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第24幕 甘い誘惑と苦い後悔
08
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シャワーを浴び真新しい下着に足を通すと、玉夫のだろうシャツを羽織った。濡れた髪のままリビングに行くと、「おいで」とソファーに座る玉夫の側まで素直に向かった。
背後から俺を包むように座る玉夫に、大人しく頭を乾かしてもらう。よく悠斗にもしてもらったなと、冷静に思い出す自分がとても未練がましかった。
玉夫は俺が浴室に籠もっている間に、食事を作ってくれていた。二日酔いを気遣った食事は、どれも消化がよさそうで落ち込む俺でもなんとか完食することができた。
「今日も泊まって行かない?」
俺を愛おしそうに見つめながら、玉夫はスキンシップをし呟いた。その言葉にビクッとすると、顔を背けて言い訳をする。
「……ユウが……居るから。もう帰らなきゃ」
「そっか……ワンコが居たよね。なら、送っていくよ」
「いいよ。ひとりで帰れる」
「駄目。俺が送りたいの。それにここ初めて来たじゃん」
最もなことを言われ、それ以上言わずに頷くと、チュッと目尻にキスを落とされる。前からスキンシップは激しい玉夫だが、付き合うということはもっと触れるのかと、ぼんやりと他人事のように感じてしまう。
アパートの前まで送られると、手のひらにそっと置かれた冷たいものに驚きを隠せなかった。
「俺の家の鍵。いつでも来て欲しいから渡しとく」
「でも……」
「でもはなし。恋人なら当たり前でしょ」
「……うん」
「ねっ、キスしてい?」
「ここで……?」
「だって今日はもう会えないじゃん。それとも夜また家に来てくれる?」
ブンブンと首を振ると、クスッと笑い頬に手を伸ばされる。近付く顔にギュッと目を閉じ唇が重なると、中々開こうとしない唇を尖らせた舌でこじ開けるように侵入された。
開かれた口腔にスッと玉夫の舌が入り、俺の舌を絡め取る。逃げても追い掛けてくる舌に愛撫され、苦しさに息をするのも忘れてしまう。
「ンッ……はっ……」
「フッ……鼻で息吸わなきゃ。今までどうしてたの」
「……分かってる」
「初々しくていいけど」
道端でこんなキスをされるなど思ってもいなかった。誰かに見られていないか辺りを見渡すが、人の気配はなさそうだ。
「ワンコに挨拶したいけど、独占してたこと知られたら怒られそうだし、このまま帰るよ」
「ああ、気を付けて……昨日も迷惑掛けて悪かった」
「…………いや、ご馳走様。明日また学校で」
コクリと頷くと階段を駆け上がり、視線は感じていたが振り返らずに部屋に入った。
濡れた唇を袖でゴシゴシと擦ると、大きく息を吐き出した。
明日また普段通りに……恋人として、俺は接することができるのだろうか。ズルリと玄関の扉に背を預け、握った拳を広げると、玉夫から託された合鍵をただぼんやりと見つめていた。
カツカツと足音が聞こえ、顔を上げるとユウがジッと俺を見ていた。モフモフの尻尾は垂れ下がり、喜びの表現は全くない。疾しいことをしてしまったからか、俺を捕らえる瞳がまるで軽蔑しているように見えてしまう。
「ユウ……おいで」
名前を呼び呼び寄せるが、朝帰りをした俺に怒っているのかフィッと顔を背け、部屋の中へと消えてしまう。ユウの態度が悠斗にされているようで、目頭が焼けるほど熱く視界が滲んでいた。
背後から俺を包むように座る玉夫に、大人しく頭を乾かしてもらう。よく悠斗にもしてもらったなと、冷静に思い出す自分がとても未練がましかった。
玉夫は俺が浴室に籠もっている間に、食事を作ってくれていた。二日酔いを気遣った食事は、どれも消化がよさそうで落ち込む俺でもなんとか完食することができた。
「今日も泊まって行かない?」
俺を愛おしそうに見つめながら、玉夫はスキンシップをし呟いた。その言葉にビクッとすると、顔を背けて言い訳をする。
「……ユウが……居るから。もう帰らなきゃ」
「そっか……ワンコが居たよね。なら、送っていくよ」
「いいよ。ひとりで帰れる」
「駄目。俺が送りたいの。それにここ初めて来たじゃん」
最もなことを言われ、それ以上言わずに頷くと、チュッと目尻にキスを落とされる。前からスキンシップは激しい玉夫だが、付き合うということはもっと触れるのかと、ぼんやりと他人事のように感じてしまう。
アパートの前まで送られると、手のひらにそっと置かれた冷たいものに驚きを隠せなかった。
「俺の家の鍵。いつでも来て欲しいから渡しとく」
「でも……」
「でもはなし。恋人なら当たり前でしょ」
「……うん」
「ねっ、キスしてい?」
「ここで……?」
「だって今日はもう会えないじゃん。それとも夜また家に来てくれる?」
ブンブンと首を振ると、クスッと笑い頬に手を伸ばされる。近付く顔にギュッと目を閉じ唇が重なると、中々開こうとしない唇を尖らせた舌でこじ開けるように侵入された。
開かれた口腔にスッと玉夫の舌が入り、俺の舌を絡め取る。逃げても追い掛けてくる舌に愛撫され、苦しさに息をするのも忘れてしまう。
「ンッ……はっ……」
「フッ……鼻で息吸わなきゃ。今までどうしてたの」
「……分かってる」
「初々しくていいけど」
道端でこんなキスをされるなど思ってもいなかった。誰かに見られていないか辺りを見渡すが、人の気配はなさそうだ。
「ワンコに挨拶したいけど、独占してたこと知られたら怒られそうだし、このまま帰るよ」
「ああ、気を付けて……昨日も迷惑掛けて悪かった」
「…………いや、ご馳走様。明日また学校で」
コクリと頷くと階段を駆け上がり、視線は感じていたが振り返らずに部屋に入った。
濡れた唇を袖でゴシゴシと擦ると、大きく息を吐き出した。
明日また普段通りに……恋人として、俺は接することができるのだろうか。ズルリと玄関の扉に背を預け、握った拳を広げると、玉夫から託された合鍵をただぼんやりと見つめていた。
カツカツと足音が聞こえ、顔を上げるとユウがジッと俺を見ていた。モフモフの尻尾は垂れ下がり、喜びの表現は全くない。疾しいことをしてしまったからか、俺を捕らえる瞳がまるで軽蔑しているように見えてしまう。
「ユウ……おいで」
名前を呼び呼び寄せるが、朝帰りをした俺に怒っているのかフィッと顔を背け、部屋の中へと消えてしまう。ユウの態度が悠斗にされているようで、目頭が焼けるほど熱く視界が滲んでいた。
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