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第14幕 季節外れの天使ちゃん
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月曜日、学校へ登校するとなぜか実千流の姿が見えなかった。
……実千流……今日は休み?
先輩となにかあったのかな……。
交換したばかりの連絡先にメッセージを送るが、既読にもならず始業を知らせるチャイムが鳴ってしまった。
担任が「ホームルーム始めるぞー」と教室に入ると、クラスはざわつきながらも皆席に着席していた。
「あーえー……んっ……うんんっ! ホームルームを始める前に、今日はみんなに伝えることがある」
担任が妙に無駄に咳払いをする姿に、皆が顔を見合わせこそこそと会話をしていた。
明らかに動揺し、歯切れがよろしくない。その姿に嫌な予感を覚え、やはりなにかあったのだと不安を募らせてしまう。
「……先週転校して来た斎賀実千流だか……少々手違いがあったらしく……うん、まぁ……斎賀、入りなさい」
ガラリと扉がスライドし、「失礼します」と実千流の姿を見て安堵する。けれどなぜか実千流は女装姿ではなく、男子高校生姿で教壇の横に佇んでいた。
教室がざわざわするのも無理はない。真実を知る俺とは逆に、皆、女の子の実千流と目の前の実千流に混乱しているようだ。
「……ああ、みんな静かに! 実はな、先週来ていた斎賀は斎賀なんだが、斎賀実千流ではなく、双子の妹……の斎賀だったらしい。それぞれ転校先を間違えた……だったか? でまぁ、ここに居る斎賀実千流が正しい斎賀だ。えー先生も混乱してるが、改めて仲良くしてやってくれー」
イヤイヤ……それ……無理矢理過ぎね?
「あーえっと? 妹は名前だって? 妹の斎賀はここには通わない訳だし気にしても仕方ないだろ? ほら、静かに。斎賀は……斎賀の席に」
斎賀斎賀と連呼する先生も最終的に投げやりに言うと、手元のメモを存在に見ながら締め括った。みんなもポカーンとしながら先生と実千流を交互に見ていた。
そんな俺も意味が解らなくなり、実千流を見ると視線がぶつかった。少し不貞腐れた表情だったが、口パグで「あとで」と俺に伝えてきた。
「混乱させて申し訳ないですが、改めて皆さんよろしくお願いします」
教室に凛と響く声でハッキリと自己紹介すると、実千流は丁寧にお辞儀をしていた。
その礼儀正しい姿に動揺するクラスメイトも、拍手をしその場は一応丸く収まったのだった。
「あーもう、最悪だった。休み時間の度に質問攻めでさ。そんなに女の子のほうが良かったのかって感じ~」
「実千流さーん。それ自分で撒いた種ですよー」
ランチになると、実千流といつものメンバーで逃げるように屋上へと向かった。
どうやら実千流の妹について、男子生徒から終始質問攻めだったらしい。しかし妹など存在しないのだ。一度嘘をつくと収集がつかなくなることぐらい目に見えていたはずだ。それでもこうして無理やりねじ込めたのは、理事長の血縁関係だからにほかならない。
「環樹ってば女装続けるなら、強制的に転校させるって、他校のパンフレットまで持ち出したんだ」
「でも、ほらずっと女装してる訳には……」
「そうだよ? 丁度いいタイミングだったと思うよ? 先輩が先生に説明してくれたんでしょ?」
「そうだけど……。俺、折角可愛くしたのに……」
確かに天使降臨と噂されるほど可愛かった。
しばらくは学校を賑わす噂だけがひとり歩きするのだろう。
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