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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
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散々飲み、写真とは……と、熱く語る部長のおかげで、気付けば終電間際の時間になっていた。徒歩で帰れる俺は会計を預かり、先にみんなに帰ってもらった。
そんな俺のうしろに、従者のように待機している男にチラリと視線を送る。
「お前も先に帰れよ」
「えーー、瀬菜ちゃん全然酔ってないじゃん。飲み足りなくない? 今日は花金だよ~」
ジェスチャーでお花を見立てるご機嫌な玉夫。
「電車なくなるだろ? 先に言っとくけど泊めねぇからな」
「ワォ! そんじゃ、俺のオススメの店に行って、タクって瀬菜ちゃん送り届けてから帰るかな。下心ありありで」
「下心ありってなんだよ。普通そこはなしでだろ? 別にもう一軒行くのは構わないけど、俺を酔わそうとしても無駄だぞ。多分お前のが潰れる。まぁ、そしたらタクシーに押し込んでやるけど?」
ニヤリと不敵に笑うと、玉夫も同じように笑い「なら酒豪対決ね。敗者は勝者のお願いをひとつ。もち支払い込み込みで♡」と挑発してきた。
最寄りの駅から電車に乗り、ひとつ先の駅へと向かった。仮になにかあっても、一駅なら歩いても帰れると踏んでいた。
玉夫に連れて行かれた店は、洒落た内装で落着いたムードの漂う店だった。照明の薄暗さが女子に喜ばれそうで、まさにデートコースにお誂え向きだ。流石、歩く下半身男。いい店を知っている。
席の案内を入口で待っていると、玉夫が突然ボソリとなにか言った。
「……あれっ……」
「えっ? なんだ?」
顔を伺うが、薄暗いせいで玉夫の表情はよく見えない。
なにか不都合でもあったのだろうか。
「いや……気のせいかな。ちょい待ってて」
玉夫はレジのカウンターのほうへと歩き出し、いつもの能天気な声で言った。
「やっぱり! なぁ、俺のこと覚えてる?」
「……あぁ? ……お前、だれ? あっ、顔は思い出した」
「顔かよ。元気してた?」
「あぁ、まぁ……そっちはデートか? 相変わらずモテるこって」
店の暗がりに遮られ、瞬時に行動ができなかった。呆然と立ち尽くす俺に視線が集中する。ひとりは口角を上げ不遜に笑い、ひとりは驚愕に目を丸める。
「偶然だな……瀬菜」
「……ヤナ?」
「なんだ、お前ら……知り合いだったのか?」
玉夫の質問に誰も答えず緊迫する空気に、玉夫が耳元で「店、変えるか?」と囁いてくる。頷くでもなく俯くのが精一杯で、小さく震える肩に玉夫の手のひらが置かれ背を向けようとすると呼び止められた。
「おい、待てよ。折角だ、一緒に飲もうぜ? 話したいこともあるしな。構わないよな瀬菜」
「……俺は……」
「おいおい、勝手に決めんなよ。こっちも都合があるんだ」
「都合? 今からここで飲むんだろ? ここじゃ店の邪魔だし同窓会ってことで」
二人は会計を済ませ店を出ようとしていたが、店員に「二名から四名に変更で」と伝えていた。
学校ならまだしも、いつくもある店で知り合いに遭遇するなど中々ないのではないだろうか。日本という国がいかに狭いか思い知らされる。そして偶然にしても今一番会いたくない人物たち。
個室に通されると、ボックス席に腰を下ろし、面識のない多澤と玉夫が自己紹介をしていた。お酒が運ばれ軽い会話を終わらせると、由良りんが視線を俺に移し躊躇い気味に声を掛けてきた。
「……ヤナ……元気にしてたか? 少し、痩せたな」
そんな俺のうしろに、従者のように待機している男にチラリと視線を送る。
「お前も先に帰れよ」
「えーー、瀬菜ちゃん全然酔ってないじゃん。飲み足りなくない? 今日は花金だよ~」
ジェスチャーでお花を見立てるご機嫌な玉夫。
「電車なくなるだろ? 先に言っとくけど泊めねぇからな」
「ワォ! そんじゃ、俺のオススメの店に行って、タクって瀬菜ちゃん送り届けてから帰るかな。下心ありありで」
「下心ありってなんだよ。普通そこはなしでだろ? 別にもう一軒行くのは構わないけど、俺を酔わそうとしても無駄だぞ。多分お前のが潰れる。まぁ、そしたらタクシーに押し込んでやるけど?」
ニヤリと不敵に笑うと、玉夫も同じように笑い「なら酒豪対決ね。敗者は勝者のお願いをひとつ。もち支払い込み込みで♡」と挑発してきた。
最寄りの駅から電車に乗り、ひとつ先の駅へと向かった。仮になにかあっても、一駅なら歩いても帰れると踏んでいた。
玉夫に連れて行かれた店は、洒落た内装で落着いたムードの漂う店だった。照明の薄暗さが女子に喜ばれそうで、まさにデートコースにお誂え向きだ。流石、歩く下半身男。いい店を知っている。
席の案内を入口で待っていると、玉夫が突然ボソリとなにか言った。
「……あれっ……」
「えっ? なんだ?」
顔を伺うが、薄暗いせいで玉夫の表情はよく見えない。
なにか不都合でもあったのだろうか。
「いや……気のせいかな。ちょい待ってて」
玉夫はレジのカウンターのほうへと歩き出し、いつもの能天気な声で言った。
「やっぱり! なぁ、俺のこと覚えてる?」
「……あぁ? ……お前、だれ? あっ、顔は思い出した」
「顔かよ。元気してた?」
「あぁ、まぁ……そっちはデートか? 相変わらずモテるこって」
店の暗がりに遮られ、瞬時に行動ができなかった。呆然と立ち尽くす俺に視線が集中する。ひとりは口角を上げ不遜に笑い、ひとりは驚愕に目を丸める。
「偶然だな……瀬菜」
「……ヤナ?」
「なんだ、お前ら……知り合いだったのか?」
玉夫の質問に誰も答えず緊迫する空気に、玉夫が耳元で「店、変えるか?」と囁いてくる。頷くでもなく俯くのが精一杯で、小さく震える肩に玉夫の手のひらが置かれ背を向けようとすると呼び止められた。
「おい、待てよ。折角だ、一緒に飲もうぜ? 話したいこともあるしな。構わないよな瀬菜」
「……俺は……」
「おいおい、勝手に決めんなよ。こっちも都合があるんだ」
「都合? 今からここで飲むんだろ? ここじゃ店の邪魔だし同窓会ってことで」
二人は会計を済ませ店を出ようとしていたが、店員に「二名から四名に変更で」と伝えていた。
学校ならまだしも、いつくもある店で知り合いに遭遇するなど中々ないのではないだろうか。日本という国がいかに狭いか思い知らされる。そして偶然にしても今一番会いたくない人物たち。
個室に通されると、ボックス席に腰を下ろし、面識のない多澤と玉夫が自己紹介をしていた。お酒が運ばれ軽い会話を終わらせると、由良りんが視線を俺に移し躊躇い気味に声を掛けてきた。
「……ヤナ……元気にしてたか? 少し、痩せたな」
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