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第11幕 王子の憂鬱と無鉄砲な俺
02
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「……俺は瀬菜のこと、信用していない訳じゃない」
「う、うん……」
「前にも言ったかもしれないけど、瀬菜が用心しててもダメなときがあるってこと。俺も毎回都合良く助けに行くのは無理だし、好きな子になにかあったらやっぱり嫌だから」
「うん……俺も悠斗になにかあったら嫌だよ? でも、俺だってか弱い女の子じゃないし……それに、由良りんだって居る。痴漢もきっと近寄れないよ。それに、護身術も習ったじゃん?」
「ん……でも瀬菜……」
悠斗は切なそうな表情で、俺の手を握り締める。名前を呼ばれ悠斗を見るが、中々その先を言おうとしない悠斗に、どうしたんだよと投げ掛ける。
「……ううん。瀬菜が好き過ぎてシンドイ……」
往来だというのに、悠斗は握り締めた手を引き寄せると、俺を抱きしめてくる。悠斗の背中に手を回して、ポンポンと宥める。
「悠斗ゴメン。俺だって悠斗のこと、凄く好きだよ」
「うん。分かってる……けど、たまに不安になっちゃう。もう少しこのまま……」
しばらく抱きしめ合うと、先ほどまでの冷えた空気を互いに温め合う。首元にぴちゃりと水気を感じると、ポツポツと地面に水玉模様が色濃く散らばった。
「あっ、雨だ。折角の瀬菜との時間、雨に邪魔されちゃった。結構降ってきた……走るよ?」
「道端でなにやってるんだって言われたみたい。あっ、洗濯物! 今日は夜からって言っていたのに!」
「急がないと! うちも今日は母さん居ないんだった!」
「へへっ、俺ら主婦みたいだよな!」
駆け足で家に向かい、洗濯物を取り込むというミッションのため、家の前でバイバイすると、お互いに主婦業に専念することになった。
***
「由良りん! お待たせ!」
「おう、てか……お前それどうした? 似合ってねぇな……」
「いや、ちょっと……色々あって……あはは……っ」
待ち合わせの時間に十五分ほど遅れて到着した。理由はどんな服をチョイスするか悩んだせいもある。男二人で出掛けるのになにを? と思うが、由良りんと出掛けるのは初めてで、お前の私服ダサいなと思われたくなくて頭を抱えてしまったのだ。
それからもう一つ。昨日家に帰って洗濯物を片付けたあと悠斗がやって来て、「これ、明日のオシャレにいいと思うから」と、貸してくれた物をつけるかどうか、家を出る前まで鏡とにらめっこしていたからだ。
悠斗のセンスは俺から見てもいい。そんな悠斗が貸してくれたのだから、間違いはないと違和感を感じながらつけてみたが、由良りんの反応はいまいち。
「これは気にしないで。由良りんの私服姿新鮮だな!」
「……まぁいいけど。ヤナは服装ちょい意外。今時って感じだ」
「そう? 今時っぽい? 俺最近服とか買ってないから、実は結構悩んだ!」
「ははっ、悩んだのかよ。デートでもあるまいし」
由良りんはちょっとやんちゃな青年という感じだ。元々大人びていて学生らしさはないが、白のロングTシャツにスキニーパンツ、スニーカー。アクセントにシルバーアクセなどの小物が上手く使われていた。
「やっぱ身長あるとなんでも似合って羨ましい。それに、今日は前髪下りてる! 最初気付かなかったんだ。でも、金髪だったから発見できた!」
「おいおい、俺の認識は金髪かよ! にしてもよ……それ……」
由良りんは俺の目元付近に視点を合わせてくる。
「へへへっ。金髪は由良りんのトレンドマーク! コレも俺のトレンドマーク!」
苦しい言い逃れをし、上下にそれを揺らすと、吹き出す由良りんに俺は苦笑い。やはり似合わなかったのだろうか。
悠斗が貸してくれたのは、黒縁のスタイリッシュなメガネ。悠斗が着けると格好いいメガネも、俺が着けると野暮ったい。メガネケースも置いて来たので、似合わなくても今日は俺の一部として扱うことにした。
「う、うん……」
「前にも言ったかもしれないけど、瀬菜が用心しててもダメなときがあるってこと。俺も毎回都合良く助けに行くのは無理だし、好きな子になにかあったらやっぱり嫌だから」
「うん……俺も悠斗になにかあったら嫌だよ? でも、俺だってか弱い女の子じゃないし……それに、由良りんだって居る。痴漢もきっと近寄れないよ。それに、護身術も習ったじゃん?」
「ん……でも瀬菜……」
悠斗は切なそうな表情で、俺の手を握り締める。名前を呼ばれ悠斗を見るが、中々その先を言おうとしない悠斗に、どうしたんだよと投げ掛ける。
「……ううん。瀬菜が好き過ぎてシンドイ……」
往来だというのに、悠斗は握り締めた手を引き寄せると、俺を抱きしめてくる。悠斗の背中に手を回して、ポンポンと宥める。
「悠斗ゴメン。俺だって悠斗のこと、凄く好きだよ」
「うん。分かってる……けど、たまに不安になっちゃう。もう少しこのまま……」
しばらく抱きしめ合うと、先ほどまでの冷えた空気を互いに温め合う。首元にぴちゃりと水気を感じると、ポツポツと地面に水玉模様が色濃く散らばった。
「あっ、雨だ。折角の瀬菜との時間、雨に邪魔されちゃった。結構降ってきた……走るよ?」
「道端でなにやってるんだって言われたみたい。あっ、洗濯物! 今日は夜からって言っていたのに!」
「急がないと! うちも今日は母さん居ないんだった!」
「へへっ、俺ら主婦みたいだよな!」
駆け足で家に向かい、洗濯物を取り込むというミッションのため、家の前でバイバイすると、お互いに主婦業に専念することになった。
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「由良りん! お待たせ!」
「おう、てか……お前それどうした? 似合ってねぇな……」
「いや、ちょっと……色々あって……あはは……っ」
待ち合わせの時間に十五分ほど遅れて到着した。理由はどんな服をチョイスするか悩んだせいもある。男二人で出掛けるのになにを? と思うが、由良りんと出掛けるのは初めてで、お前の私服ダサいなと思われたくなくて頭を抱えてしまったのだ。
それからもう一つ。昨日家に帰って洗濯物を片付けたあと悠斗がやって来て、「これ、明日のオシャレにいいと思うから」と、貸してくれた物をつけるかどうか、家を出る前まで鏡とにらめっこしていたからだ。
悠斗のセンスは俺から見てもいい。そんな悠斗が貸してくれたのだから、間違いはないと違和感を感じながらつけてみたが、由良りんの反応はいまいち。
「これは気にしないで。由良りんの私服姿新鮮だな!」
「……まぁいいけど。ヤナは服装ちょい意外。今時って感じだ」
「そう? 今時っぽい? 俺最近服とか買ってないから、実は結構悩んだ!」
「ははっ、悩んだのかよ。デートでもあるまいし」
由良りんはちょっとやんちゃな青年という感じだ。元々大人びていて学生らしさはないが、白のロングTシャツにスキニーパンツ、スニーカー。アクセントにシルバーアクセなどの小物が上手く使われていた。
「やっぱ身長あるとなんでも似合って羨ましい。それに、今日は前髪下りてる! 最初気付かなかったんだ。でも、金髪だったから発見できた!」
「おいおい、俺の認識は金髪かよ! にしてもよ……それ……」
由良りんは俺の目元付近に視点を合わせてくる。
「へへへっ。金髪は由良りんのトレンドマーク! コレも俺のトレンドマーク!」
苦しい言い逃れをし、上下にそれを揺らすと、吹き出す由良りんに俺は苦笑い。やはり似合わなかったのだろうか。
悠斗が貸してくれたのは、黒縁のスタイリッシュなメガネ。悠斗が着けると格好いいメガネも、俺が着けると野暮ったい。メガネケースも置いて来たので、似合わなくても今日は俺の一部として扱うことにした。
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