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第16幕 新たな決意
04
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保健室に行き、そっと中の様子を窺う。シーンとしているようだ。実千流はまだ目覚めていないのかもしれない。
扉を静かに開けると、白衣姿ではなくきっちりとスーツを着込み、いつものボサボサ髪を妙にきっちり纏めた佐上先生が気まずそうに顔を顰めていた。
俺達に気付くとポリポリと頭を掻きながら、カーテンが掛かるベッドのほうへと視線を投げた。耳を澄ますと閉じたカーテンの中から、小さくしゃくり上げる声が聞こえていた。
いまいち状況が分からないが、取り敢えず俺ひとりが中の様子を確認することにした。
カーテンを細く開くと、環樹先輩はらしくなく困惑した表情で口を閉じ、実千流をただ見つめていた。
「……実千流? 入ってもいい?」
目を真っ赤にさせながら、ポロポロと涙を流す実千流が、俺を見つめると余計に涙を溢れさせた。
「──ッ、せにゃぁ~~ッ!」
涙声で呂律の回らない実千流に駆け寄ると、ベッドに乗り上げて抱きしめた。式典中の凛とした姿と、今の実千流はまるで別人だ。
環樹先輩に視線で合図すると、外に出てもらった。先輩の気配がなくなると、実千流は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「具合はどうだ?」
「……大丈夫……疲労だって」
「熱は……下がった? 倒れたとき凄く熱かったんだぞ?」
「……うん、ごめん……」
「謝ることじゃないけど、今後は無理しないで教えろよ?」
「うん、さっき環樹にも凄く怒られた……。俺……嫌われたんだ……ふられたぁ~っ!」
瞳からまたポロポロと涙が溢れる。
「ふられたって……告白したのか?」
「……違うけどっ……でもっ、折角の卒業式なのに……台無しにして……俺が倒れたせいでっ」
「別に台無しにしていないだろ? 実千流は最後まで、しっかりやっていたよ? 倒れたのも片付けのときじゃん。先輩が怒ったのは、お前が無理して先輩を心配させたからだ。てか、お前! 少し落ち着けよ。勝手に妄想広げて凹むなよな。俺が焦るだろ⁉」
普段しっかりしているくせに、熱でおかしくなったのか、ひとり妄想を繰り広げる実千流。気持ちが昂り過ぎて、収拾がつかなくなっているのだろう。
「なぁ、実千流。ちゃんと先輩と話をしろ。泣くのはそれからだ」
「……うん。瀬菜も一緒に居てくれる?」
頼りなさげに呟く実千流に、俺は思わず頷きそうになるが、ぐっと堪えて首を横に振った。
「甘えるな。バーカ。相手が違うんじゃい!」
ぱしゅんっとデコピンしてやると、いつも通りの実千流がおでこを擦りながら大声を出す。
「──ぐはっ! いっ痛っ! 瀬菜のアホー!」
「へへっ、元気じゃんか! 安心したし、用が済んだら俺は先に帰るからな」
「えーーっ! 待っててくれないの? それなら俺も一緒に帰るよー」
「お前はまだ寝とけ! せんぱーい! 環樹先輩!」
カーテンを開け先輩を呼び出すと、由良りんが持っていた花束と粗品を受け取り、横流しで渡すと矢継ぎ早に別れの挨拶をした。
「先輩、卒業おめでとうございます。二年間お世話になりました。また会えたらいいですね」
「姫乃ちゃん……感情込もってないよ~」
「魔王討伐瞬殺! 柳ちゃん強っ!」
「日頃の行いじゃねぇの? ほら、瀬菜にだいぶちょっかい出していたし」
「身から出た錆びだな」
「俺も言いたいこと山程あるけど、実千流ちゃん待たせる訳にはいかないからまた今度にしますね。先輩、覚悟決めてくださいね」
環樹先輩は頬を引きつらせ、大きなため息を漏らす。
「お前ら最初から最後まで言いたい放題だな~。覚悟ね~、そんなの……さぁ、とっとと出てった~♪」
シッシと出て行けのジェスチャーをする先輩に、俺達はニヤリと悪い笑顔で保健室を出ていった。
扉を静かに開けると、白衣姿ではなくきっちりとスーツを着込み、いつものボサボサ髪を妙にきっちり纏めた佐上先生が気まずそうに顔を顰めていた。
俺達に気付くとポリポリと頭を掻きながら、カーテンが掛かるベッドのほうへと視線を投げた。耳を澄ますと閉じたカーテンの中から、小さくしゃくり上げる声が聞こえていた。
いまいち状況が分からないが、取り敢えず俺ひとりが中の様子を確認することにした。
カーテンを細く開くと、環樹先輩はらしくなく困惑した表情で口を閉じ、実千流をただ見つめていた。
「……実千流? 入ってもいい?」
目を真っ赤にさせながら、ポロポロと涙を流す実千流が、俺を見つめると余計に涙を溢れさせた。
「──ッ、せにゃぁ~~ッ!」
涙声で呂律の回らない実千流に駆け寄ると、ベッドに乗り上げて抱きしめた。式典中の凛とした姿と、今の実千流はまるで別人だ。
環樹先輩に視線で合図すると、外に出てもらった。先輩の気配がなくなると、実千流は少しずつ落ち着きを取り戻していった。
「具合はどうだ?」
「……大丈夫……疲労だって」
「熱は……下がった? 倒れたとき凄く熱かったんだぞ?」
「……うん、ごめん……」
「謝ることじゃないけど、今後は無理しないで教えろよ?」
「うん、さっき環樹にも凄く怒られた……。俺……嫌われたんだ……ふられたぁ~っ!」
瞳からまたポロポロと涙が溢れる。
「ふられたって……告白したのか?」
「……違うけどっ……でもっ、折角の卒業式なのに……台無しにして……俺が倒れたせいでっ」
「別に台無しにしていないだろ? 実千流は最後まで、しっかりやっていたよ? 倒れたのも片付けのときじゃん。先輩が怒ったのは、お前が無理して先輩を心配させたからだ。てか、お前! 少し落ち着けよ。勝手に妄想広げて凹むなよな。俺が焦るだろ⁉」
普段しっかりしているくせに、熱でおかしくなったのか、ひとり妄想を繰り広げる実千流。気持ちが昂り過ぎて、収拾がつかなくなっているのだろう。
「なぁ、実千流。ちゃんと先輩と話をしろ。泣くのはそれからだ」
「……うん。瀬菜も一緒に居てくれる?」
頼りなさげに呟く実千流に、俺は思わず頷きそうになるが、ぐっと堪えて首を横に振った。
「甘えるな。バーカ。相手が違うんじゃい!」
ぱしゅんっとデコピンしてやると、いつも通りの実千流がおでこを擦りながら大声を出す。
「──ぐはっ! いっ痛っ! 瀬菜のアホー!」
「へへっ、元気じゃんか! 安心したし、用が済んだら俺は先に帰るからな」
「えーーっ! 待っててくれないの? それなら俺も一緒に帰るよー」
「お前はまだ寝とけ! せんぱーい! 環樹先輩!」
カーテンを開け先輩を呼び出すと、由良りんが持っていた花束と粗品を受け取り、横流しで渡すと矢継ぎ早に別れの挨拶をした。
「先輩、卒業おめでとうございます。二年間お世話になりました。また会えたらいいですね」
「姫乃ちゃん……感情込もってないよ~」
「魔王討伐瞬殺! 柳ちゃん強っ!」
「日頃の行いじゃねぇの? ほら、瀬菜にだいぶちょっかい出していたし」
「身から出た錆びだな」
「俺も言いたいこと山程あるけど、実千流ちゃん待たせる訳にはいかないからまた今度にしますね。先輩、覚悟決めてくださいね」
環樹先輩は頬を引きつらせ、大きなため息を漏らす。
「お前ら最初から最後まで言いたい放題だな~。覚悟ね~、そんなの……さぁ、とっとと出てった~♪」
シッシと出て行けのジェスチャーをする先輩に、俺達はニヤリと悪い笑顔で保健室を出ていった。
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