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第22幕 天気予報はいつも雨 〜大学生編〜
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朝日が顔に当たり眩しさに目を開ける。カーテンの隙間から見る空は青く、絵に描いたように綺麗に晴れていた。大きくため息を吐き、雨がやんでしまったことに落胆する。
大きなため息は雨だけのせいではない。俺を毎朝甲斐甲斐しく起こしてくれる同居人と昨夜一悶着あったからだ。風呂からあがったあとも攻防戦を繰り広げ、「そこで反省してろ!」とダイニングルームに追い出すという事態にまで発展した。
大学の講義はネット環境が整った現代では、通学しなくても単位を取れる仕組みだが、俺は毎日大学に通っていた。今日は二限からでよかったと、肌寒さに身を丸め少し遅めにベッドから抜け出した。
「……行ってきます。って……見送りもなしかよ……白状者め」
ひとり愚痴りながらアパートをあとにする。大学まで歩いて二十分の距離を、スマホを弄りながら登校していた。
おふくろから『元気でやってるの? たまには連絡なさい。あの子は大きくなった? 写真送って♡』と、メールが入っていた。
「なにが♡だ……人の気も知らないで。だいたいそんなに可愛いならおふくろが面倒見ろよ。俺だって学校あるんだぞ」
あの子というのは、同居人である犬のことだ。おふくろがひとり暮らしを始めた俺に、ある日いきなり押しつけてきた。ペット不可の物件に、管理会社に話までつけ『お母さん仕事もあるし面倒見れないからお願いね』と、久々に会った途端に託された。
子犬は震えながら捨てないでと、瞳を潤ませ無言の懇願をすると俺の手をペロペロ舐め甘えていた。そんな可愛い反応をされれば断ることはできなかった。けれどすぐに図体は大きくなり、悪戯ばかりして俺を困らせている。
昨日も主人の居ぬ間に、キッチンを散らかし酷い有様だった。子犬のままならよかったのにと、綺麗な長い毛並みのゴールデンレトリバーを思い浮かべた。
散らかった部屋に怒りもあったが、半分は八つ当たりだ。ベッドにも呼ばれず、寒い場所で寝ていたのだろう。
確かに昨日は自分もイライラしていた。大人気ない態度に罪悪感を感じながら、高級な餌をお土産に買って帰ることに決めた。
講義を数限受け終えると、次回のコンクールのスケジュールを取りに来いと、先輩に言われていたのを思い出し、一度写真研究会のサークル室に向かった。
大学に入学してすぐの頃、展示されていた写真に目を奪われ涙した。自分の本当の気持ちがそこにあるようで、胸の奥が抉られた気分だった。
撮影した人物に興味が湧くと、研究会の扉を開いて入会していた。カメラのノウハウなど全くない俺に、先輩たちはよく教えてくれたものだ。
最初はサークルから貸出されたカメラを使っていたが、バイト代をコツコツ貯め節約し、自分のカメラを購入した。今では毎日撮らなければ物足りなさを感じるほどのめり込んでいる。
「ああ、柳やっと来たか。生きてるのかって噂になっていたぞ? また痩せたんじゃないか?」
「……すみません。バイトも忙しくて。でも、毎日シャッターは切っていますよ?」
「そうか、ならいいが。十王にも顔を出すように伝えてくれ。それと月例の親睦会、来週金曜夜からだからたまには来いよ? てか、来い!」
元々人数の少ないサークルで、誰も居ないと踏んで来たのに、部長に会ってしまっては流石に何度も逃げる口実が浮かばない。
よくしてくれる人に対しては、どうにも無下にできないお人好しの俺は、その場で「行きますよ。いつものところですか?」と答えていた。
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