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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
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『お前たち……本当に思い合ってんの?』
二ヶ月前にみんなで行った沖縄旅行をふと思い出す。由良りんに言われた言葉が、なんとなく繋がった気がした。
由良りんのあの言葉はきっとこのことだ。けれどそれよりももっと前だ。悠斗がバイトを始めると教えてくれたよりも、もっと前に決まっていたはずだ。
それは……いつから?
思い返しても思い返しても、全てが偽りだったのではと、幸せだったはずの思い出の数々が、ドロリと歪んで黒く塗り潰されていく。
気まずい空気が俺たちを包み、会話をすればするほど悪態を吐いてしまう。
「──っ全部、嘘だったんだな。俺を騙して楽しかったか?」
「騙してるつもりはないよ。隠していたことは謝る。けど瀬菜が寂しい思いをするの、俺はイヤなんだ。留学することを知ったら毎日気にさせてしまう。あと何日って数えさせてしまう。瀬菜の笑顔が見れなくなっちゃう。瀬菜に……嫌われる。それが怖くて言えなかった」
「そうだな……俺は気にしいだから。いつも俺は置いてけぼりだ。お前が悩んでいても、俺は助けることもできずに馬鹿みたいにヘラヘラしてたんだ。でも、こんなの、あんまりだ……」
悠斗は俺の前を歩き、俺はそれを追い掛ける。けれど近付いたと思った途端に、バサリと切り捨てられる。
俺たちはこれから上手くやっていくことができるのか……そう悪いほうにしか考えが傾かない。
「悠斗、俺は……いや、今日はもう帰ってくれ……」
言いたいことが山ほどある。けれどどの言葉も罵倒にしかならない。これ以上話をしても、なんの意味もない探り合いだ。喚きたい言葉をグッと飲み込むと、「帰れよ……」と悠斗に静かに伝えた。
悠斗もこの状況がよくないと感じたのか、「……瀬菜、嫌な思いさせてごめんね。また明日話をしよ?」と、何度も振り返りながら部屋を出て行った。
◇
それから何日間か話という名の言い合いをした。悠斗は宥めるような優しく切ない声で、俺は一方的に怒気を孕んだ声で……。
ひとりになっても冷静になることはなかった。イライラばかりが募り、最終的に悠斗の顔を見るのも億劫になっていた。
──俺は今なにをした……なにを言った?
ハッと我に返ると、悠斗の今にも泣きそうな顔があった。苦しそうに堪え、なにか言いたそうに口を開閉させ諦めたように顔を背けた。
その回りでカチンカチン……と、光るキューブが彼方此方に散らばり跳ねていた。銀色の細い鎖が手首に垂れ下がり、シャラリと鎖さえも手首を離れ床に落ちていく。
初めて誕生日にプレゼントされたブレスレットと、二度目の誕生日にもらったリングだった。鎖が千切れバラバラに散らばり、行き場を探すように転がっていた。
「……瀬菜……、また……明日……」
拾い集めたキューブを悠斗は俺の手のひらにそっと置くと、声を震わせながらそう言い、静かに扉を閉め部屋をあとにした。
また明日……それはもう数日しかない。
銀色のアルファベットが刻まれたキューブを、グッと握り締めストンとその場に座り込む。息を詰め嗚咽を吐き出しカタカタと肩を震わせていた。
二ヶ月前にみんなで行った沖縄旅行をふと思い出す。由良りんに言われた言葉が、なんとなく繋がった気がした。
由良りんのあの言葉はきっとこのことだ。けれどそれよりももっと前だ。悠斗がバイトを始めると教えてくれたよりも、もっと前に決まっていたはずだ。
それは……いつから?
思い返しても思い返しても、全てが偽りだったのではと、幸せだったはずの思い出の数々が、ドロリと歪んで黒く塗り潰されていく。
気まずい空気が俺たちを包み、会話をすればするほど悪態を吐いてしまう。
「──っ全部、嘘だったんだな。俺を騙して楽しかったか?」
「騙してるつもりはないよ。隠していたことは謝る。けど瀬菜が寂しい思いをするの、俺はイヤなんだ。留学することを知ったら毎日気にさせてしまう。あと何日って数えさせてしまう。瀬菜の笑顔が見れなくなっちゃう。瀬菜に……嫌われる。それが怖くて言えなかった」
「そうだな……俺は気にしいだから。いつも俺は置いてけぼりだ。お前が悩んでいても、俺は助けることもできずに馬鹿みたいにヘラヘラしてたんだ。でも、こんなの、あんまりだ……」
悠斗は俺の前を歩き、俺はそれを追い掛ける。けれど近付いたと思った途端に、バサリと切り捨てられる。
俺たちはこれから上手くやっていくことができるのか……そう悪いほうにしか考えが傾かない。
「悠斗、俺は……いや、今日はもう帰ってくれ……」
言いたいことが山ほどある。けれどどの言葉も罵倒にしかならない。これ以上話をしても、なんの意味もない探り合いだ。喚きたい言葉をグッと飲み込むと、「帰れよ……」と悠斗に静かに伝えた。
悠斗もこの状況がよくないと感じたのか、「……瀬菜、嫌な思いさせてごめんね。また明日話をしよ?」と、何度も振り返りながら部屋を出て行った。
◇
それから何日間か話という名の言い合いをした。悠斗は宥めるような優しく切ない声で、俺は一方的に怒気を孕んだ声で……。
ひとりになっても冷静になることはなかった。イライラばかりが募り、最終的に悠斗の顔を見るのも億劫になっていた。
──俺は今なにをした……なにを言った?
ハッと我に返ると、悠斗の今にも泣きそうな顔があった。苦しそうに堪え、なにか言いたそうに口を開閉させ諦めたように顔を背けた。
その回りでカチンカチン……と、光るキューブが彼方此方に散らばり跳ねていた。銀色の細い鎖が手首に垂れ下がり、シャラリと鎖さえも手首を離れ床に落ちていく。
初めて誕生日にプレゼントされたブレスレットと、二度目の誕生日にもらったリングだった。鎖が千切れバラバラに散らばり、行き場を探すように転がっていた。
「……瀬菜……、また……明日……」
拾い集めたキューブを悠斗は俺の手のひらにそっと置くと、声を震わせながらそう言い、静かに扉を閉め部屋をあとにした。
また明日……それはもう数日しかない。
銀色のアルファベットが刻まれたキューブを、グッと握り締めストンとその場に座り込む。息を詰め嗚咽を吐き出しカタカタと肩を震わせていた。
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