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第23幕 モノクロ
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そこまで言い、一旦呼吸を整える。実千流は頷くだけの相槌を返し、黙って聞いてくれていた。
「俺、怖かったんだ……悠斗と離れて生活することが。それに……悠斗はさ、ああいう性格だろ? だからこれまでのこと、なかったことにしたかったんだ。向こうの大学卒業するまで日本に戻って来れないように」
ニコッと笑い掛けると、大きな瞳を目いっぱい広げ、くしゃりと顔を歪める実千流。
「悠斗は俺の望みを叶えてくれる。すぐに来いって言ったら来ちゃうんだ。みんなからなにか聞けば心配して駆けつけるだろ? そんなことしていたら難関な大学卒業、何年掛かるか分かったもんじゃない。流石に俺、何十年も待てないよ。へへっ──うわっ!」
ギシッとベッドが軋み、実千流が俺の上に覆い被さってきた。布団ごと俺を抱きしめ、肩を震わせている。
「──馬鹿……。なにひとりで格好つけているの。もっと……頼ってよ。友達でしょ?」
「ごめん……俺もこんなに辛いとは思っていなかった。別れたこと、決心したはずなのに上手くいかないよな……ははは……」
ガバリと身を起こす実千流は、先ほどとは打って変わり無表情に俺を見下ろしていた。ガッチリと俺の肩を両腕で押さえつけると、ギリギリと肩に指先が食い込んでくる。
「ごめん? 謝れば済むと思ってる? 笑い事じゃないよ! だいたい瀬菜おかしくない? 今の話の流れだと、悠斗さんが必ず自分のところに戻ってくるって思っているよね? もし向こうで瀬菜より魅力的な人に会ったらどうするつもり? 落ち込んでる悠斗さんに優しくしたら、コロッとなびくかもしれないんだよ!」
人との出会いは数知れない。別れがあるように、出会いもある。俺もこの数年で少なくとも出会った。
「うん、分かっているよ」
「やっぱり瀬菜は馬鹿だ……」
「その時がきたら慰めてくれるだろ?」
「絶対、慰めてなんてやらないよ‼」
「へへっ、ありがとう」
実千流は納得していない様子だが、俺の話を最後まで聞いてくれた。何度「馬鹿」と言われたことか……。
特に連発して罵られたのは、玉夫とのことだった。多澤と由良りんにバッタリ遭遇し、恋人のふりをしてもらったこと。悠斗にそのことが知られたらどうするつもりだと、永遠と説教された。
咄嗟の嘘は真実として広まる。けれど俺はそれを訂正するつもりはなかった。
「多澤と由良りんは悠斗と近いから。なぁ、内緒にしてくれるだろ?」
「……はぁ~。仕方ないな。瀬菜がそうしたいなら。でも、いっときの感情に振り回されないでよね」
「どういう意味?」
「瀬菜は馬鹿で鈍いっていう意味だよ!」
はて? と首を傾げる俺に、実千流はフワッと優しく微笑み「瀬菜が昔と変わらないでいてくれてよかった」と、瞳をキラキラと潤ませていた。
「俺、怖かったんだ……悠斗と離れて生活することが。それに……悠斗はさ、ああいう性格だろ? だからこれまでのこと、なかったことにしたかったんだ。向こうの大学卒業するまで日本に戻って来れないように」
ニコッと笑い掛けると、大きな瞳を目いっぱい広げ、くしゃりと顔を歪める実千流。
「悠斗は俺の望みを叶えてくれる。すぐに来いって言ったら来ちゃうんだ。みんなからなにか聞けば心配して駆けつけるだろ? そんなことしていたら難関な大学卒業、何年掛かるか分かったもんじゃない。流石に俺、何十年も待てないよ。へへっ──うわっ!」
ギシッとベッドが軋み、実千流が俺の上に覆い被さってきた。布団ごと俺を抱きしめ、肩を震わせている。
「──馬鹿……。なにひとりで格好つけているの。もっと……頼ってよ。友達でしょ?」
「ごめん……俺もこんなに辛いとは思っていなかった。別れたこと、決心したはずなのに上手くいかないよな……ははは……」
ガバリと身を起こす実千流は、先ほどとは打って変わり無表情に俺を見下ろしていた。ガッチリと俺の肩を両腕で押さえつけると、ギリギリと肩に指先が食い込んでくる。
「ごめん? 謝れば済むと思ってる? 笑い事じゃないよ! だいたい瀬菜おかしくない? 今の話の流れだと、悠斗さんが必ず自分のところに戻ってくるって思っているよね? もし向こうで瀬菜より魅力的な人に会ったらどうするつもり? 落ち込んでる悠斗さんに優しくしたら、コロッとなびくかもしれないんだよ!」
人との出会いは数知れない。別れがあるように、出会いもある。俺もこの数年で少なくとも出会った。
「うん、分かっているよ」
「やっぱり瀬菜は馬鹿だ……」
「その時がきたら慰めてくれるだろ?」
「絶対、慰めてなんてやらないよ‼」
「へへっ、ありがとう」
実千流は納得していない様子だが、俺の話を最後まで聞いてくれた。何度「馬鹿」と言われたことか……。
特に連発して罵られたのは、玉夫とのことだった。多澤と由良りんにバッタリ遭遇し、恋人のふりをしてもらったこと。悠斗にそのことが知られたらどうするつもりだと、永遠と説教された。
咄嗟の嘘は真実として広まる。けれど俺はそれを訂正するつもりはなかった。
「多澤と由良りんは悠斗と近いから。なぁ、内緒にしてくれるだろ?」
「……はぁ~。仕方ないな。瀬菜がそうしたいなら。でも、いっときの感情に振り回されないでよね」
「どういう意味?」
「瀬菜は馬鹿で鈍いっていう意味だよ!」
はて? と首を傾げる俺に、実千流はフワッと優しく微笑み「瀬菜が昔と変わらないでいてくれてよかった」と、瞳をキラキラと潤ませていた。
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