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幕間 Piece《悠斗side》
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俺の突然の訪問に驚く柳君に、押しかけた言い訳をしつつ咄嗟に買ったものを袋ごと渡した。戸惑った様子で柳君は中身を確認し、大きな目をさらに拡げて放心していた。
隣同士ということに驚いているのか、急に来たことが迷惑だったのか……どちらとも取れる反応に、今日は帰ったほうが良さそうだと、早々にまたね……と背中を向けると声がかかる。
「あ、あの! 立花君! 家上がって行く⁉」
「えっ……」
まさかの誘いに馬鹿みたいな声をあげてしまう。
「うちの親ほとんど居ないし、良かったら……なんだけど」
「い、いいの⁉」
もしかして気を使ってくれたのかもしれない。それでも嬉しさと柳君の笑顔に自然と口元が綻ぶ。
案内された部屋は柳君の部屋。足を踏み入れ、目に入った大きなベッドに目を泳がせてしまう。耳まで熱いのは邪なことを想像してしまったからだ。そんな俺の心内など知らぬ柳君は、貰いもので、寝心地が良過ぎて朝が起きられなくて困ると教えてくれた。
コロコロ変わる表情。淹れてくれた湯気が立ち込めるフレーバーティーの香り。今日の憂鬱な気分が落ち着いていく。気分の良さに、スルスルと勝手に言葉が口から出てしまう。けれど視線はカップに注がれていた。照れくさくて顔が上げられないのだ。
チラリと横目で柳君を観察する。柳君は外を眺めていた。同じように視線を向けるが、景色どころかカーテンしか見えない。どこか遠くに心を奪われたような姿に、俺の存在が認識されていないようで無性に悲しくなった。
「……あの、柳君」
声を掛けるが反応がない。そっと肩に手を置き再度名前を呼ぶと、湯気の立つ赤茶色の液体が跳ね、柳君の手に掛かってしまう。急いで柳君の手からカップを取ると、その手をそっと握り確認する。
真っ赤になった指先。やはり温度が高かったのだ。柳君は大丈夫だと言うが、自分が驚かせてしまったばかりに火傷を負わせてしまった。
早く冷やしたほうがいい。そう伝えようと顔を上げると、柳君の顔が間近にあり、その距離に目を見開いた。
黒くて大きな瞳は潤み、赤く火照った両頬、淡い肉厚の唇はふるふると震え艷やかな吐息が零れていた。そこに導かれるように顔を寄せると、痛みに詰めた息が聞こえハッとする。
一瞬視線が絡み見つめ合うと、柳君は慌てた様子で、冷やして来ると部屋を出て行ってしまった。
今……俺はなにをしようとした?
唇に指先を乗せ呆然とする。
出会ってからまだ三度目だというのに、触れたいと自然と動いてしまう身体。柳君の唇に唇を重ねようとしていた自分に驚きながらも、激しく浮ついている心音に、これはもう認めざるを得ないと、ひとり静かにその事実を受け止めていた。
自分の気持ちを認めると行動は早い。今までこんなにも執着したことがあっただろうか。
もっと自分を知って欲しい、もっと一緒に居たい。想いがどんどん溢れ、欲張りになってしまう。
心配掛けたお礼にと、先ほど自分があげたハート型のチョコを返されてしまう。これは要らないという柳君の意思表示なのか。否定されてしまったことに、激しく落ち込んでしまう。
浮ついたり沈んだりと、数時間で気持ちが波立っている。複雑な気持ちでそれを見ていると、元々自分が購入していたものだと、もう一つ同じチョコを持ち照れくさそうに笑っていた。
その姿に胸が熱くなり、一気に舞い上がってしまう。これ以上ここに居れば、自分がなにを仕出かしてしまうか予想もつかない。
冷静になれと暴走しそうなもうひとりの自分に言い聞かせ、今日は帰ろうと胸の高鳴りを抑えて早々に帰ることにした。
でも、どうする?
これじゃなにも始まらない。
すぐに答えは出た。
「あのさ……柳君。ずっと考えてたんだけど、明日から一緒に登校しない?」
自分はずいぶん策士だったようだ。隣同士という武器を使い、柳君をなんとしてでも引き込もうとしている。欲しいものは欲しい。それは極自然なこと。黒い感情を隠すように、努めて柔らかな笑顔を向ける。
それは柳君が戸惑った姿を見せるのが悪いのだ。逃さない……いい人を演じるのは慣れている。追い込むように説得すると、たまに気が向いたら来てと控えめな返答。そんなの毎日迎えに行くに決まっている。本心は伝えず微笑んで、柳君の家を出るとニヤリと口角を上げていた。
隣同士ということに驚いているのか、急に来たことが迷惑だったのか……どちらとも取れる反応に、今日は帰ったほうが良さそうだと、早々にまたね……と背中を向けると声がかかる。
「あ、あの! 立花君! 家上がって行く⁉」
「えっ……」
まさかの誘いに馬鹿みたいな声をあげてしまう。
「うちの親ほとんど居ないし、良かったら……なんだけど」
「い、いいの⁉」
もしかして気を使ってくれたのかもしれない。それでも嬉しさと柳君の笑顔に自然と口元が綻ぶ。
案内された部屋は柳君の部屋。足を踏み入れ、目に入った大きなベッドに目を泳がせてしまう。耳まで熱いのは邪なことを想像してしまったからだ。そんな俺の心内など知らぬ柳君は、貰いもので、寝心地が良過ぎて朝が起きられなくて困ると教えてくれた。
コロコロ変わる表情。淹れてくれた湯気が立ち込めるフレーバーティーの香り。今日の憂鬱な気分が落ち着いていく。気分の良さに、スルスルと勝手に言葉が口から出てしまう。けれど視線はカップに注がれていた。照れくさくて顔が上げられないのだ。
チラリと横目で柳君を観察する。柳君は外を眺めていた。同じように視線を向けるが、景色どころかカーテンしか見えない。どこか遠くに心を奪われたような姿に、俺の存在が認識されていないようで無性に悲しくなった。
「……あの、柳君」
声を掛けるが反応がない。そっと肩に手を置き再度名前を呼ぶと、湯気の立つ赤茶色の液体が跳ね、柳君の手に掛かってしまう。急いで柳君の手からカップを取ると、その手をそっと握り確認する。
真っ赤になった指先。やはり温度が高かったのだ。柳君は大丈夫だと言うが、自分が驚かせてしまったばかりに火傷を負わせてしまった。
早く冷やしたほうがいい。そう伝えようと顔を上げると、柳君の顔が間近にあり、その距離に目を見開いた。
黒くて大きな瞳は潤み、赤く火照った両頬、淡い肉厚の唇はふるふると震え艷やかな吐息が零れていた。そこに導かれるように顔を寄せると、痛みに詰めた息が聞こえハッとする。
一瞬視線が絡み見つめ合うと、柳君は慌てた様子で、冷やして来ると部屋を出て行ってしまった。
今……俺はなにをしようとした?
唇に指先を乗せ呆然とする。
出会ってからまだ三度目だというのに、触れたいと自然と動いてしまう身体。柳君の唇に唇を重ねようとしていた自分に驚きながらも、激しく浮ついている心音に、これはもう認めざるを得ないと、ひとり静かにその事実を受け止めていた。
自分の気持ちを認めると行動は早い。今までこんなにも執着したことがあっただろうか。
もっと自分を知って欲しい、もっと一緒に居たい。想いがどんどん溢れ、欲張りになってしまう。
心配掛けたお礼にと、先ほど自分があげたハート型のチョコを返されてしまう。これは要らないという柳君の意思表示なのか。否定されてしまったことに、激しく落ち込んでしまう。
浮ついたり沈んだりと、数時間で気持ちが波立っている。複雑な気持ちでそれを見ていると、元々自分が購入していたものだと、もう一つ同じチョコを持ち照れくさそうに笑っていた。
その姿に胸が熱くなり、一気に舞い上がってしまう。これ以上ここに居れば、自分がなにを仕出かしてしまうか予想もつかない。
冷静になれと暴走しそうなもうひとりの自分に言い聞かせ、今日は帰ろうと胸の高鳴りを抑えて早々に帰ることにした。
でも、どうする?
これじゃなにも始まらない。
すぐに答えは出た。
「あのさ……柳君。ずっと考えてたんだけど、明日から一緒に登校しない?」
自分はずいぶん策士だったようだ。隣同士という武器を使い、柳君をなんとしてでも引き込もうとしている。欲しいものは欲しい。それは極自然なこと。黒い感情を隠すように、努めて柔らかな笑顔を向ける。
それは柳君が戸惑った姿を見せるのが悪いのだ。逃さない……いい人を演じるのは慣れている。追い込むように説得すると、たまに気が向いたら来てと控えめな返答。そんなの毎日迎えに行くに決まっている。本心は伝えず微笑んで、柳君の家を出るとニヤリと口角を上げていた。
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