王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第14幕 季節外れの天使ちゃん

32

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 悠斗が表に出るとすぐに黄色い声が響く。午前中に会えなかったと出待ち状態でスタンバイする子も居たようだ。イライラすると思った気持ちはなぜか穏やかだった。

「……あら? 柳ちゃんってば冷静ね?」
「まぁね。十分文化祭デート楽しめたし……それに、いっぱい愛された……かな?」
「はぁ~あ~羨ましいわぁ~♡ 私も特別を作ろうかしら」
「へぇー、特別ね? お前ならきっとすぐにできるんじゃね?」
「まさかー。簡単に出来たらこんな寂しい思いしていないわ。柳ちゃんが慰めて~♪」
「──わっ! 痛いっ、髭っ‼︎」

 悠斗が先ほど痛がっていたのが良く分かる。
 女装をするなら剃ってきてほしい。

「夏子……騒いでいると思えば……やめて。瀬菜のマシュマロ肌が傷ついちゃう」
「それもそうね……ごめんね柳ちゃーん♡」
「だっ、だから~! 痛いってば!」

 分かっていてわざとスリスリしているのか、俺の頰はジョリジョリに撫で上げられ、ちょっぴりヒリヒリと紅くなってしまった。両手で頰を包み痛いと訴えると、悠斗に呼ばれ顔を上げた。
 口元にコロンとしたカステラを差し出され、無意識にパクっと食べると、甘くてジューシーだ。

「美味しい?」
「うん! イチゴじゃん。美味い~♪」
「良かった。今の一個だけ特別製だよ?」
「えーー先に言ってくれよ。もっと味わって食べたのに~」
「ふふっ、思うままに食べるからいいんじゃない」
「そっか。ありがとうな♪」

 俺だけのたった一粒のスペシャルは、あっという間に俺の胃袋へ流れていった。それでも、口の中にほのかに残る甘酸っぱさが、イチゴの果汁のように俺の心を潤わせてくれた。

 へへっ……俺だけだって。

 唇に指先を乗せて特別を堪能する。その横で夏子が悠斗にまた絡む姿を見て、俺も平和な日常に和んでいた。
 今年の文化祭は悠斗の悪戯があったにせよ、昨年よりもずいぶん穏やかだった。明日からは生徒会に専念しなければならないが、だからこそ俺の安全は保証されている。一日目は売り上げも上場で、無事終えることとなった。


***


 二日目の朝も天気が良く清々しい気温だ。今日は生徒会で色々やることがあるが、お祭りはやっぱり普段勉強するものとは違いワクワクしてしまう。
 一般参加が増え来賓も多いが、気分良く悠斗と二人家を出た。教室に寄りクラスの朝礼を済ますと、生徒会組のメンバーは、早々に生徒会室へと向かった。

 環樹先輩の注意事項を聞くと、文化祭実行委員と生徒会メンバーはそれぞれ持ち場に散っていった。

「雅臣。瀬菜のことよろしくね?」
「了解。お前も色々頑張れー」
「悠斗、村上。お昼に店に行くからな。今日もいっぱい稼いで来いよ?」
「任せてちょうだい♪」

 悠斗は村上と二人、人気ペアでクラスの店に午前中は付きっ切りだ。俺はといえば生徒会では珍しく多澤とペアを組まされた。文化祭開始前に行われる各来賓の資料を配る役目を仰せつかったのだ。
 私立なだけあって行事の方向性などを学校側もアピールしたいのかもしれない。

「……瀬菜お前平気かよ」
「──へっ、平気!」
「無理に持つことねぇのに。もうちょい寄越せ」
「……大丈夫。体育館もうすぐだし」
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