王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
683 / 716
第26幕 iの意味

02

しおりを挟む
「あっ、やばい遅刻する。今日一限から講義入ってるからもう行かないと」
「早くない?」
「うん、まぁちょっと……昨日休んだし。それじゃまたあとでな」
「瀬菜待って、忘れ物」

 玄関で靴を履き家を出ようとすると、悠斗に腕を掴まれ引き止められた。鍵は引っ越した日に渡され、鞄に入れたはずだ。新しい携帯番号も早々に伝え、待ち合わせには困らない。

「……あっ! カメラ!」
「クスッ、大切でしょ? それと……」

 悠斗の顔が迫り唇を啄まれる。目を広げ固まる俺は、みるみる顔が熱く火照ってしまう。

「これも大切だよ? 俺もあとで追いかける。お昼は一緒に食べよ?」
「う、うん……行って……来ます……」

 ニコニコ顔の悠斗に手を振られ、初めて新居から大学へと向かった。
 景色が異なる道に晴れた朝の空気が気持ちいい。どんよりと過ごしていた数日前と今では、足取りも軽やかで世界が百八十度変わる。しばらくはこの幸せな日々を堪能したい。だからニヤつく顔を他人がどう思おうと、気になどしていなかった。



 教室に入ると、入り口でキョロキョロと座席を見渡した。あれから玉夫とは連絡を取っていない。早く来たのは玉夫と顔を合わせて話をしたかったからでもある。

 ……来てないか。
 そりゃ……そうだよな……。

 折角早く来たのに仕方がないかと、座る場所を確保すべく歩を進めると、肩に掛けたメッセンジャーバッグの紐をグイッと掴まれ後退った。

「おはよ。瀬菜ちゃん。今日はずいぶん早いじゃん」

 俺を抱き込むようにし上から見下ろす玉夫は、普段と変わらず調子のいい口調で俺に笑い掛けていた。

「はよ。いきなり掴むなよ。危ないだろ」
「フッ、ちゃんと抱きしめてるでしょが」
「そうかよ」
「昨日来てなかったから寂しくて。一日一瀬菜ちゃんは、やっぱり必要だわ」
「はいはい。俺も寂しかったよ。それより、あのあと大丈夫だったか? みんなにその……いじめられたり」
「あぁ、まぁ……程ほどに? それと、改めて……ごめん。俺の顔見たくないなら……」

 それ以上言わせまいと玉夫の両頬を、両手でパチンと挟み込む。

「玉夫、言ったろ? お前は俺の友達だ。約束しただろ? これからもって!」
「フッ……そうだね。瀬菜ちゃんは変わり者だった。……座ろっか」

 玉夫は俺の頭をポンポンとし、うしろの座席を指差すと階段を登っていく。普段通りの玉夫にホッとすると、俺も玉夫のあとを追いかけた。


「瀬菜ちゃんはあのあとどうだったの?」
「……どうって、まだ話すことは沢山あるけど、取り敢えず仲直りした」
「なら、頑張った甲斐はあったんだ」
「うん……玉夫のおかげかな。あんなことがなかったら、俺まだ殻に閉じこもったままだった気がする」
「フッ、複雑だけど……こんな俺でも役に立ったなら、少しは気が楽だよ」
「ああ、ありがとう……」

 教室のうしろ側の席に座り、講義が始まるまで玉夫の質問に答えていた。悠斗とのことは玉夫は聞きたくないと思っていたが、嫌な顔せず聞いてくれた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...