475 / 716
第14幕 季節外れの天使ちゃん
26
しおりを挟む
由良りんに手を突っ張り押し上げていると、カサっと芝生を踏む音が聞こえ、視線を向けると黒い靴が目に入った。
「……カナちゃん。それいつまで続ける気?」
「ヤナにキスするまでだよ。アホが」
「悠斗早く助けろよ! バカ」
「……アホに……バカ……ね?」
ゴーゴーとドス黒いモヤを背中の背負った悠斗は、冷めた笑顔で見下ろし、俺たちを冷静にさせた。
由良りんと同じようにウェイター姿の悠斗は、ハーフアップの髪型で害などなさそうな清潔感が溢れ爽やかだ。女子達が騒ぐのも無理はないかと、大人びた姿に見惚れてしまう。鈴カステラ屋さんだけども。
「遅ぇんだよ! ちんたらしてるから、ちょっかい出したくなんだろ」
「人のせいにしないで。カナちゃんが逃亡したから、余計に脱け出すの大変だったんでしょ」
「真面目にやってられっかよ。数時間笑顔振り撒いただけで十分だろ。俺がサボったおかげで、ヤナも無事で済んだんだ。感謝しろ」
「……瀬菜はまたなにかやらかしたの? そんな可愛い姿じゃ周りが放っておかないか……」
「だーかーらー! 俺はなにもしていない。ちょっとナンパに会っただけだ」
「ったくよ。もうひとりになるなよ。自分を鏡でしっかり確認しておけ。あー最悪……俺、昼寝する」
由良りんは機嫌を直すことなくどこかへと行ってしまった。
背中が丸いのはどうしてなのか。
「……ふふっ、かわいそう」
「かわいそうって?」
「瀬菜は知らなくていいの。それよりお昼は食べた?」
「ううん。実千流と行こうとしたけど、先輩が連れてっちゃって」
「ああ、実千流ちゃんもこれから色々大変だしね。姫乃ちゃんは俺と今からデート」
悠斗は俺に笑い掛けながら手を握って立ち上がらせる。実千流じゃないが、こういうときは女装をして良かったなと素直に思う。
「店はいいのか?」
「そろそろ交代の時間。午後はお笑い組に任せるよ。なんてったって夏子が居るし。それに明日は一般の来客もあるから生徒会が忙しいくなっちゃう」
「へへっ、それもそうか。ああ、でもあとで夏子を冷やかしに行こうな」
「クスッ、村上君張り切っていたからね」
露店をいくつか梯子しお腹に収めると、あちこち二人で構内を見て回った。文化祭にだけ現れる悠斗の恋人は、去年に引き続き注目を嫌でも集めていた。
ウェイターと女子高生というアンバランスな組み合わせだが、通り過ぎる人達は皆振り返りひそひそと話をしている。悠斗は着飾っていなくても華があり、横に居る自分が恋人なのだと主張すると、妙に優越感が湧いてしまい頰が勝手に緩んでしまう。
嬉しそうにする俺を悠斗は優しく微笑み、まるで付き合いたてのカップルのようだ。ほんわかしたデートは久し振りで擽ったい。
「さっきまでイライラしてたんだ」
「どうして?」
「だってさ、相変わらず悠斗は学園の王子様って感じで、女の子はみんなお前を狙っているから。店から出て来る子出て来る子、恋する乙女って感じで、行列凄くて近寄れないしさ」
「見慣れない姿だったからだよ。瀬菜だってあっという間に実千流ちゃんと噂になったでしょ。チラシ持って来た男子が血眼だったから心配していたんだ。実千流ちゃんと一緒なら大丈夫かなって、安心していたんだけど。そうでもなかったみたいだね」
悠斗の指先が咎めるように絡まり、ギュッと握り直してくる。
「由良りんが通りがかってくれて良かったよ」
「イライラしたのは瀬菜だけじゃない。カナちゃんになにかしたの?」
「いつも通りに話てただけだよ。けど由良りんちょっと変だったよな?」
「そう? ……あっ、そうだ俺大切な用事があった」
「……カナちゃん。それいつまで続ける気?」
「ヤナにキスするまでだよ。アホが」
「悠斗早く助けろよ! バカ」
「……アホに……バカ……ね?」
ゴーゴーとドス黒いモヤを背中の背負った悠斗は、冷めた笑顔で見下ろし、俺たちを冷静にさせた。
由良りんと同じようにウェイター姿の悠斗は、ハーフアップの髪型で害などなさそうな清潔感が溢れ爽やかだ。女子達が騒ぐのも無理はないかと、大人びた姿に見惚れてしまう。鈴カステラ屋さんだけども。
「遅ぇんだよ! ちんたらしてるから、ちょっかい出したくなんだろ」
「人のせいにしないで。カナちゃんが逃亡したから、余計に脱け出すの大変だったんでしょ」
「真面目にやってられっかよ。数時間笑顔振り撒いただけで十分だろ。俺がサボったおかげで、ヤナも無事で済んだんだ。感謝しろ」
「……瀬菜はまたなにかやらかしたの? そんな可愛い姿じゃ周りが放っておかないか……」
「だーかーらー! 俺はなにもしていない。ちょっとナンパに会っただけだ」
「ったくよ。もうひとりになるなよ。自分を鏡でしっかり確認しておけ。あー最悪……俺、昼寝する」
由良りんは機嫌を直すことなくどこかへと行ってしまった。
背中が丸いのはどうしてなのか。
「……ふふっ、かわいそう」
「かわいそうって?」
「瀬菜は知らなくていいの。それよりお昼は食べた?」
「ううん。実千流と行こうとしたけど、先輩が連れてっちゃって」
「ああ、実千流ちゃんもこれから色々大変だしね。姫乃ちゃんは俺と今からデート」
悠斗は俺に笑い掛けながら手を握って立ち上がらせる。実千流じゃないが、こういうときは女装をして良かったなと素直に思う。
「店はいいのか?」
「そろそろ交代の時間。午後はお笑い組に任せるよ。なんてったって夏子が居るし。それに明日は一般の来客もあるから生徒会が忙しいくなっちゃう」
「へへっ、それもそうか。ああ、でもあとで夏子を冷やかしに行こうな」
「クスッ、村上君張り切っていたからね」
露店をいくつか梯子しお腹に収めると、あちこち二人で構内を見て回った。文化祭にだけ現れる悠斗の恋人は、去年に引き続き注目を嫌でも集めていた。
ウェイターと女子高生というアンバランスな組み合わせだが、通り過ぎる人達は皆振り返りひそひそと話をしている。悠斗は着飾っていなくても華があり、横に居る自分が恋人なのだと主張すると、妙に優越感が湧いてしまい頰が勝手に緩んでしまう。
嬉しそうにする俺を悠斗は優しく微笑み、まるで付き合いたてのカップルのようだ。ほんわかしたデートは久し振りで擽ったい。
「さっきまでイライラしてたんだ」
「どうして?」
「だってさ、相変わらず悠斗は学園の王子様って感じで、女の子はみんなお前を狙っているから。店から出て来る子出て来る子、恋する乙女って感じで、行列凄くて近寄れないしさ」
「見慣れない姿だったからだよ。瀬菜だってあっという間に実千流ちゃんと噂になったでしょ。チラシ持って来た男子が血眼だったから心配していたんだ。実千流ちゃんと一緒なら大丈夫かなって、安心していたんだけど。そうでもなかったみたいだね」
悠斗の指先が咎めるように絡まり、ギュッと握り直してくる。
「由良りんが通りがかってくれて良かったよ」
「イライラしたのは瀬菜だけじゃない。カナちゃんになにかしたの?」
「いつも通りに話てただけだよ。けど由良りんちょっと変だったよな?」
「そう? ……あっ、そうだ俺大切な用事があった」
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる