王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
505 / 716
第16幕 新たな決意

04

しおりを挟む
 保健室に行き、そっと中の様子を窺う。シーンとしているようだ。実千流はまだ目覚めていないのかもしれない。
 扉を静かに開けると、白衣姿ではなくきっちりとスーツを着込み、いつものボサボサ髪を妙にきっちり纏めた佐上先生が気まずそうに顔を顰めていた。
 俺達に気付くとポリポリと頭を掻きながら、カーテンが掛かるベッドのほうへと視線を投げた。耳を澄ますと閉じたカーテンの中から、小さくしゃくり上げる声が聞こえていた。

 いまいち状況が分からないが、取り敢えず俺ひとりが中の様子を確認することにした。
 カーテンを細く開くと、環樹先輩はらしくなく困惑した表情で口を閉じ、実千流をただ見つめていた。

「……実千流? 入ってもいい?」

 目を真っ赤にさせながら、ポロポロと涙を流す実千流が、俺を見つめると余計に涙を溢れさせた。

「──ッ、せにゃぁ~~ッ!」

 涙声で呂律の回らない実千流に駆け寄ると、ベッドに乗り上げて抱きしめた。式典中の凛とした姿と、今の実千流はまるで別人だ。
 環樹先輩に視線で合図すると、外に出てもらった。先輩の気配がなくなると、実千流は少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「具合はどうだ?」
「……大丈夫……疲労だって」
「熱は……下がった? 倒れたとき凄く熱かったんだぞ?」
「……うん、ごめん……」
「謝ることじゃないけど、今後は無理しないで教えろよ?」
「うん、さっき環樹にも凄く怒られた……。俺……嫌われたんだ……ふられたぁ~っ!」

 瞳からまたポロポロと涙が溢れる。

「ふられたって……告白したのか?」
「……違うけどっ……でもっ、折角の卒業式なのに……台無しにして……俺が倒れたせいでっ」
「別に台無しにしていないだろ? 実千流は最後まで、しっかりやっていたよ? 倒れたのも片付けのときじゃん。先輩が怒ったのは、お前が無理して先輩を心配させたからだ。てか、お前! 少し落ち着けよ。勝手に妄想広げて凹むなよな。俺が焦るだろ⁉」

 普段しっかりしているくせに、熱でおかしくなったのか、ひとり妄想を繰り広げる実千流。気持ちが昂り過ぎて、収拾がつかなくなっているのだろう。

「なぁ、実千流。ちゃんと先輩と話をしろ。泣くのはそれからだ」
「……うん。瀬菜も一緒に居てくれる?」

 頼りなさげに呟く実千流に、俺は思わず頷きそうになるが、ぐっと堪えて首を横に振った。

「甘えるな。バーカ。相手が違うんじゃい!」

 ぱしゅんっとデコピンしてやると、いつも通りの実千流がおでこを擦りながら大声を出す。

「──ぐはっ! いっ痛っ! 瀬菜のアホー!」
「へへっ、元気じゃんか! 安心したし、用が済んだら俺は先に帰るからな」
「えーーっ! 待っててくれないの? それなら俺も一緒に帰るよー」
「お前はまだ寝とけ! せんぱーい! 環樹先輩!」

 カーテンを開け先輩を呼び出すと、由良りんが持っていた花束と粗品を受け取り、横流しで渡すと矢継ぎ早に別れの挨拶をした。

「先輩、卒業おめでとうございます。二年間お世話になりました。また会えたらいいですね」
「姫乃ちゃん……感情込もってないよ~」
「魔王討伐瞬殺! 柳ちゃん強っ!」
「日頃の行いじゃねぇの? ほら、瀬菜にだいぶちょっかい出していたし」
「身から出た錆びだな」
「俺も言いたいこと山程あるけど、実千流ちゃん待たせる訳にはいかないからまた今度にしますね。先輩、覚悟決めてくださいね」

 環樹先輩は頬を引きつらせ、大きなため息を漏らす。

「お前ら最初から最後まで言いたい放題だな~。覚悟ね~、そんなの……さぁ、とっとと出てった~♪」

 シッシと出て行けのジェスチャーをする先輩に、俺達はニヤリと悪い笑顔で保健室を出ていった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...