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第25幕 伝えるということ
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『──俺に触るなッ‼ お前なんか勝手に好きな場所に行ってしまえ! 理由も言えない癖になにが愛してるだ! 嘘つきッ……嫌いッ……大ッキライだ! もう二度と俺の前に現れるな‼』
本当に言いたかった言葉を言えないまま、怒りだけを投げつけ悠斗に悲しい顔をさせてしまった。カツンカツンと銀色の欠片が飛び散り、転がるキューブを荒い息を吐き出しながら呆然と眺めていた。
そして俺はそのまま逃げ出した。ひとりになる恐怖から殻に籠もり、自身の身を守ったのだ。その殻はとても硬く、真実さえも閉じ込めていた──。
「ねぇ、瀬菜。俺と一緒に居るのは嫌?」
「……っ……ぃ……」
「俺はまた……瀬菜と一緒に過ごしたいよ?」
あんなことを言ってしまったというのに、悠斗は俺を許してくれるのか。
ぐっと腹に力を込めるが、感情の昂りがいうことを聞いてくれない。くいしばった唇が開くと俺は叫んでいた。
「──俺だってッ! ずっと一緒に居たかったッ! 一緒に……一緒にアメリカに着いて来てってッ……例え無理でも、嘘でもッ……ひと言ッ……ひと言だけでもッ、そう言って欲しかったんだ‼」
あの日言えなかった言葉が溢れてくる。言葉と共にポロポロと大粒の涙が零れて止まらない。
そっと引き寄せられると、悠斗の胸に頭を預けながら、大きな胸をポスポスと何度も何度も叩いた。
「……俺も瀬菜を連れて行きたかった。それは本当なんだ。あの時はとうしても言えなかった。次に日本を離れるときは瀬菜も一緒に連れて行く。もう待たせたりしない……だから俺を許して……」
悠斗は声を震わせながらそう言うと、俺を強く抱きしめてきた。背中が軋み苦しいはずなのに、力強い抱擁が悠斗の気持ちを代弁しているようで胸が熱くなる。離れたくない……許して……受け入れてと……。
「……うッ……んッ……悠斗ッ……苦しッ……」
「あっ! ごめん……」
慌てて腕を離す悠斗にコクリと頷き大丈夫と伝えると、悠斗の焦り具合に思わず頬が緩んでしまう。スーッと深呼吸をし涙を拭うと、チラリと視線だけを上げた。
心配そうにしながらどこか不安を纏う瞳が、ゆらゆらと揺れている。悠斗は指先を俺の頬に近づけるが、触れることなく躊躇うように静止した。
遠慮などしなくていいというのに、悠斗は俺に気遣っているのだろう。許しを待っているのだ。だから自ら口を開いた。
「あのさ……お願いがあるんだ……」
「……お願い?」
「俺、ここ何年か、まともに飯食べていないんだ。誰のせいとは言わないけど……だからさ、美味しい手料理食べさせてくれたら許しちゃうかも。ユウにもいい加減ご飯あげなきゃだし、あーでも、食材ないから買い出しから……って……悠斗? ……ダメかな?」
目を大きく広げ俺を見つめる悠斗に、首を傾げダメかと苦笑いすると、今度は優しく俺を包み込んでくれた。
「ダメじゃない……瀬菜がカッコいい。瀬菜が男前。瀬菜がイケメン」
「へへっ、なんだよそれ……ほとんど同じような意味じゃんか」
「だって……ふふっ、なにが食べたい?」
「うーん。ハンバーグかな? 肉汁たっぷりで、半熟の目玉焼き乗ったやつ」
「ヴゥ~~ワンッ!」
俺たちの話を聞いていたかのようにユウも賛成の声をあげる。
「ははっ、なんだよお前も食べたいのか?」
「バゥッ!」
「クスッ、賢い子だね。なら君には玉ねぎ抜きで作ってあげるね?」
俺たちを見上げ、ブンブンと尻尾を盛大に振るユウは、涎が垂れそうな口を開けペロリと鼻を舐め舌を垂らしている。ハァハァと呼吸を繰り返し、美味しいご馳走が食べられると機嫌よく笑っていた。
本当に言いたかった言葉を言えないまま、怒りだけを投げつけ悠斗に悲しい顔をさせてしまった。カツンカツンと銀色の欠片が飛び散り、転がるキューブを荒い息を吐き出しながら呆然と眺めていた。
そして俺はそのまま逃げ出した。ひとりになる恐怖から殻に籠もり、自身の身を守ったのだ。その殻はとても硬く、真実さえも閉じ込めていた──。
「ねぇ、瀬菜。俺と一緒に居るのは嫌?」
「……っ……ぃ……」
「俺はまた……瀬菜と一緒に過ごしたいよ?」
あんなことを言ってしまったというのに、悠斗は俺を許してくれるのか。
ぐっと腹に力を込めるが、感情の昂りがいうことを聞いてくれない。くいしばった唇が開くと俺は叫んでいた。
「──俺だってッ! ずっと一緒に居たかったッ! 一緒に……一緒にアメリカに着いて来てってッ……例え無理でも、嘘でもッ……ひと言ッ……ひと言だけでもッ、そう言って欲しかったんだ‼」
あの日言えなかった言葉が溢れてくる。言葉と共にポロポロと大粒の涙が零れて止まらない。
そっと引き寄せられると、悠斗の胸に頭を預けながら、大きな胸をポスポスと何度も何度も叩いた。
「……俺も瀬菜を連れて行きたかった。それは本当なんだ。あの時はとうしても言えなかった。次に日本を離れるときは瀬菜も一緒に連れて行く。もう待たせたりしない……だから俺を許して……」
悠斗は声を震わせながらそう言うと、俺を強く抱きしめてきた。背中が軋み苦しいはずなのに、力強い抱擁が悠斗の気持ちを代弁しているようで胸が熱くなる。離れたくない……許して……受け入れてと……。
「……うッ……んッ……悠斗ッ……苦しッ……」
「あっ! ごめん……」
慌てて腕を離す悠斗にコクリと頷き大丈夫と伝えると、悠斗の焦り具合に思わず頬が緩んでしまう。スーッと深呼吸をし涙を拭うと、チラリと視線だけを上げた。
心配そうにしながらどこか不安を纏う瞳が、ゆらゆらと揺れている。悠斗は指先を俺の頬に近づけるが、触れることなく躊躇うように静止した。
遠慮などしなくていいというのに、悠斗は俺に気遣っているのだろう。許しを待っているのだ。だから自ら口を開いた。
「あのさ……お願いがあるんだ……」
「……お願い?」
「俺、ここ何年か、まともに飯食べていないんだ。誰のせいとは言わないけど……だからさ、美味しい手料理食べさせてくれたら許しちゃうかも。ユウにもいい加減ご飯あげなきゃだし、あーでも、食材ないから買い出しから……って……悠斗? ……ダメかな?」
目を大きく広げ俺を見つめる悠斗に、首を傾げダメかと苦笑いすると、今度は優しく俺を包み込んでくれた。
「ダメじゃない……瀬菜がカッコいい。瀬菜が男前。瀬菜がイケメン」
「へへっ、なんだよそれ……ほとんど同じような意味じゃんか」
「だって……ふふっ、なにが食べたい?」
「うーん。ハンバーグかな? 肉汁たっぷりで、半熟の目玉焼き乗ったやつ」
「ヴゥ~~ワンッ!」
俺たちの話を聞いていたかのようにユウも賛成の声をあげる。
「ははっ、なんだよお前も食べたいのか?」
「バゥッ!」
「クスッ、賢い子だね。なら君には玉ねぎ抜きで作ってあげるね?」
俺たちを見上げ、ブンブンと尻尾を盛大に振るユウは、涎が垂れそうな口を開けペロリと鼻を舐め舌を垂らしている。ハァハァと呼吸を繰り返し、美味しいご馳走が食べられると機嫌よく笑っていた。
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