら、俺まだ殻に閉じこもったままだった気がする」
「フッ、複雑だけど……こんな俺でも役に立ったなら、少しは気が楽だよ」
「ああ、ありがとう……」
教室のうしろ側の席に座り、講義が始まるまで玉夫の質問に答えていた。悠斗とのことは玉夫は聞きたくないと思っていたが、嫌な顔せず聞いてくれた。
「早くない?」
「うん、まぁちょっと……昨日休んだし。それじゃまたあとでな」
「瀬菜待って、忘れ物」
玄関で靴を履き家を出ようとすると、悠斗に腕を掴まれ引き止められた。鍵は引っ越した日に渡され、鞄に入れたはずだ。新しい携帯番号も早々に伝え、待ち合わせには困らない。
「……あっ! カメラ!」
「クスッ、大切でしょ? それと……」
悠斗の顔が迫り唇を啄まれる。目を広げ固まる俺は、みるみる顔が熱く火照ってしまう。
「これも大切だよ? 俺もあとで追いかける。お昼は一緒に食べよ?」
「う、うん……行って……来ます……」
ニコニコ顔の悠斗に手を振られ、初めて新居から大学へと向かった。
景色が異なる道に晴れた朝の空気が気持ちいい。どんよりと過ごしていた数日前と今では、足取りも軽やかで世界が百八十度変わる。しばらくはこの幸せな日々を堪能したい。だからニヤつく顔を他人がどう思おうと、気になどしていなかった。
教室に入ると、入り口でキョロキョロと座席を見渡した。あれから玉夫とは連絡を取っていない。早く来たのは玉夫と顔を合わせて話をしたかったからでもある。
……来てないか。
そりゃ……そうだよな……。
折角早く来たのに仕方がないかと、座る場所を確保すべく歩を進めると、肩に掛けたメッセンジャーバッグの紐をグイッと掴まれ後退った。
「おはよ。瀬菜ちゃん。今日はずいぶん早いじゃん」
俺を抱き込むようにし上から見下ろす玉夫は、普段と変わらず調子のいい口調で俺に笑い掛けていた。
「はよ。いきなり掴むなよ。危ないだろ」
「フッ、ちゃんと抱きしめてるでしょが」
「そうかよ」
「昨日来てなかったから寂しくて。一日一瀬菜ちゃんは、やっぱり必要だわ」
「はいはい。俺も寂しかったよ。それより、あのあと大丈夫だったか? みんなにその……いじめられたり」
「あぁ、まぁ……程ほどに? それと、改めて……ごめん。俺の顔見たくないなら……」
それ以上言わせまいと玉夫の両頬を、両手でパチンと挟み込む。
「玉夫、言ったろ? お前は俺の友達だ。約束しただろ? これからもって!」
「フッ……そうだね。瀬菜ちゃんは変わり者だった。……座ろっか」
玉夫は俺の頭をポンポンとし、うしろの座席を指差すと階段を登っていく。普段通りの玉夫にホッとすると、俺も玉夫のあとを追いかけた。
「瀬菜ちゃんはあのあとどうだったの?」
「……どうって、まだ話すことは沢山あるけど、取り敢えず仲直りした」
「なら、頑張った甲斐はあったんだ」
「うん……玉夫のおかげかな。あんなことがなかったら、俺まだ殻に閉じこもったままだった気がする」
「フッ、複雑だけど……こんな俺でも役に立ったなら、少しは気が楽だよ」
「ああ、ありがとう……」
教室のうしろ側の席に座り、講義が始まるまで玉夫の質問に答えていた。悠斗とのことは玉夫は聞きたくないと思っていたが、嫌な顔せず聞いてくれた。
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