王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第9幕 王子と王子

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「指、大丈夫?」
「うん。冷やしたから平気だよ。……あっ、そうだ!」

 鞄の中を漁り悠斗に差し出す。

「……これって……僕があげたやつ?」

 俺の手元を呆然と見つめる悠斗。
 差し出したものはハート型のチョコレート。

「ううん。さっき貰ったのはこれ。こっちは俺が前に買ったのだよ。その、心配してくれたお礼……みたいな」

 あげるべきではないかもしれない。
 けれど記憶がなくても悠斗は悠斗。

「えっ……凄い! 手品みたい! そっか……一緒のものだったのか。なんだか嬉しい……ありがとう」
「立花君なら今日はいっぱい貰っていると思うし、同じものでなんか申し訳ないけど……」

 悠斗は耳を赤くしながらチョコを受け取ってくれた。

「ううん、本当に嬉しいよ? 実はね……チョコ貰うの今年はこれが初めてなんだ」

 今度は俺が呆然とする。
 今の悠斗に断る理由はないはずだ。人の好意を快く受け止める悠斗にしては、らしくないような気がした。

「……えっ? いっぱい貰ったんじゃ……断ったの?」
「うん、全部断っちゃった。僕も自分の行動が不思議だった。でも、なんでかな……貰っちゃいけないような気がして」
「それじゃ、それもダメだよね?」
「これはいいの! お礼だし!」

 俺に奪われないためか、悠斗は背中にチョコを隠してしまう。そんな行動に自然と笑みが溢れてしまう。

「なにそれ……へへっ」
「ふふっ……さてと、もう少し話したいところだけど、そろそろお暇しようかな。柳君、今日はありがとう。楽しかった」
「うん、また学校で……」
「そこは、また来てね? じゃないの?」

 冗談を言う悠斗にニコリと笑い掛ける。自分は今、ちゃんと笑えているのだろうか。
 玄関まで見送ると、ドアノブに手を掛けた悠斗が振り返ってきた。

「あのさ……柳君。考えていたんだけど、明日から一緒に登校しない?」
「えっ? どうして?」
「ほら、朝苦手だって言っていたし、お隣さんだもん。あともっと仲良くなれるかなって」

 悠斗の提案に狼狽えてしまうが、ここで断れば嫌悪しているように思われてしまう。

「そうだね……気が向いたら迎えに来てよ」
「……気が向いたら……か。それじゃ、また明日」
「うん、また明日……」

 悠斗はふわりと笑いかけると、家へ帰っていった。俺は悠斗が出て行った玄関の扉を、ぼんやりと眺めていた。
 しばらくすると全身の力が抜け、その場にヨロヨロと座り込んでしまう。大きなため息を吐き出し、誰に言うでもなく呟く。

「……友達って……結構シンドイな……」

 多澤や村上に言われた言葉がのし掛かってくる。冷静でいられる訳がない……全くその通りだ。気持ちの浮き沈みが激しく、喜んだり落ち込んだり慌ただしい。ふよふよと空中を彷徨っているような感覚。
 悠斗が記憶をなくしたのと同時に、俺も悠斗のことを忘れたかった。そしたらきっとこんな思いをせず、いい友人関係を築けたかもしれない。あり得ない現実と可能性を嫌でも望んでしまう。

 悠斗の側に居たい……。
 悠斗から離れたい……。

 二つの気持ちがぶつかり弾ける。感情は振り子のように揺れ動く。届く距離に居られても、遥か遠くに居るような距離感。手を伸ばせば届くのに──。

 どうか……思い出して……。

 自然と思いが全面に押し出てきてしまう。それが俺の本心で一番の願い。その願望は胸を内側から抉り、心臓を鷲掴みに潰してくる。痛みに顔を歪めると、深呼吸を繰り返し、それらの感情に蓋をし遮断した。
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