王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
643 / 716
第24幕 甘い誘惑と苦い後悔

02

しおりを挟む
 白い長袖のシフォンシャツに袖を通し、膝上までしかない短めなスカートを履き終えると、玉夫が声をかけることなく試着室に入ってきた。

「おっ、いいじゃん♡」
「こっこら! 入るな!」
「だって、瀬菜ちゃん中々出てこないし、手伝いが必要かなって♡」
「必要ない。これじゃどう見たって男だ……」

 玉夫はいつ用意したのか、袋から肩位までの長さのウイッグを取り出し俺の頭に装着させた。それからチョーカーで喉を隠し、胸元に大きなリボンをセットする。

「我ながらいいセンス♡ 清楚なお嬢様って感じかな~」
「お前って、こういう感じの娘が好みなんだな」
「うーにゃ、俺は瀬菜ちゃんが好み~♡」
「そうかよ。ほら、出ていけ……これで決まりなら着替える」
「ダメダメ~、靴のバランスも見たいからこのまま次行くよ~。すみませーん」

 会計をお願いしながら、玉夫自らタグを切っていく。このまま別の店に行くなど真っ平だ。

「こんな変質者みたいなの嫌だ!」
「大丈夫大丈夫。ちゃんと女子だから。俺が保証する」
「そんな保証、要らねぇよ!」
「そんな下品な言葉使ってたら、余計目立つから気を付けて」
「うぅっ……」

 玉夫はニヤリと笑うと、ほかの店舗に俺を引き摺りながら向かったのだった。
 靴屋で少しヒールのあるパンプスを買い与えられ、メイクをテスターで整えると玉夫は満足気に頷き自画自賛だ。
 本番でもないというのに、ここまでされるとは流石に俺も思ってはいなかった。ショーウインドーに映る自分は少し長身の女子にしか見えない。

「ほら、瀬菜ちゃん行くよ?」
「はぁ? どこにだよ」
「ご飯食べに。この間のお礼したいでしょ?」
「そりゃ飯ぐらい奢るけど、先に着替えさせてくれ」
「着替えは家帰ってからね。折角綺麗にしたんだし、これも込みでお礼だよ」

 そう言われてしまっては俺に断る権利はない。ため息を吐きながら、玉夫に言われるまま手を引かれ従うしかなかった。


 ストッキングとはどうしてこんなにも股下がキツイのだろう。スカートはスースーと風を送り込み、捲れるのではないかと不安だ。
 エスカレーターで何度もうしろを振り返る俺の行動に、玉夫はなにも言わないが終始クスクスと笑っていた。

「そこまでミニじゃないし覗かれないから平気だよ」
「そういう問題じゃない。捲れるかもって気になるんだ」
「捲れそうになったら俺が死守するから大丈夫」
「死守って……それに汚れたらどうするんだよ」
「洗えばいいじゃん」

 最もなことを言われ、なにも言い返せないでいるとレストラン街に到着した。フロアーに様々な料理の匂いが充満しており、空腹ではなかったが少しは食欲が湧いてくる。
 なにを食べたい訳でもなかったので、無難にイタリア料理屋に入り玉夫が適当に選びオーダーした。

「ワイン口に合わなかった?」
「いや……ただ、ワインはちょっと苦手なんだ」
「へぇー意外。瀬菜ちゃんお酒はなんでも来いだと思ってた。なに聞いてもなんでもいいって言うし。ほかの飲み物頼む?」
「平気だ……勿体無い」
「フッ……折角可愛いのになぁ~。ご機嫌斜め?」
「別に……周りカップルばっかりだし、デートしてるみたいでなんか落ち着かない」

 なぜかキョトンとする玉夫。おかしなことを言ったつもりはない。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...