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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
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「でも──」
「でもはなし。ならこうしよう。俺か瀬菜ちゃんに恋人ができたら速解消」
「なんだよそれ」
「いいじゃん♪ ごっこなんだから気楽にさ。たまには誰かに寄りかかってもいいんでない?」
戸惑いながら頷くと、パッとお日様みたいに無邪気に笑い抱きついてきた。
「おっ、おい! ごっこじゃねぇのかよ」
「うん、そうだよ~♡ これは友達のハグ。あっ……ついでにもうひとつ聞いていい? 今の瀬菜ちゃんはさ、立花悠斗のことどう思っているの?」
突然の質問にビクッと身体を跳ねさせる。答えはすぐに頭の中に広がった。けれどそれを言葉に出すことはしなかった。……いや、できないが正しいのかもしれない。
言葉に出してしまったら、今まで踏ん張っていた気持ちが足元から崩れてしまうと思ったのだ。
「フッ……答えられないか」
髪にチュッとリップ音がする。ごっこだというのに恋人のような振る舞いを許してしまうのは、俺も相当弱っているのだろうか。
唸る声と合わせて下からグイグイと押し上げてくる圧に視線を向けると、ユウが離れろと言わんばかりに藻掻いていた。
「これ以上は、噛みつかれそう。さっ、もうちょい飲も~」
「へへっ、そうだな。わっ! ちょ──ッ! ユウやめろッ、こらっ!」
ユウは俺を押し倒すと、覆い被さりペロペロと顔中を舐め回してくる。放置し過ぎて構ってくれと甘えてるのだ。
「……ユウ?」
「えっ? なに? ばっ、はははっお前ッ重い~~‼」
「ふ~ん……そうか……」
*
夕方から飲み通しで、すっかり酔が回っていた。喉に骨が刺さっていたような違和感は、話をしたことで抜け落ち、気が抜けていたかもしれない。
机に肘をつけ玉夫の話を半分聞きながら、コクっと船を漕ぐ。あれから気付けば、二人で二本も焼酎を空けている。まもなく朝日が登る時間だ。
「瀬菜ちゃん、お酒もうやめときな。ベッド入ったら?」
「……う~ん、まだ……勝負……」
「ははっ、もう寝てんじゃん。俺の勝ちかなぁ~。マジ強いわ……飲んだふりして正解だった」
フワリと身体が浮き揺れる身体が心地いい。ユウが不機嫌そうに唸り声を上げているような気がする。
「ワンコ、こら噛むな。お前のご主人様を、ベッドまでエスコートしているだけだ。硬い床で寝かせたくないだろ?」
ほどよいスプリングが身体を包むと、全身の力が抜けていく。間近に体温を感じ、抱きしめられると切なくなった。
「…………ゆう……と……」
頬を伝う雫を優しく拭われ、今が高校時代の幸せなひと時なのだと夢を見る。
「たっく、無防備だな……可愛いくて悪いことしたくなる。瀬菜ちゃん……健気過ぎでしょ。犬にまで元カレの名前つけちゃうなんて。立花悠斗ね……お前がこのままひとりにさせておくなら、俺が本気で奪っちゃうよ」
眠りの中で幸せを感じている俺の傍らで、腰を下ろす十王が視線をユウに向ける。遥か遠くに居るであろう人物に語りかけるように呟くと、まるで悠斗の魂がここにあるかのように、ユウが「ウゥゥー……ガゥゥー……」と威嚇の声をあげていた。
「でもはなし。ならこうしよう。俺か瀬菜ちゃんに恋人ができたら速解消」
「なんだよそれ」
「いいじゃん♪ ごっこなんだから気楽にさ。たまには誰かに寄りかかってもいいんでない?」
戸惑いながら頷くと、パッとお日様みたいに無邪気に笑い抱きついてきた。
「おっ、おい! ごっこじゃねぇのかよ」
「うん、そうだよ~♡ これは友達のハグ。あっ……ついでにもうひとつ聞いていい? 今の瀬菜ちゃんはさ、立花悠斗のことどう思っているの?」
突然の質問にビクッと身体を跳ねさせる。答えはすぐに頭の中に広がった。けれどそれを言葉に出すことはしなかった。……いや、できないが正しいのかもしれない。
言葉に出してしまったら、今まで踏ん張っていた気持ちが足元から崩れてしまうと思ったのだ。
「フッ……答えられないか」
髪にチュッとリップ音がする。ごっこだというのに恋人のような振る舞いを許してしまうのは、俺も相当弱っているのだろうか。
唸る声と合わせて下からグイグイと押し上げてくる圧に視線を向けると、ユウが離れろと言わんばかりに藻掻いていた。
「これ以上は、噛みつかれそう。さっ、もうちょい飲も~」
「へへっ、そうだな。わっ! ちょ──ッ! ユウやめろッ、こらっ!」
ユウは俺を押し倒すと、覆い被さりペロペロと顔中を舐め回してくる。放置し過ぎて構ってくれと甘えてるのだ。
「……ユウ?」
「えっ? なに? ばっ、はははっお前ッ重い~~‼」
「ふ~ん……そうか……」
*
夕方から飲み通しで、すっかり酔が回っていた。喉に骨が刺さっていたような違和感は、話をしたことで抜け落ち、気が抜けていたかもしれない。
机に肘をつけ玉夫の話を半分聞きながら、コクっと船を漕ぐ。あれから気付けば、二人で二本も焼酎を空けている。まもなく朝日が登る時間だ。
「瀬菜ちゃん、お酒もうやめときな。ベッド入ったら?」
「……う~ん、まだ……勝負……」
「ははっ、もう寝てんじゃん。俺の勝ちかなぁ~。マジ強いわ……飲んだふりして正解だった」
フワリと身体が浮き揺れる身体が心地いい。ユウが不機嫌そうに唸り声を上げているような気がする。
「ワンコ、こら噛むな。お前のご主人様を、ベッドまでエスコートしているだけだ。硬い床で寝かせたくないだろ?」
ほどよいスプリングが身体を包むと、全身の力が抜けていく。間近に体温を感じ、抱きしめられると切なくなった。
「…………ゆう……と……」
頬を伝う雫を優しく拭われ、今が高校時代の幸せなひと時なのだと夢を見る。
「たっく、無防備だな……可愛いくて悪いことしたくなる。瀬菜ちゃん……健気過ぎでしょ。犬にまで元カレの名前つけちゃうなんて。立花悠斗ね……お前がこのままひとりにさせておくなら、俺が本気で奪っちゃうよ」
眠りの中で幸せを感じている俺の傍らで、腰を下ろす十王が視線をユウに向ける。遥か遠くに居るであろう人物に語りかけるように呟くと、まるで悠斗の魂がここにあるかのように、ユウが「ウゥゥー……ガゥゥー……」と威嚇の声をあげていた。
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