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第24幕 甘い誘惑と苦い後悔
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チラシを机に並べ絵美先輩と二人で受付をし、ほかのメンバーは看板を手にチラシ配りに奮闘していた。
絵美先輩と女子トークをしながら、フワリと作り笑顔を繕い、通り過ぎる生徒に存在感を植え付ける。少しでも興味を持ってくれればという思いだ。
「柳君って、意外と役者だね」
「そうですか?」
「うん、だって結構チラシ減ったよ? これじゃ女子より男子が、増えるかな?」
「なら、明日は俺男になっていいですかね?」
「駄目だよ、そうやって職務放棄するのは。女子も居るよってアピールが大事なの!」
「俺の口角死にますよ……」
「ははっ、普段笑ってないんだから鍛えなさい」
「はい……」
新入生はまだなにも知らずに、不安と期待を抱いている。新鮮で緊張した様子の生徒が通り過ぎると羨ましくて、あの頃に戻れたらいいな……と、過去を振り返ってしまうぐらいは許されるのだろうか。
二日目も朝から勧誘のためにテーブルを並べる。初日よりは大分熱は冷めた構内も、声を枯らしながら各サークルのアピールは途切れない。
昨日は初日の対策と反省だと、部長の音頭で夜遅くまで飲み明かしていた。中途半端に飲んだせいか考え事が多いせいか、帰ってから寝つくことができなかった。大きく欠伸をしながら今日も早朝から受付をしていた。
「あれー? 柳君、昨日は飲んでなかったのに寝不足?」
「まぁ、お酒はしばらく控えようかなと……絵美先輩は眠くないんですか?」
「眠いわよ。でも未来の夫を探して、こうして頑張ってるの」
「あー……大変ですね……」
「あーーその言い方! 柳君もスペック高そうな人見つけたら教えてね!」
「はいはい……」
朝は相変わらず苦手だ。ボーッとする頭で登校する学生を眺めていた。
昨日は笑顔を作り過ぎたせいで、予想通り顔面が筋肉痛になっていた。初日に十分貢献したのだ。俺の役目は終わりと打って変わってヤル気ゼロ状態。
肩まであるウイッグのサイドに落ちる髪を壁にして居眠りしていても、絵美先輩は夫探しに夢中で気付かなそうだ。ウトウトする瞼を閉じ、そっと眠りに興じていた。
どれぐらい意識を手放していたのか。ずいぶん眠っていたような気がする。ぼーっとする思考でスマホを点滅させると、二十分ほど経っていた。
「……へぇーそうなんだ。なら是非うちのサークル入らない?」
「そうですね……考えておきます。それより聞いても?」
「えっ! ナニナニ? オネェさんがなんでも教えちゃう♡ あっ、でもスリーサイズは内緒よ! うふふ♡」
ウイッグの隙間からチラリと横を覗くと、絵美先輩が立ち上がりウキウキと弾む声で会話をしている。
俺は俺でいつの間にか隣に座る玉夫の肩に頭を預けて爆睡していたらしい。
「あっ、起きた? もう少しで地面に激突だよ。いくらでも肩貸したげる。膝枕でもいいよ♡」
「いや、悪い……はぁ~、四月って眠いよな」
目を擦ろうとすると、玉夫に手首を掴まれ「パンダになりたいの?」と、自分が化粧をしていたことを思い出す。
「昨日も遅かったし、まだ眠いなら寝てなよ」
「これ以上寝たら動けなくなる」
大きく伸びをしながら瞬きし、ボヤける視界をクリアにする。
覚醒し横を向いた途端に俺の頭の中は真っ白になった。
「瀬菜ちゃん?」
「あーそれなら彼女……というか、彼の作品だけど……ふふふ」
絵美先輩が俺を指すと、会話をしていた相手は驚きながら俺を見つめていた。
固まる俺の視線の先に玉夫も顔を向けると、みるみるうちに鬼の形相に変わっていった。
絵美先輩と女子トークをしながら、フワリと作り笑顔を繕い、通り過ぎる生徒に存在感を植え付ける。少しでも興味を持ってくれればという思いだ。
「柳君って、意外と役者だね」
「そうですか?」
「うん、だって結構チラシ減ったよ? これじゃ女子より男子が、増えるかな?」
「なら、明日は俺男になっていいですかね?」
「駄目だよ、そうやって職務放棄するのは。女子も居るよってアピールが大事なの!」
「俺の口角死にますよ……」
「ははっ、普段笑ってないんだから鍛えなさい」
「はい……」
新入生はまだなにも知らずに、不安と期待を抱いている。新鮮で緊張した様子の生徒が通り過ぎると羨ましくて、あの頃に戻れたらいいな……と、過去を振り返ってしまうぐらいは許されるのだろうか。
二日目も朝から勧誘のためにテーブルを並べる。初日よりは大分熱は冷めた構内も、声を枯らしながら各サークルのアピールは途切れない。
昨日は初日の対策と反省だと、部長の音頭で夜遅くまで飲み明かしていた。中途半端に飲んだせいか考え事が多いせいか、帰ってから寝つくことができなかった。大きく欠伸をしながら今日も早朝から受付をしていた。
「あれー? 柳君、昨日は飲んでなかったのに寝不足?」
「まぁ、お酒はしばらく控えようかなと……絵美先輩は眠くないんですか?」
「眠いわよ。でも未来の夫を探して、こうして頑張ってるの」
「あー……大変ですね……」
「あーーその言い方! 柳君もスペック高そうな人見つけたら教えてね!」
「はいはい……」
朝は相変わらず苦手だ。ボーッとする頭で登校する学生を眺めていた。
昨日は笑顔を作り過ぎたせいで、予想通り顔面が筋肉痛になっていた。初日に十分貢献したのだ。俺の役目は終わりと打って変わってヤル気ゼロ状態。
肩まであるウイッグのサイドに落ちる髪を壁にして居眠りしていても、絵美先輩は夫探しに夢中で気付かなそうだ。ウトウトする瞼を閉じ、そっと眠りに興じていた。
どれぐらい意識を手放していたのか。ずいぶん眠っていたような気がする。ぼーっとする思考でスマホを点滅させると、二十分ほど経っていた。
「……へぇーそうなんだ。なら是非うちのサークル入らない?」
「そうですね……考えておきます。それより聞いても?」
「えっ! ナニナニ? オネェさんがなんでも教えちゃう♡ あっ、でもスリーサイズは内緒よ! うふふ♡」
ウイッグの隙間からチラリと横を覗くと、絵美先輩が立ち上がりウキウキと弾む声で会話をしている。
俺は俺でいつの間にか隣に座る玉夫の肩に頭を預けて爆睡していたらしい。
「あっ、起きた? もう少しで地面に激突だよ。いくらでも肩貸したげる。膝枕でもいいよ♡」
「いや、悪い……はぁ~、四月って眠いよな」
目を擦ろうとすると、玉夫に手首を掴まれ「パンダになりたいの?」と、自分が化粧をしていたことを思い出す。
「昨日も遅かったし、まだ眠いなら寝てなよ」
「これ以上寝たら動けなくなる」
大きく伸びをしながら瞬きし、ボヤける視界をクリアにする。
覚醒し横を向いた途端に俺の頭の中は真っ白になった。
「瀬菜ちゃん?」
「あーそれなら彼女……というか、彼の作品だけど……ふふふ」
絵美先輩が俺を指すと、会話をしていた相手は驚きながら俺を見つめていた。
固まる俺の視線の先に玉夫も顔を向けると、みるみるうちに鬼の形相に変わっていった。
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