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第20幕 最後の一日
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「あっ、マスター帰って来た!」
「おーおー、なんじゃお揃いで」
一時的に場は収まったものの、どうにも空気が重い。
三人にとっての救世主が俺なら、俺にとっての救世主はマスターだ。
「俺アレが食べたくて! オスススメのやつ」
「待っていないで悠斗君に頼めばよかったんじゃないか? 作ってくれんかったのか?」
「……だって悠斗、不貞腐れてるんだもん」
カウンター越しの悠斗は、隅のほうでツンツンしながらコップを無駄に磨いている。俺の選択にどうやら不服だったらしい。
恋人の肩を持つのはフェアじゃないと、しっかり自分の意見を述べただけなのにお気に召さない様子だ。おかげでオーダーを取ってもくれず、マスターの帰りを今か今かと待っていたのだ。
「はっはっはー、実にくだらんのぉ~。若者らしくてよいよい」
「そうだろ? 普段とちょっと違う感じで揉めてるから、慌てちゃったよ。もっと重大事件かなって。そしたら旅行の場所とか……くだらないよな。悠斗は意見が通らなかったから、ずっとあんなだし。だからマスター待っていたんだ」
「そうか、そうか。酷い男じゃな。どれ、ならワシが腕を振るうとするかの」
不貞腐れ中の原因を一部始終聞いたマスターは豪快に笑い、戻って来たばかりというのに厨房へと向かった。数分後、こんがりと焼けた香ばしい匂いの素がクツクツと湯気を立て目の前に置かれる。食べる前から口の中が美味しいと喜んでいる。
「やったー♪」
「おぉ、スゲーうまそっ」
「へぇー、コレが噂のやつか」
「今日はチーズを普段の倍にしといたぞ。ほれ、悠斗君も不貞腐っておらんでこっちにおいで」
「…………はい」
悠斗は気不味そうにしながらも、食欲を唆る匂いに負けたのか、渋々輪の中に入ってきた。
「それで? 行く場所も決まったのか?」
「それもさっきから、全然決まらなくて……」
「狭い国内でも有名所いっぱいあるじゃろ」
「あり過ぎて困ってるというか……」
「贅沢じゃのぉ~。ふむ……なら、沖縄なんてどうじゃ? 時間も沢山ある訳じゃし、リゾート気分も味わえる。悠斗君もそれなら国内でも海外気分になれて一件落着と思ったんじゃが?」
マスターが水戸黄門様のように見える。
「おぉ‼︎ それイイ! 俺、沖縄行ったことないし、修学旅行ちょっと沖縄期待してたし!」
「俺もそれ賛成。なによりヤナが乗り気だし」
「村上も実千流も文句言わねぇだろうし。どうだ悠斗、あとはお前次第だけど?」
多澤が最終決定権はお前にやるから不貞腐るなと悠斗に確認すると、悠斗は両手を上げため息を吐いた。
「……分かった、降参。沖縄俺も行きたい。けどカナちゃんは本当に沖縄でいいんだね?」
「はぁ? いいつっただろ? くどい男だな。何度も確認すんな。大賛成だっつーの!」
「……ふーん、まぁ頑張ってね?」
悠斗は爽やかだが含みのある言い方で由良りんに笑いかける。
先ほどまで不貞腐れていたのが嘘のようだ。
「なにを頑張るんだっての」
「うゎ、悠斗……お前それ仕返しかよ」
「ふふっ、やだなぁ~雅臣。心配しただけだよ。だって凄く嫌がっていたから」
あっ……悠斗、意地悪だ。
絶対気づくまで教えてあげないつもりだ。
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