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第10幕 新学年と不良くん 〜高校二年生編〜
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「……こらっ……おしまい……そんなに煽ってどうするの?」
「だって悠斗、最近してくれないから」
「そう……だね……我慢してた」
「なんで? いつもはいっぱいしてくれるのに」
拗ねた口ぶりで言うと、仄かに悠斗の瞳が揺らぐ。
「止まらなくなるから。それに酷くしそうで……」
「酷くしてもいいよ。俺、飽きられたのかなって」
「飽きる訳ないでしょ? むしろ……ずっと触れていたいぐらい愛おしいのに」
そう言いながらも、抱擁が解かれ離れていく悠斗に胸が締め付けられる。氷を止めていたテーピングを取ると、痛いぐらいに冷やされた足首が空気に触れ、外気温の生温さに足首の冷却温度の差を体感させられる。
テーピングを少しきつめにグルグルと巻いて固定すると、応急処置は完了したらしい。悠斗の手際の良さに感心してしまう。
「どう? テーピング、キツ過ぎない?」
「うん。平気……ありがとうな?」
「クスッ、どういたしまして。先生来たら、また見てもらおうね? もう少し横になって」
優しく微笑む悠斗に、頭を撫でられていると、ガラリと扉が開く音がした。
「おお、目覚めたか?」
「先生、捻挫もしていたようです。見てもらってもいいですか?」
「んーどれ、なんだしっかり処置済みじゃないか。うん……軽い捻挫だな。安静にしてればそのうち腫れも引くだろ。三日間は一日一度はアイシングしとけよ? 顔は大丈夫か? 顔面当たって失神するほどだ。……ん? 赤いな……お前らもしかして……エロイことでもしてた?」
ニヤリといやらしく笑い、そう言う保健の先生は、外部の病院から出校で来ている医者だ。名前は佐上竜司。年齢は四十手前ぐらいだろうか。おチャラけているが、腕は確かとか。
「先生……この短時間でそんなことできないですよ」
「セクハラ教師」
「なになに? やっぱお前らそういう関係? ちっこいの抱えて、ここに入って来た時の立花の顔ったら、お前でもあんな顔するんだな」
そう言いケラケラと笑う佐上先生に、悠斗を窺うと俺から視線を逸らし咳払いをしていた。
「先生、個人的なことをペラペラ話すのはどうかと思いますよ。急病人はもういいんですか?」
「ああ、大したことはなかったよ。もう、試合も終わったみたいだし、動けるようなら教室戻れ。ああ、それとちっこいの、明後日念のため経過を見せに来いよー」
ひらひらと手を振る佐上先生。
「──先生……俺ちっこいのじゃないし! 名前……柳瀬菜だから‼」
誂われているのは分かっていたが、念のため自分の名前を強調しておいた。
教室に戻ると、村上と多澤が駆け寄ってくる。それと合わせて室内が大きく湧いた。
「柳ちゃん! 大丈夫? 倒れたって……聞い……たけど……ははっ」
「お前のおかげで、最後結構シンドかったわ」
「ごめんね? 残り時間そんなになかったし。けど、もちろん勝ったよね?」
「当たり前だろ? 五連勝だ。もち断トツで優勝」
「流石雅臣。褒めて進ぜよう」
多澤と会話をする悠斗の声が心音と合わせて、耳元でモワモワとくぐもった音で聞こえてくる。
俺は保健室からずっと無言を貫いていた。そんな俺に村上が心配そうに声を掛けてくる。
「おーい。柳ちゃん? 意識ある⁇」
「……お願い……村上……。今はなにも言わないでっ」
「だって悠斗、最近してくれないから」
「そう……だね……我慢してた」
「なんで? いつもはいっぱいしてくれるのに」
拗ねた口ぶりで言うと、仄かに悠斗の瞳が揺らぐ。
「止まらなくなるから。それに酷くしそうで……」
「酷くしてもいいよ。俺、飽きられたのかなって」
「飽きる訳ないでしょ? むしろ……ずっと触れていたいぐらい愛おしいのに」
そう言いながらも、抱擁が解かれ離れていく悠斗に胸が締め付けられる。氷を止めていたテーピングを取ると、痛いぐらいに冷やされた足首が空気に触れ、外気温の生温さに足首の冷却温度の差を体感させられる。
テーピングを少しきつめにグルグルと巻いて固定すると、応急処置は完了したらしい。悠斗の手際の良さに感心してしまう。
「どう? テーピング、キツ過ぎない?」
「うん。平気……ありがとうな?」
「クスッ、どういたしまして。先生来たら、また見てもらおうね? もう少し横になって」
優しく微笑む悠斗に、頭を撫でられていると、ガラリと扉が開く音がした。
「おお、目覚めたか?」
「先生、捻挫もしていたようです。見てもらってもいいですか?」
「んーどれ、なんだしっかり処置済みじゃないか。うん……軽い捻挫だな。安静にしてればそのうち腫れも引くだろ。三日間は一日一度はアイシングしとけよ? 顔は大丈夫か? 顔面当たって失神するほどだ。……ん? 赤いな……お前らもしかして……エロイことでもしてた?」
ニヤリといやらしく笑い、そう言う保健の先生は、外部の病院から出校で来ている医者だ。名前は佐上竜司。年齢は四十手前ぐらいだろうか。おチャラけているが、腕は確かとか。
「先生……この短時間でそんなことできないですよ」
「セクハラ教師」
「なになに? やっぱお前らそういう関係? ちっこいの抱えて、ここに入って来た時の立花の顔ったら、お前でもあんな顔するんだな」
そう言いケラケラと笑う佐上先生に、悠斗を窺うと俺から視線を逸らし咳払いをしていた。
「先生、個人的なことをペラペラ話すのはどうかと思いますよ。急病人はもういいんですか?」
「ああ、大したことはなかったよ。もう、試合も終わったみたいだし、動けるようなら教室戻れ。ああ、それとちっこいの、明後日念のため経過を見せに来いよー」
ひらひらと手を振る佐上先生。
「──先生……俺ちっこいのじゃないし! 名前……柳瀬菜だから‼」
誂われているのは分かっていたが、念のため自分の名前を強調しておいた。
教室に戻ると、村上と多澤が駆け寄ってくる。それと合わせて室内が大きく湧いた。
「柳ちゃん! 大丈夫? 倒れたって……聞い……たけど……ははっ」
「お前のおかげで、最後結構シンドかったわ」
「ごめんね? 残り時間そんなになかったし。けど、もちろん勝ったよね?」
「当たり前だろ? 五連勝だ。もち断トツで優勝」
「流石雅臣。褒めて進ぜよう」
多澤と会話をする悠斗の声が心音と合わせて、耳元でモワモワとくぐもった音で聞こえてくる。
俺は保健室からずっと無言を貫いていた。そんな俺に村上が心配そうに声を掛けてくる。
「おーい。柳ちゃん? 意識ある⁇」
「……お願い……村上……。今はなにも言わないでっ」
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