623 / 716
第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
11
しおりを挟む
なんだかんだとサークル内でも玉夫と会話をすることが多い。隣に席を確保してくれていたのは正直助かった。
腰を下ろすと、ほかのメンバーに遅れてしまったことを詫びた。さほど待たずにお酒が提供され、部長がジョッキを手にみんなの前に掲げた。
「それじゃ、久々に柳も来たことだし改めて乾杯だ」
部長の音頭で乾杯すると、きめ細かな泡が盛られた冷えたビールをゴクゴクと半分ほど喉に流し込んだ。
その姿を部長が感心した様子で見つめていた。ジョッキを机に置くと、清々しい大きな笑いを立て部長が俺に言う。
「やっぱり柳は飲みっぷりだけは男前だな」
「だけってなんですか。ほかだってちゃんと男ですよ」
「これ、柳君の分ね。会う度に痩せていく気がするけど、ちゃんと食べてる?」
サークル唯一のマドンナ小中絵美先輩が、俺の前に山盛りのつまみが乗ったお皿を置き気遣ってくれる。肉ばかりの揚げ物と串料理に見ただけで胸焼けがするが、先輩に悪気などない。お礼をしつつ、取り敢えず枝豆に手を伸ばした。
今日の会合のテーマは、次回のコンクール提出作品の進捗と、来年の新入生をどう呼び込むか……という内容だった。女子がひとりしか居ないのは寂しいと、呼び込むネタに悩んでいる様子だ。
出会い目的の飲み会中心のサークルとは違い、女子が居なくとも困りはしないが、やはり男ばかりでは暑苦しいと皆口を揃える。
「そもそも女子が居ないことが、入りにくいのかもな」
「絵美ちゃんひとりに、勧誘頑張ってもらう訳にもいかないしね」
部長と副部長が真剣に考えていると、玉夫が軽い口調で爆弾を投げつけた。
「そんなん、瀬菜ちゃんに女装してもらえばいいじゃないっすか」
その提案に俺は枝豆を強く押し過ぎて、前方へと飛ばしてしまう。前に座る同じ学年の巨漢、隠れきれていないが、自称隠れアイドルヲタク、平山の眼鏡にパチンと当たってしまった。
「あっ……悪い平山。新しいお手拭きもらってくるよ」
「アハハ……大丈夫、大丈夫。コレ使うから。でも、柳氏が女装……♡ イイかも……♡」
「ちょっ、お前までなにっ──」
「先輩決定っすね。んじゃ、思う存分飲みましょ~」
トントン拍子で進んでいく俺の女装話に、当の本人は置いてけぼりだ。皆お酒が進みどんな格好をさせようかと、それを酒の肴に盛り上がっていた。
「だから、俺は女装もうしないって決めてんの。ほかの奴がやれよ……」
「そうは言ってもよく周りを見てみろ。どこに化けられる人間が居るんだ?」
部長は全員を順番に指差すと、最後に俺の前で指を止めた。お前しか居ないだろ? とでも言いたいのか片眉を上げる。
その横で絵美先輩が興奮した様子で挙手し、大声を上げた。
「部長待って! 聞き逃してるよ! 柳君もうって言ったよね!? 前にしてたってことだよね‼ 絶対可愛かったでしょ! 男子に女子力奪われちゃう~♪」
「絵美先輩も十分女子力あるっすよ。瀬菜ちゃん、ほい」
玉夫の手が横から飛び出してくる。
ほい、とはなんのことなのか。無言で手のひらを見つめていると、痺れを切らしたように玉夫に催促される。
「ほら、勿体ぶらず早く出してよ。あるんでしょ? 瀬菜ちゃんの女装写真」
「……そっ、そんなもんない。誓ってもいい。大学入ってすぐにデータは全部消した。それに玉夫は見たことあるだろ」
俺がそう答えると、一瞬間が空く。
「えーーっ! いつ⁉ どこでっ⁉」
興奮した玉夫が、俺に覆い被さる勢いで聞いてくる。……しまったと思った。ついうっかり口を滑らせてしまった。
高校二年の文化祭。ナンパしていた相手が、まさか俺だったとは思ってもいないだろう。あのときは由良りんに助けてもらい、十王菊夫の魔の手から逃げることができた。
今は誰も助けてくれる友人はいない。プイっと顔を背けてだんまりを決め込んだ。
腰を下ろすと、ほかのメンバーに遅れてしまったことを詫びた。さほど待たずにお酒が提供され、部長がジョッキを手にみんなの前に掲げた。
「それじゃ、久々に柳も来たことだし改めて乾杯だ」
部長の音頭で乾杯すると、きめ細かな泡が盛られた冷えたビールをゴクゴクと半分ほど喉に流し込んだ。
その姿を部長が感心した様子で見つめていた。ジョッキを机に置くと、清々しい大きな笑いを立て部長が俺に言う。
「やっぱり柳は飲みっぷりだけは男前だな」
「だけってなんですか。ほかだってちゃんと男ですよ」
「これ、柳君の分ね。会う度に痩せていく気がするけど、ちゃんと食べてる?」
サークル唯一のマドンナ小中絵美先輩が、俺の前に山盛りのつまみが乗ったお皿を置き気遣ってくれる。肉ばかりの揚げ物と串料理に見ただけで胸焼けがするが、先輩に悪気などない。お礼をしつつ、取り敢えず枝豆に手を伸ばした。
今日の会合のテーマは、次回のコンクール提出作品の進捗と、来年の新入生をどう呼び込むか……という内容だった。女子がひとりしか居ないのは寂しいと、呼び込むネタに悩んでいる様子だ。
出会い目的の飲み会中心のサークルとは違い、女子が居なくとも困りはしないが、やはり男ばかりでは暑苦しいと皆口を揃える。
「そもそも女子が居ないことが、入りにくいのかもな」
「絵美ちゃんひとりに、勧誘頑張ってもらう訳にもいかないしね」
部長と副部長が真剣に考えていると、玉夫が軽い口調で爆弾を投げつけた。
「そんなん、瀬菜ちゃんに女装してもらえばいいじゃないっすか」
その提案に俺は枝豆を強く押し過ぎて、前方へと飛ばしてしまう。前に座る同じ学年の巨漢、隠れきれていないが、自称隠れアイドルヲタク、平山の眼鏡にパチンと当たってしまった。
「あっ……悪い平山。新しいお手拭きもらってくるよ」
「アハハ……大丈夫、大丈夫。コレ使うから。でも、柳氏が女装……♡ イイかも……♡」
「ちょっ、お前までなにっ──」
「先輩決定っすね。んじゃ、思う存分飲みましょ~」
トントン拍子で進んでいく俺の女装話に、当の本人は置いてけぼりだ。皆お酒が進みどんな格好をさせようかと、それを酒の肴に盛り上がっていた。
「だから、俺は女装もうしないって決めてんの。ほかの奴がやれよ……」
「そうは言ってもよく周りを見てみろ。どこに化けられる人間が居るんだ?」
部長は全員を順番に指差すと、最後に俺の前で指を止めた。お前しか居ないだろ? とでも言いたいのか片眉を上げる。
その横で絵美先輩が興奮した様子で挙手し、大声を上げた。
「部長待って! 聞き逃してるよ! 柳君もうって言ったよね!? 前にしてたってことだよね‼ 絶対可愛かったでしょ! 男子に女子力奪われちゃう~♪」
「絵美先輩も十分女子力あるっすよ。瀬菜ちゃん、ほい」
玉夫の手が横から飛び出してくる。
ほい、とはなんのことなのか。無言で手のひらを見つめていると、痺れを切らしたように玉夫に催促される。
「ほら、勿体ぶらず早く出してよ。あるんでしょ? 瀬菜ちゃんの女装写真」
「……そっ、そんなもんない。誓ってもいい。大学入ってすぐにデータは全部消した。それに玉夫は見たことあるだろ」
俺がそう答えると、一瞬間が空く。
「えーーっ! いつ⁉ どこでっ⁉」
興奮した玉夫が、俺に覆い被さる勢いで聞いてくる。……しまったと思った。ついうっかり口を滑らせてしまった。
高校二年の文化祭。ナンパしていた相手が、まさか俺だったとは思ってもいないだろう。あのときは由良りんに助けてもらい、十王菊夫の魔の手から逃げることができた。
今は誰も助けてくれる友人はいない。プイっと顔を背けてだんまりを決め込んだ。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる