王子×悪戯戯曲

そら汰★

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幕間 Piece《悠斗side》

04

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 俺の突然の訪問に驚く柳君に、押しかけた言い訳をしつつ咄嗟に買ったものを袋ごと渡した。戸惑った様子で柳君は中身を確認し、大きな目をさらに拡げて放心していた。
 隣同士ということに驚いているのか、急に来たことが迷惑だったのか……どちらとも取れる反応に、今日は帰ったほうが良さそうだと、早々にまたね……と背中を向けると声がかかる。

「あ、あの! 立花君! 家上がって行く⁉」
「えっ……」

 まさかの誘いに馬鹿みたいな声をあげてしまう。

「うちの親ほとんど居ないし、良かったら……なんだけど」
「い、いいの⁉」

 もしかして気を使ってくれたのかもしれない。それでも嬉しさと柳君の笑顔に自然と口元が綻ぶ。


 案内された部屋は柳君の部屋。足を踏み入れ、目に入った大きなベッドに目を泳がせてしまう。耳まで熱いのは邪なことを想像してしまったからだ。そんな俺の心内など知らぬ柳君は、貰いもので、寝心地が良過ぎて朝が起きられなくて困ると教えてくれた。
 コロコロ変わる表情。淹れてくれた湯気が立ち込めるフレーバーティーの香り。今日の憂鬱な気分が落ち着いていく。気分の良さに、スルスルと勝手に言葉が口から出てしまう。けれど視線はカップに注がれていた。照れくさくて顔が上げられないのだ。
 チラリと横目で柳君を観察する。柳君は外を眺めていた。同じように視線を向けるが、景色どころかカーテンしか見えない。どこか遠くに心を奪われたような姿に、俺の存在が認識されていないようで無性に悲しくなった。

「……あの、柳君」

 声を掛けるが反応がない。そっと肩に手を置き再度名前を呼ぶと、湯気の立つ赤茶色の液体が跳ね、柳君の手に掛かってしまう。急いで柳君の手からカップを取ると、その手をそっと握り確認する。
 真っ赤になった指先。やはり温度が高かったのだ。柳君は大丈夫だと言うが、自分が驚かせてしまったばかりに火傷を負わせてしまった。
 早く冷やしたほうがいい。そう伝えようと顔を上げると、柳君の顔が間近にあり、その距離に目を見開いた。

 黒くて大きな瞳は潤み、赤く火照った両頬、淡い肉厚の唇はふるふると震え艷やかな吐息が零れていた。そこに導かれるように顔を寄せると、痛みに詰めた息が聞こえハッとする。
 一瞬視線が絡み見つめ合うと、柳君は慌てた様子で、冷やして来ると部屋を出て行ってしまった。

 今……俺はなにをしようとした?

 唇に指先を乗せ呆然とする。
 出会ってからまだ三度目だというのに、触れたいと自然と動いてしまう身体。柳君の唇に唇を重ねようとしていた自分に驚きながらも、激しく浮ついている心音に、これはもう認めざるを得ないと、ひとり静かにその事実を受け止めていた。


 自分の気持ちを認めると行動は早い。今までこんなにも執着したことがあっただろうか。
 もっと自分を知って欲しい、もっと一緒に居たい。想いがどんどん溢れ、欲張りになってしまう。

 心配掛けたお礼にと、先ほど自分があげたハート型のチョコを返されてしまう。これは要らないという柳君の意思表示なのか。否定されてしまったことに、激しく落ち込んでしまう。
 浮ついたり沈んだりと、数時間で気持ちが波立っている。複雑な気持ちでそれを見ていると、元々自分が購入していたものだと、もう一つ同じチョコを持ち照れくさそうに笑っていた。
 その姿に胸が熱くなり、一気に舞い上がってしまう。これ以上ここに居れば、自分がなにを仕出かしてしまうか予想もつかない。
 冷静になれと暴走しそうなもうひとりの自分に言い聞かせ、今日は帰ろうと胸の高鳴りを抑えて早々に帰ることにした。

 でも、どうする?
 これじゃなにも始まらない。

 すぐに答えは出た。

「あのさ……柳君。ずっと考えてたんだけど、明日から一緒に登校しない?」

 自分はずいぶん策士だったようだ。隣同士という武器を使い、柳君をなんとしてでも引き込もうとしている。欲しいものは欲しい。それは極自然なこと。黒い感情を隠すように、努めて柔らかな笑顔を向ける。
 それは柳君が戸惑った姿を見せるのが悪いのだ。逃さない……いい人を演じるのは慣れている。追い込むように説得すると、たまに気が向いたら来てと控えめな返答。そんなの毎日迎えに行くに決まっている。本心は伝えず微笑んで、柳君の家を出るとニヤリと口角を上げていた。
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