王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜

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 なんだかんだとサークル内でも玉夫と会話をすることが多い。隣に席を確保してくれていたのは正直助かった。
 腰を下ろすと、ほかのメンバーに遅れてしまったことを詫びた。さほど待たずにお酒が提供され、部長がジョッキを手にみんなの前に掲げた。

「それじゃ、久々に柳も来たことだし改めて乾杯だ」

 部長の音頭で乾杯すると、きめ細かな泡が盛られた冷えたビールをゴクゴクと半分ほど喉に流し込んだ。
 その姿を部長が感心した様子で見つめていた。ジョッキを机に置くと、清々しい大きな笑いを立て部長が俺に言う。

「やっぱり柳は飲みっぷりだけは男前だな」
「だけってなんですか。ほかだってちゃんと男ですよ」
「これ、柳君の分ね。会う度に痩せていく気がするけど、ちゃんと食べてる?」

 サークル唯一のマドンナ小中こなか絵美えみ先輩が、俺の前に山盛りのつまみが乗ったお皿を置き気遣ってくれる。肉ばかりの揚げ物と串料理に見ただけで胸焼けがするが、先輩に悪気などない。お礼をしつつ、取り敢えず枝豆に手を伸ばした。
 今日の会合のテーマは、次回のコンクール提出作品の進捗と、来年の新入生をどう呼び込むか……という内容だった。女子がひとりしか居ないのは寂しいと、呼び込むネタに悩んでいる様子だ。
 出会い目的の飲み会中心のサークルとは違い、女子が居なくとも困りはしないが、やはり男ばかりでは暑苦しいと皆口を揃える。

「そもそも女子が居ないことが、入りにくいのかもな」
「絵美ちゃんひとりに、勧誘頑張ってもらう訳にもいかないしね」

 部長と副部長が真剣に考えていると、玉夫が軽い口調で爆弾を投げつけた。

「そんなん、瀬菜ちゃんに女装してもらえばいいじゃないっすか」

 その提案に俺は枝豆を強く押し過ぎて、前方へと飛ばしてしまう。前に座る同じ学年の巨漢、隠れきれていないが、自称隠れアイドルヲタク、平山の眼鏡にパチンと当たってしまった。

「あっ……悪い平山。新しいお手拭きもらってくるよ」
「アハハ……大丈夫、大丈夫。コレ使うから。でも、柳氏が女装……♡ イイかも……♡」
「ちょっ、お前までなにっ──」
「先輩決定っすね。んじゃ、思う存分飲みましょ~」

 トントン拍子で進んでいく俺の女装話に、当の本人は置いてけぼりだ。皆お酒が進みどんな格好をさせようかと、それを酒の肴に盛り上がっていた。

「だから、俺は女装もうしないって決めてんの。ほかの奴がやれよ……」
「そうは言ってもよく周りを見てみろ。どこに化けられる人間が居るんだ?」

 部長は全員を順番に指差すと、最後に俺の前で指を止めた。お前しか居ないだろ? とでも言いたいのか片眉を上げる。
 その横で絵美先輩が興奮した様子で挙手し、大声を上げた。

「部長待って! 聞き逃してるよ! 柳君って言ったよね!? 前にしてたってことだよね‼ 絶対可愛かったでしょ! 男子に女子力奪われちゃう~♪」
「絵美先輩も十分女子力あるっすよ。瀬菜ちゃん、ほい」

 玉夫の手が横から飛び出してくる。
 ほい、とはなんのことなのか。無言で手のひらを見つめていると、痺れを切らしたように玉夫に催促される。

「ほら、勿体ぶらず早く出してよ。あるんでしょ? 瀬菜ちゃんの女装写真」
「……そっ、そんなもんない。誓ってもいい。大学入ってすぐにデータは全部消した。それに玉夫は見たことあるだろ」

 俺がそう答えると、一瞬間が空く。

「えーーっ! いつ⁉ どこでっ⁉」

 興奮した玉夫が、俺に覆い被さる勢いで聞いてくる。……しまったと思った。ついうっかり口を滑らせてしまった。
 高校二年の文化祭。ナンパしていた相手が、まさか俺だったとは思ってもいないだろう。あのときは由良りんに助けてもらい、十王菊夫の魔の手から逃げることができた。
 今は誰も助けてくれる友人はいない。プイっと顔を背けてだんまりを決め込んだ。
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