王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
383 / 716
第11幕 王子の憂鬱と無鉄砲な俺

02

しおりを挟む
「……俺は瀬菜のこと、信用していない訳じゃない」
「う、うん……」
「前にも言ったかもしれないけど、瀬菜が用心しててもダメなときがあるってこと。俺も毎回都合良く助けに行くのは無理だし、好きな子になにかあったらやっぱり嫌だから」
「うん……俺も悠斗になにかあったら嫌だよ? でも、俺だってか弱い女の子じゃないし……それに、由良りんだって居る。痴漢もきっと近寄れないよ。それに、護身術も習ったじゃん?」
「ん……でも瀬菜……」

 悠斗は切なそうな表情で、俺の手を握り締める。名前を呼ばれ悠斗を見るが、中々その先を言おうとしない悠斗に、どうしたんだよと投げ掛ける。

「……ううん。瀬菜が好き過ぎてシンドイ……」

 往来だというのに、悠斗は握り締めた手を引き寄せると、俺を抱きしめてくる。悠斗の背中に手を回して、ポンポンと宥める。

「悠斗ゴメン。俺だって悠斗のこと、凄く好きだよ」
「うん。分かってる……けど、たまに不安になっちゃう。もう少しこのまま……」

 しばらく抱きしめ合うと、先ほどまでの冷えた空気を互いに温め合う。首元にぴちゃりと水気を感じると、ポツポツと地面に水玉模様が色濃く散らばった。

「あっ、雨だ。折角の瀬菜との時間、雨に邪魔されちゃった。結構降ってきた……走るよ?」
「道端でなにやってるんだって言われたみたい。あっ、洗濯物! 今日は夜からって言っていたのに!」
「急がないと! うちも今日は母さん居ないんだった!」
「へへっ、俺ら主婦みたいだよな!」

 駆け足で家に向かい、洗濯物を取り込むというミッションのため、家の前でバイバイすると、お互いに主婦業に専念することになった。


***


「由良りん! お待たせ!」
「おう、てか……お前それどうした? 似合ってねぇな……」
「いや、ちょっと……色々あって……あはは……っ」

 待ち合わせの時間に十五分ほど遅れて到着した。理由はどんな服をチョイスするか悩んだせいもある。男二人で出掛けるのになにを? と思うが、由良りんと出掛けるのは初めてで、お前の私服ダサいなと思われたくなくて頭を抱えてしまったのだ。
 それからもう一つ。昨日家に帰って洗濯物を片付けたあと悠斗がやって来て、「これ、明日のオシャレにいいと思うから」と、貸してくれた物をつけるかどうか、家を出る前まで鏡とにらめっこしていたからだ。
 悠斗のセンスは俺から見てもいい。そんな悠斗が貸してくれたのだから、間違いはないと違和感を感じながらつけてみたが、由良りんの反応はいまいち。

「これは気にしないで。由良りんの私服姿新鮮だな!」
「……まぁいいけど。ヤナは服装ちょい意外。今時って感じだ」
「そう? 今時っぽい? 俺最近服とか買ってないから、実は結構悩んだ!」
「ははっ、悩んだのかよ。デートでもあるまいし」

 由良りんはちょっとやんちゃな青年という感じだ。元々大人びていて学生らしさはないが、白のロングTシャツにスキニーパンツ、スニーカー。アクセントにシルバーアクセなどの小物が上手く使われていた。

「やっぱ身長あるとなんでも似合って羨ましい。それに、今日は前髪下りてる! 最初気付かなかったんだ。でも、金髪だったから発見できた!」
「おいおい、俺の認識は金髪かよ! にしてもよ……それ……」

 由良りんは俺の目元付近に視点を合わせてくる。

「へへへっ。金髪は由良りんのトレンドマーク! コレも俺のトレンドマーク!」

 苦しい言い逃れをし、上下にそれを揺らすと、吹き出す由良りんに俺は苦笑い。やはり似合わなかったのだろうか。
 悠斗が貸してくれたのは、黒縁のスタイリッシュなメガネ。悠斗が着けると格好いいメガネも、俺が着けると野暮ったい。メガネケースも置いて来たので、似合わなくても今日は俺の一部として扱うことにした。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...