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第25幕 伝えるということ
05
しおりを挟む悠斗は辛そうにしながら、気持ち吐露してくれた。俺の考えなどお見通しなのかもしれない。
「悠斗、俺ね……あれから毎日がつまらなくて、灰色で、他人と関わるのがイヤだった。自分が被害者だって思い込んで……シンドイのごまかしていた」
「瀬菜……それは俺がそうさせてしまったんだね?」
クシャリと顔を歪ませる悠斗は、瞳を潤ませながら俺の手をそっと握りしめた。包み込む手のぬくもりに、俺の目頭も熱くなる。
しっかりと伝えなければとツーンとする鼻を啜り、悠斗の言葉に首を振り違うと訴えた。
「悠斗が言うように、卒業するまで帰って来て欲しくはなかった。会えば嬉しい。けど悠斗を送るたびに次に会える日を催促しちゃう。あっちの大学大変なのに、俺のせいで卒業が伸びるの嫌だった」
「それであんな態度を?」
その質問に俺は首を横に振り答えた。
「あのときは色んな感情が渦巻いていて、正直どれが本当か分からないんだ。でも、悠斗と別れたら全部丸く収まると思った。悠斗が日本に帰って来る意味もなくなるって、自分にずっと嘘をついて悲劇のヒロイン気取ってたんだ」
ヘラリと笑う俺に悠斗は顔を紅くし俯くと、今度は両手で俺の手を包んだ。その手は少し震えているような気がする。
「番号は? なんで変えたの?」
「スマホを変えたのは……悠斗と終わったことへの気持ちの切り替え。思い出を消したらスッキリした。だから……いっそ『柳瀬菜は居なかった』ってほうが、みんなだって気にならないだろ?」
「そんなことない……ずっとみんな気にしてた。前よりもっと、瀬菜の存在が大きくなっていた。瀬菜だって、ココにしっかり残っていたでしょ?」
胸をトンと叩かれる。忘れようとしても思い出すのは、みんなと過ごした楽しかった思い出。物理的にデータを消したところで色褪せることなく、なにかある度に脳裏に浮かんでいた。
「……うん。消してしまったこと、何度も後悔した。強がってひとりで生きることも。久々に多澤と由良りんに再会したとき、番号渡されて俺、安心したんだ。実千流の泣いてる姿見て、もっと後悔した」
「それはみんなにも言ってあげて。きっと喜ぶよ?」
悠斗は納得したように頷いていた。その表情はどこか安心し穏やかだ。
「……俺、悠斗もみんなもいっぱい巻き込んで傷付けた。多澤と由良りんには嘘も付いたし、酷い言葉も言っちゃった」
なにかあれば駆けつけてくれる仲間たち。俺があんな態度を取ったあとでも、変わらず力になってくれる。
「ふふっ、確かに雅臣は今回大変だったかも。でも、瀬菜のこと可愛い弟みたいに思っているから。ボヤいていたけど、なんだかんだね? まぁカナちゃんは……瀬菜ラブだしね?」
「ちゃんと……謝りたい」
「うん、よかった……瀬菜ちっとも変わってない。頑固で意地っ張りだけど、素直でいい子のままだ」
「そんなことない……俺、全然成長できてない。先のこと考えなしで失敗ばっかり。今回、玉夫のことでも──ッ」
全てを言い終えていない俺の唇に、ピタッと悠斗の人差し指が重ねられ言葉を遮られてしまう。
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