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第18幕 vert olive
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甘い声で囁かれ電信柱の影に誘い込まれると、悠斗の淡い瞳が近づき唇を塞がれていた。その横を車が一台通り過ぎる。電柱と傘で隠れているのをいいことに、追いかけてくる舌に身動きを封じられた。
ねっとりと口腔を愛撫され、重なる舌が反発し合う。角度が変わるたびに銀色の糸が紡がれていく。悠斗の口づけは優しくも情熱的だった。
「──ンッ……ンンッ……」
クチュ……クチュ……と、雨に紛れて異なる音がほのかに響く。雨音のほうが大きいはずなのにこんなにも羞恥心を煽られるのは、公共の場所のせいだろうか。
雨の匂いと悠斗の匂いが、鼻から吸い込む空気に混ざり合う。気付けば自ら肉厚な舌を追いかけ、脳が溶けそうになりながら口づけに夢中になっていた。
唇が離れると上気した面持ちで、睫毛を震わせながら悠斗を見上げる。紺色の傘に包まれ翳る悠斗も心無しか顔が紅いように見える。
先ほどとは違った気まずさに視線を彷徨わせていると、近づく笑い声にビクリと肩を跳ねさせる。小学生ぐらいの男の子たちが数人、こんな場所で立ち止まってなにをしているのかと、興味津々な視線を向けながら通り過ぎていく。
華奢な俺など傘に隠れて、性別など判らないのだろう。コソコソと話す内容が声を抑えていても丸聞こえだ。
『あの人たち、絶対エロイことしてるぜ。痴漢だ痴漢~』
『えっっーー、まじで? エロいのかよ!』
『チンコ? オッパイ? 俺見たい! 本物見たい!』
『お前兄ちゃんのエロ本見すぎなんだよ! エロ~、エロ猿~』
悠斗の胸に顔を伏せながら、無意味に息をとめ気配を隠す。
耳に入る小学生の言葉は意味不明だ。無駄に下ネタを連呼し遊んでいるのだろう。けれど、実際に往来でキスをしたことは事実。悠斗の胸に額を埋め、電柱に頭を叩きつけたい衝動をごまかした。
「……クスッ、行ったみたい」
「最悪……」
「小学生なんて、みんなあんなものだよ」
「俺たちがあのぐらいの時は、もっと品があったろ?」
「ふふっ、それは瀬菜が初々しかったからでしょ」
「なんだよそれ……ガキだって言いたいのか? ──はっ、はくしゅんっ!」
「大変、瀬菜本当に風邪引いた? 早く帰ろ?」
「あーどうかな。俺ここ何年も風邪なんて引いてねえし」
コツンと悠斗の額が、俺の額に触れる。至近距離の悠斗の表情が真剣そのもで余計に恥ずかしさを感じる。
「……熱はなさそうだけど……大丈夫? 顔赤いよ?」
そう言うと、当たり前のように額に唇が落とされた。
悠斗にとっては他愛もないことだが、俺はそんな些細なことでも身体が熱くなってしまう。傘の中での秘事は刺激的でドキドキだ。
さり気なく腰に回された手に促されながら、相合傘で歩くぐらいが子供じみているが丁度いい。熱の冷めない火照る顔を、雨の冷たい飛沫に当てながら、相合傘を堪能するためにゆっくりと足を進めたのは内緒だった。
ねっとりと口腔を愛撫され、重なる舌が反発し合う。角度が変わるたびに銀色の糸が紡がれていく。悠斗の口づけは優しくも情熱的だった。
「──ンッ……ンンッ……」
クチュ……クチュ……と、雨に紛れて異なる音がほのかに響く。雨音のほうが大きいはずなのにこんなにも羞恥心を煽られるのは、公共の場所のせいだろうか。
雨の匂いと悠斗の匂いが、鼻から吸い込む空気に混ざり合う。気付けば自ら肉厚な舌を追いかけ、脳が溶けそうになりながら口づけに夢中になっていた。
唇が離れると上気した面持ちで、睫毛を震わせながら悠斗を見上げる。紺色の傘に包まれ翳る悠斗も心無しか顔が紅いように見える。
先ほどとは違った気まずさに視線を彷徨わせていると、近づく笑い声にビクリと肩を跳ねさせる。小学生ぐらいの男の子たちが数人、こんな場所で立ち止まってなにをしているのかと、興味津々な視線を向けながら通り過ぎていく。
華奢な俺など傘に隠れて、性別など判らないのだろう。コソコソと話す内容が声を抑えていても丸聞こえだ。
『あの人たち、絶対エロイことしてるぜ。痴漢だ痴漢~』
『えっっーー、まじで? エロいのかよ!』
『チンコ? オッパイ? 俺見たい! 本物見たい!』
『お前兄ちゃんのエロ本見すぎなんだよ! エロ~、エロ猿~』
悠斗の胸に顔を伏せながら、無意味に息をとめ気配を隠す。
耳に入る小学生の言葉は意味不明だ。無駄に下ネタを連呼し遊んでいるのだろう。けれど、実際に往来でキスをしたことは事実。悠斗の胸に額を埋め、電柱に頭を叩きつけたい衝動をごまかした。
「……クスッ、行ったみたい」
「最悪……」
「小学生なんて、みんなあんなものだよ」
「俺たちがあのぐらいの時は、もっと品があったろ?」
「ふふっ、それは瀬菜が初々しかったからでしょ」
「なんだよそれ……ガキだって言いたいのか? ──はっ、はくしゅんっ!」
「大変、瀬菜本当に風邪引いた? 早く帰ろ?」
「あーどうかな。俺ここ何年も風邪なんて引いてねえし」
コツンと悠斗の額が、俺の額に触れる。至近距離の悠斗の表情が真剣そのもで余計に恥ずかしさを感じる。
「……熱はなさそうだけど……大丈夫? 顔赤いよ?」
そう言うと、当たり前のように額に唇が落とされた。
悠斗にとっては他愛もないことだが、俺はそんな些細なことでも身体が熱くなってしまう。傘の中での秘事は刺激的でドキドキだ。
さり気なく腰に回された手に促されながら、相合傘で歩くぐらいが子供じみているが丁度いい。熱の冷めない火照る顔を、雨の冷たい飛沫に当てながら、相合傘を堪能するためにゆっくりと足を進めたのは内緒だった。
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