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第20.5幕 二人の卒業式《悠斗side》
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卒業式あるあるは、昔から第二ボタンを好きな人、大切な人に渡すものだ。けれどそれは昔の話。
学ランの高校もまだまだあるが、最近ではブレザーが主流になっている。ブレザーの場合、心臓に一番近い場所にボタンはない訳で、ネクタイが本命ということらしい。
「待って待って! 瀬菜、誤解だよ?」
「ふーん……」
「えっと……ははっ……今日、家出る前に、美久に言われて知ったんだ」
これは事実だ。今朝家を出る前のことだった。美久が興奮した様子で『悠くん! ネクタイは絶対に欲しがられてもあげちゃ駄目よ! 絶対よ! あっ、でもせっちゃんはオーケーよッ!』と、力いっぱい力説された。
「……怪しい……そんなに焦ってさ」
「いやいや、本当だよ? 瀬菜こそよく知っているよね?」
「──俺は……その……今日知ったよ? へへへっ」
ムードを出したつもりが、思わぬことになってしまった。瀬菜の惚け具合に今度は、俺がムッとする番だ。これはなにがなんでも、吐かせる必要がありそうだ……。
「……えっ……」
「ほら、見えないし素直に教えて?」
誰に教えてもらったのか、中々吐かない瀬菜に焦れてしまう。スルリとネクタイを外すと、小さな頭に素早く巻きつけ目隠しを施した。
「ちょっと! 見えないのは俺で、お前見えてんじゃん!」
「そうだね? なんで教えてくれないの?」
当たり前のことを興奮気味に訴えるが、突っ込むところはそこではないのになぁと、こっそりと笑ってしまう。
両手を掴むと、密着するように自分の胸へと瀬菜を引き寄せる。鼻先にフワリと香るシャンプーのサボンの香りが鼻を掠め、心地良さに緩んだ口元を耳元へと向けた。
「ねぇ、なんで?」
「だぁーー! 耳元で喋るな! お前……怒るし……」
「ん? そんなイケナイことなの?」
「だからっ! やめっ! あぁーー! 由良りんだよ! コレで満足か!」
「は? カナちゃん?」
全く知らないどこぞの馬の骨にでも卒業という最後のチャンスに告白でもされた……そう思っていたが、どうやら見当違いだったようだ。
俺とカナちゃんは現在、静かに喧嘩中だった。
原因はこの間、バイト先であるvert olive で起こったことだ。俺が話した内容が気に入らなかったのか、カナちゃんは殴り掛かる勢いで胸ぐらを掴み怒鳴ってきた。
その日はまさか瀬菜が来るとは思っておらず、雅臣の機転で原因は卒業旅行の場所について言い合いになっている……ということで隠し通すことができた。けれど、中途半端に放り出された俺とカナちゃんの燻りは、鎮火することなく現在に至っている。表向きは普段と変わらず会話も交わしているが、謂わば冷戦状態のままで改めて話をする必要があった。
学ランの高校もまだまだあるが、最近ではブレザーが主流になっている。ブレザーの場合、心臓に一番近い場所にボタンはない訳で、ネクタイが本命ということらしい。
「待って待って! 瀬菜、誤解だよ?」
「ふーん……」
「えっと……ははっ……今日、家出る前に、美久に言われて知ったんだ」
これは事実だ。今朝家を出る前のことだった。美久が興奮した様子で『悠くん! ネクタイは絶対に欲しがられてもあげちゃ駄目よ! 絶対よ! あっ、でもせっちゃんはオーケーよッ!』と、力いっぱい力説された。
「……怪しい……そんなに焦ってさ」
「いやいや、本当だよ? 瀬菜こそよく知っているよね?」
「──俺は……その……今日知ったよ? へへへっ」
ムードを出したつもりが、思わぬことになってしまった。瀬菜の惚け具合に今度は、俺がムッとする番だ。これはなにがなんでも、吐かせる必要がありそうだ……。
「……えっ……」
「ほら、見えないし素直に教えて?」
誰に教えてもらったのか、中々吐かない瀬菜に焦れてしまう。スルリとネクタイを外すと、小さな頭に素早く巻きつけ目隠しを施した。
「ちょっと! 見えないのは俺で、お前見えてんじゃん!」
「そうだね? なんで教えてくれないの?」
当たり前のことを興奮気味に訴えるが、突っ込むところはそこではないのになぁと、こっそりと笑ってしまう。
両手を掴むと、密着するように自分の胸へと瀬菜を引き寄せる。鼻先にフワリと香るシャンプーのサボンの香りが鼻を掠め、心地良さに緩んだ口元を耳元へと向けた。
「ねぇ、なんで?」
「だぁーー! 耳元で喋るな! お前……怒るし……」
「ん? そんなイケナイことなの?」
「だからっ! やめっ! あぁーー! 由良りんだよ! コレで満足か!」
「は? カナちゃん?」
全く知らないどこぞの馬の骨にでも卒業という最後のチャンスに告白でもされた……そう思っていたが、どうやら見当違いだったようだ。
俺とカナちゃんは現在、静かに喧嘩中だった。
原因はこの間、バイト先であるvert olive で起こったことだ。俺が話した内容が気に入らなかったのか、カナちゃんは殴り掛かる勢いで胸ぐらを掴み怒鳴ってきた。
その日はまさか瀬菜が来るとは思っておらず、雅臣の機転で原因は卒業旅行の場所について言い合いになっている……ということで隠し通すことができた。けれど、中途半端に放り出された俺とカナちゃんの燻りは、鎮火することなく現在に至っている。表向きは普段と変わらず会話も交わしているが、謂わば冷戦状態のままで改めて話をする必要があった。
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