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第20幕 最後の一日
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「まずは二人共、卒業おめでとう」
「ありがとうございます」
悠斗のあとを追うように、俺もペコリとお辞儀をしてお礼を返す。なにも言わなくてもいいからと扉を開ける前に言われたが、流石に挨拶ぐらいはしっかりしたかった。
「ふふっ、柳君は相変わらず可愛いね」
「……いや、その、お祝いの言葉ありがとうございます」
ニコニコと笑顔で見つめられ、再度お礼を伝える。頭を上げてもジッと見つめられ、緊張と動揺を隠せない俺の手の上にそっとぬくもりが被さった。
あっ、と思うと悠斗と視線が絡み優しく微笑まれる。それからすぐにキリリとした表情で姿勢を正す悠斗に、俺も姿勢を正し前を向いた。
「お爺様。もうご存知だとは思いますが、こちら幼馴染でお隣に住んでいる柳瀬菜です」
「……あぁ、それは知っているよ。柳君からも聞いたからね。それで? 中々紹介してくれなかったというのに、どういう風の吹き回しなんだ?」
「瀬菜は俺にとって大切な人です。友人として……ではなく、もちろん恋愛対象として、将来のパートナーとして。だから、あなたに隠すことを今日でやめます。この関係を理解してくれとは思ってません。でも、これから二人で生きていくことに覚悟を決めたんです」
悠斗は真っ直ぐにおじいさんを見据えると、俺の手をギュッと握りしめた。その手のひらの熱さと、立ち向かう姿に、俺の心臓がドクドクと高鳴る。
「……ほぉ、覚悟か」
おじいさんは笑顔を崩さず面白そうに悠斗を窺うと、フッと一笑し口角をさらに上げた。
「具体的には?」
その問い掛けに悠斗も挑戦するかのように、持ち前の爽やかな笑顔で応えた。
「立花の姓を捨てます」
落ち着きを払った声は、一直線に空気を切り裂く。
瞠目するのはおじいさんだけではなく、置き物と豪語していた理事長も、そして隣に座る俺もだ。
悠斗が言っていることは、単に名字を変えますということではない。これから携わるであろうリッカというブランドも、家族や財産にも一切関わらないということだ。
この先も二人で過ごせたら……と、悠斗を思う気持ちは確かだ。けれど自分の存在のせいで悠斗に全てを捨てさせてしまう。自分にはそんな価値などあるのだろうか。自分のことを深く考えてくれる悠斗の気持ちに嬉しさと不安が交互にせめぎ合う。好きな人にこんな悲しい覚悟を言わせてしまっていいのだろうか。
なにかを言いたくても、全く言葉が見つからない。俺の不安な空気を感じ取ったのか、悠斗は俺に『なにも言わなくていいよ』とでも伝えるように、優しく微笑みながら首を振った。
「参ったねー。それでは話が違う。祐一たちのことはどうするんだ? 反故にでもするのか?」
「祐一さんたちだって大人ですよ。それに困るのはお爺様ではないのですか?」
「そう来るか……。そうだなビジネスの話についてはひとまず置いておこう。私は冷徹に見えても柳君のことは気に入っているんだ。できれば笑顔を見ていたいからね」
「ありがとうございます」
悠斗のあとを追うように、俺もペコリとお辞儀をしてお礼を返す。なにも言わなくてもいいからと扉を開ける前に言われたが、流石に挨拶ぐらいはしっかりしたかった。
「ふふっ、柳君は相変わらず可愛いね」
「……いや、その、お祝いの言葉ありがとうございます」
ニコニコと笑顔で見つめられ、再度お礼を伝える。頭を上げてもジッと見つめられ、緊張と動揺を隠せない俺の手の上にそっとぬくもりが被さった。
あっ、と思うと悠斗と視線が絡み優しく微笑まれる。それからすぐにキリリとした表情で姿勢を正す悠斗に、俺も姿勢を正し前を向いた。
「お爺様。もうご存知だとは思いますが、こちら幼馴染でお隣に住んでいる柳瀬菜です」
「……あぁ、それは知っているよ。柳君からも聞いたからね。それで? 中々紹介してくれなかったというのに、どういう風の吹き回しなんだ?」
「瀬菜は俺にとって大切な人です。友人として……ではなく、もちろん恋愛対象として、将来のパートナーとして。だから、あなたに隠すことを今日でやめます。この関係を理解してくれとは思ってません。でも、これから二人で生きていくことに覚悟を決めたんです」
悠斗は真っ直ぐにおじいさんを見据えると、俺の手をギュッと握りしめた。その手のひらの熱さと、立ち向かう姿に、俺の心臓がドクドクと高鳴る。
「……ほぉ、覚悟か」
おじいさんは笑顔を崩さず面白そうに悠斗を窺うと、フッと一笑し口角をさらに上げた。
「具体的には?」
その問い掛けに悠斗も挑戦するかのように、持ち前の爽やかな笑顔で応えた。
「立花の姓を捨てます」
落ち着きを払った声は、一直線に空気を切り裂く。
瞠目するのはおじいさんだけではなく、置き物と豪語していた理事長も、そして隣に座る俺もだ。
悠斗が言っていることは、単に名字を変えますということではない。これから携わるであろうリッカというブランドも、家族や財産にも一切関わらないということだ。
この先も二人で過ごせたら……と、悠斗を思う気持ちは確かだ。けれど自分の存在のせいで悠斗に全てを捨てさせてしまう。自分にはそんな価値などあるのだろうか。自分のことを深く考えてくれる悠斗の気持ちに嬉しさと不安が交互にせめぎ合う。好きな人にこんな悲しい覚悟を言わせてしまっていいのだろうか。
なにかを言いたくても、全く言葉が見つからない。俺の不安な空気を感じ取ったのか、悠斗は俺に『なにも言わなくていいよ』とでも伝えるように、優しく微笑みながら首を振った。
「参ったねー。それでは話が違う。祐一たちのことはどうするんだ? 反故にでもするのか?」
「祐一さんたちだって大人ですよ。それに困るのはお爺様ではないのですか?」
「そう来るか……。そうだなビジネスの話についてはひとまず置いておこう。私は冷徹に見えても柳君のことは気に入っているんだ。できれば笑顔を見ていたいからね」
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