王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
439 / 716
第13幕 ひとりぼっち

17

しおりを挟む
 祐一さんは今年で二十九歳だ。間もなく三十歳ということもあり、周りから結婚について聞かれることが多くなっていた。次期社長ということもあり、周りからの期待は年々膨らんでいた。そんな祐一さんを自分の娘にと縁談話は一度や二度の話しではなかった。
 中々首を縦に振らない祐一さんに、業を煮やしたのがお爺様だった。同業の知人のお嬢様と顔合わせをさせ、祐一さんの意見は置き去りに、婚約を結ぶ直前まで話は進んでいた。

 その話はリッカ中を駆け巡った。もちろんそこで働いている佐伯さんの耳にも。最初に別れを切り出したのは佐伯さんだった。祐一さんのためを思ってのことだったが、祐一さんはショックを隠し切れなかった。
 悩み悩んだ祐一さんは、婚約者になるであろう相手を呼び出し、自身のセクシャリティについて打ち明けた。けれど相手はなぜか引き下がらず、たいした問題ではないと返答したようだ。どうやら背景には、政略的な問題もあったようだ。

 埒が明かない祐一さんは、お爺様に直談判した。もちろん最初は相手にもされなかったが、隠していた事実……佐伯さんとの関係を洗いざらい打ち明けた。
 祐一さんは断絶覚悟の上だったそうだ。けれどお爺様は全てを許さず、古希のお祝いで親族中に婚約の話を発表した。追い込まれた祐一さんは、そこでも自分のセクシャリティを言う羽目になり、相当言葉で辱められた。顔に泥を塗られたお爺様は激怒し、言い争いの上、その場で次期社長を悠斗にすると断言したようだ。

「……瀬菜のこと、あの状況では言えなかった。佐伯さんも相当圧力掛けられたんだ。瀬菜にそれが向けられるのが怖かった。急成長したのは爺様の代からで、社長交代したといっても、まだ実質爺様が支えてるんだ。そのせいか中々意見が通らなくてね。本家に駆けつけたときには倒れたはずの爺様も元気だった。頃合いを見て帰ろうとしたら、俺は残れって父さんの意見も無視だった。おかげで俺は数日、爺様のご機嫌取りと本社で社会勉強。瀬菜に連絡入れる時間すらもらえなかった」

 悠斗は俺を背後から強く抱きしめると、「ごめん」と謝罪を口にする。俺はなにも言えず、ただ首を横に振るだけだった。
 高校生のうちから経営を学ぶ。それは結構大変なことだと思う。自分も数日、佐伯さんに色々教わったが、悠斗ほどではなかった。気を使いながらいきなり学べと……お前が社長になれと言われる重圧。
 祐一さんも次は自分が会社を引き継がなければと、それなりの準備や苦労を重ね今まで経験を積んできたはずだ。憔悴した祐一さんの顔が浮かぶ。

「……悠斗はリッカの社長にいずれなるの?」
「俺は元々リッカで働くつもりはなかった。それに、祐一さんの今までの努力を潰したくはない」

 おそらく悠斗は幼い頃から、祐一さんの努力をみていたのだろう。

「俺さ……祐一さんに会ったんだ。元気なくて、いっぱい泣いてた。俺達に迷惑掛けてるって、凄く謝ってた」
「やっぱり祐一さんに聞きに行ったんだね。俺も心配していたんだ」
「うん……佐伯さんと別れるって。俺、そのとき悠斗と俺が別れれば、解決するのかもって思った」

 身体を反転させられ、両肩をガシッと掴まれる。その指は震え、青ざめた顔をしていた。

「そんなの認めない‼」
「へへっ、無理だよ……。俺、悠斗が大好きだもん。でも、祐一さんにも幸せになって欲しい」
「……瀬菜。びっくりさせないでよ。俺も明るい祐一さんに戻って欲しい。だからね、爺様と取り引きしたんだ」

 悠斗はそう言うと、「そろそろ上がろう」と俺の手を取り大きなタオルで包んでくれる。バスローブに腕を通しリビングに行くと、豪華な食事がすでに用意されていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...