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第13幕 ひとりぼっち
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祐一さんは今年で二十九歳だ。間もなく三十歳ということもあり、周りから結婚について聞かれることが多くなっていた。次期社長ということもあり、周りからの期待は年々膨らんでいた。そんな祐一さんを自分の娘にと縁談話は一度や二度の話しではなかった。
中々首を縦に振らない祐一さんに、業を煮やしたのがお爺様だった。同業の知人のお嬢様と顔合わせをさせ、祐一さんの意見は置き去りに、婚約を結ぶ直前まで話は進んでいた。
その話はリッカ中を駆け巡った。もちろんそこで働いている佐伯さんの耳にも。最初に別れを切り出したのは佐伯さんだった。祐一さんのためを思ってのことだったが、祐一さんはショックを隠し切れなかった。
悩み悩んだ祐一さんは、婚約者になるであろう相手を呼び出し、自身のセクシャリティについて打ち明けた。けれど相手はなぜか引き下がらず、たいした問題ではないと返答したようだ。どうやら背景には、政略的な問題もあったようだ。
埒が明かない祐一さんは、お爺様に直談判した。もちろん最初は相手にもされなかったが、隠していた事実……佐伯さんとの関係を洗いざらい打ち明けた。
祐一さんは断絶覚悟の上だったそうだ。けれどお爺様は全てを許さず、古希のお祝いで親族中に婚約の話を発表した。追い込まれた祐一さんは、そこでも自分のセクシャリティを言う羽目になり、相当言葉で辱められた。顔に泥を塗られたお爺様は激怒し、言い争いの上、その場で次期社長を悠斗にすると断言したようだ。
「……瀬菜のこと、あの状況では言えなかった。佐伯さんも相当圧力掛けられたんだ。瀬菜にそれが向けられるのが怖かった。急成長したのは爺様の代からで、社長交代したといっても、まだ実質爺様が支えてるんだ。そのせいか中々意見が通らなくてね。本家に駆けつけたときには倒れたはずの爺様も元気だった。頃合いを見て帰ろうとしたら、俺は残れって父さんの意見も無視だった。おかげで俺は数日、爺様のご機嫌取りと本社で社会勉強。瀬菜に連絡入れる時間すらもらえなかった」
悠斗は俺を背後から強く抱きしめると、「ごめん」と謝罪を口にする。俺はなにも言えず、ただ首を横に振るだけだった。
高校生のうちから経営を学ぶ。それは結構大変なことだと思う。自分も数日、佐伯さんに色々教わったが、悠斗ほどではなかった。気を使いながらいきなり学べと……お前が社長になれと言われる重圧。
祐一さんも次は自分が会社を引き継がなければと、それなりの準備や苦労を重ね今まで経験を積んできたはずだ。憔悴した祐一さんの顔が浮かぶ。
「……悠斗はリッカの社長にいずれなるの?」
「俺は元々リッカで働くつもりはなかった。それに、祐一さんの今までの努力を潰したくはない」
おそらく悠斗は幼い頃から、祐一さんの努力をみていたのだろう。
「俺さ……祐一さんに会ったんだ。元気なくて、いっぱい泣いてた。俺達に迷惑掛けてるって、凄く謝ってた」
「やっぱり祐一さんに聞きに行ったんだね。俺も心配していたんだ」
「うん……佐伯さんと別れるって。俺、そのとき悠斗と俺が別れれば、解決するのかもって思った」
身体を反転させられ、両肩をガシッと掴まれる。その指は震え、青ざめた顔をしていた。
「そんなの認めない‼」
「へへっ、無理だよ……。俺、悠斗が大好きだもん。でも、祐一さんにも幸せになって欲しい」
「……瀬菜。びっくりさせないでよ。俺も明るい祐一さんに戻って欲しい。だからね、爺様と取り引きしたんだ」
悠斗はそう言うと、「そろそろ上がろう」と俺の手を取り大きなタオルで包んでくれる。バスローブに腕を通しリビングに行くと、豪華な食事がすでに用意されていた。
中々首を縦に振らない祐一さんに、業を煮やしたのがお爺様だった。同業の知人のお嬢様と顔合わせをさせ、祐一さんの意見は置き去りに、婚約を結ぶ直前まで話は進んでいた。
その話はリッカ中を駆け巡った。もちろんそこで働いている佐伯さんの耳にも。最初に別れを切り出したのは佐伯さんだった。祐一さんのためを思ってのことだったが、祐一さんはショックを隠し切れなかった。
悩み悩んだ祐一さんは、婚約者になるであろう相手を呼び出し、自身のセクシャリティについて打ち明けた。けれど相手はなぜか引き下がらず、たいした問題ではないと返答したようだ。どうやら背景には、政略的な問題もあったようだ。
埒が明かない祐一さんは、お爺様に直談判した。もちろん最初は相手にもされなかったが、隠していた事実……佐伯さんとの関係を洗いざらい打ち明けた。
祐一さんは断絶覚悟の上だったそうだ。けれどお爺様は全てを許さず、古希のお祝いで親族中に婚約の話を発表した。追い込まれた祐一さんは、そこでも自分のセクシャリティを言う羽目になり、相当言葉で辱められた。顔に泥を塗られたお爺様は激怒し、言い争いの上、その場で次期社長を悠斗にすると断言したようだ。
「……瀬菜のこと、あの状況では言えなかった。佐伯さんも相当圧力掛けられたんだ。瀬菜にそれが向けられるのが怖かった。急成長したのは爺様の代からで、社長交代したといっても、まだ実質爺様が支えてるんだ。そのせいか中々意見が通らなくてね。本家に駆けつけたときには倒れたはずの爺様も元気だった。頃合いを見て帰ろうとしたら、俺は残れって父さんの意見も無視だった。おかげで俺は数日、爺様のご機嫌取りと本社で社会勉強。瀬菜に連絡入れる時間すらもらえなかった」
悠斗は俺を背後から強く抱きしめると、「ごめん」と謝罪を口にする。俺はなにも言えず、ただ首を横に振るだけだった。
高校生のうちから経営を学ぶ。それは結構大変なことだと思う。自分も数日、佐伯さんに色々教わったが、悠斗ほどではなかった。気を使いながらいきなり学べと……お前が社長になれと言われる重圧。
祐一さんも次は自分が会社を引き継がなければと、それなりの準備や苦労を重ね今まで経験を積んできたはずだ。憔悴した祐一さんの顔が浮かぶ。
「……悠斗はリッカの社長にいずれなるの?」
「俺は元々リッカで働くつもりはなかった。それに、祐一さんの今までの努力を潰したくはない」
おそらく悠斗は幼い頃から、祐一さんの努力をみていたのだろう。
「俺さ……祐一さんに会ったんだ。元気なくて、いっぱい泣いてた。俺達に迷惑掛けてるって、凄く謝ってた」
「やっぱり祐一さんに聞きに行ったんだね。俺も心配していたんだ」
「うん……佐伯さんと別れるって。俺、そのとき悠斗と俺が別れれば、解決するのかもって思った」
身体を反転させられ、両肩をガシッと掴まれる。その指は震え、青ざめた顔をしていた。
「そんなの認めない‼」
「へへっ、無理だよ……。俺、悠斗が大好きだもん。でも、祐一さんにも幸せになって欲しい」
「……瀬菜。びっくりさせないでよ。俺も明るい祐一さんに戻って欲しい。だからね、爺様と取り引きしたんだ」
悠斗はそう言うと、「そろそろ上がろう」と俺の手を取り大きなタオルで包んでくれる。バスローブに腕を通しリビングに行くと、豪華な食事がすでに用意されていた。
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