王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第14幕 季節外れの天使ちゃん

26

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 由良りんに手を突っ張り押し上げていると、カサっと芝生を踏む音が聞こえ、視線を向けると黒い靴が目に入った。

「……カナちゃん。それいつまで続ける気?」
「ヤナにキスするまでだよ。アホが」
「悠斗早く助けろよ! バカ」
「……アホに……バカ……ね?」

 ゴーゴーとドス黒いモヤを背中の背負った悠斗は、冷めた笑顔で見下ろし、俺たちを冷静にさせた。
 由良りんと同じようにウェイター姿の悠斗は、ハーフアップの髪型で害などなさそうな清潔感が溢れ爽やかだ。女子達が騒ぐのも無理はないかと、大人びた姿に見惚れてしまう。鈴カステラ屋さんだけども。

「遅ぇんだよ! ちんたらしてるから、ちょっかい出したくなんだろ」
「人のせいにしないで。カナちゃんが逃亡したから、余計に脱け出すの大変だったんでしょ」
「真面目にやってられっかよ。数時間笑顔振り撒いただけで十分だろ。俺がサボったおかげで、ヤナも無事で済んだんだ。感謝しろ」
「……瀬菜はまたなにかやらかしたの? そんな可愛い姿じゃ周りが放っておかないか……」
「だーかーらー! 俺はなにもしていない。ちょっとナンパに会っただけだ」
「ったくよ。もうひとりになるなよ。自分を鏡でしっかり確認しておけ。あー最悪……俺、昼寝する」

 由良りんは機嫌を直すことなくどこかへと行ってしまった。
 背中が丸いのはどうしてなのか。

「……ふふっ、かわいそう」
「かわいそうって?」
「瀬菜は知らなくていいの。それよりお昼は食べた?」
「ううん。実千流と行こうとしたけど、先輩が連れてっちゃって」
「ああ、実千流ちゃんもこれから色々大変だしね。姫乃ちゃんは俺と今からデート」

 悠斗は俺に笑い掛けながら手を握って立ち上がらせる。実千流じゃないが、こういうときは女装をして良かったなと素直に思う。

「店はいいのか?」
「そろそろ交代の時間。午後はお笑い組に任せるよ。なんてったって夏子が居るし。それに明日は一般の来客もあるから生徒会が忙しいくなっちゃう」
「へへっ、それもそうか。ああ、でもあとで夏子を冷やかしに行こうな」
「クスッ、村上君張り切っていたからね」


 露店をいくつか梯子しお腹に収めると、あちこち二人で構内を見て回った。文化祭にだけ現れる悠斗の恋人は、去年に引き続き注目を嫌でも集めていた。
 ウェイターと女子高生というアンバランスな組み合わせだが、通り過ぎる人達は皆振り返りひそひそと話をしている。悠斗は着飾っていなくても華があり、横に居る自分が恋人なのだと主張すると、妙に優越感が湧いてしまい頰が勝手に緩んでしまう。
 嬉しそうにする俺を悠斗は優しく微笑み、まるで付き合いたてのカップルのようだ。ほんわかしたデートは久し振りで擽ったい。

「さっきまでイライラしてたんだ」
「どうして?」
「だってさ、相変わらず悠斗は学園の王子様って感じで、女の子はみんなお前を狙っているから。店から出て来る子出て来る子、恋する乙女って感じで、行列凄くて近寄れないしさ」
「見慣れない姿だったからだよ。瀬菜だってあっという間に実千流ちゃんと噂になったでしょ。チラシ持って来た男子が血眼だったから心配していたんだ。実千流ちゃんと一緒なら大丈夫かなって、安心していたんだけど。そうでもなかったみたいだね」

 悠斗の指先が咎めるように絡まり、ギュッと握り直してくる。

「由良りんが通りがかってくれて良かったよ」
「イライラしたのは瀬菜だけじゃない。カナちゃんになにかしたの?」
「いつも通りに話てただけだよ。けど由良りんちょっと変だったよな?」
「そう? ……あっ、そうだ俺大切な用事があった」
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