304 / 716
第9幕 王子と王子
15
しおりを挟む「指、大丈夫?」
「うん。冷やしたから平気だよ。……あっ、そうだ!」
鞄の中を漁り悠斗に差し出す。
「……これって……僕があげたやつ?」
俺の手元を呆然と見つめる悠斗。
差し出したものはハート型のチョコレート。
「ううん。さっき貰ったのはこれ。こっちは俺が前に買ったのだよ。その、心配してくれたお礼……みたいな」
あげるべきではないかもしれない。
けれど記憶がなくても悠斗は悠斗。
「えっ……凄い! 手品みたい! そっか……一緒のものだったのか。なんだか嬉しい……ありがとう」
「立花君なら今日はいっぱい貰っていると思うし、同じものでなんか申し訳ないけど……」
悠斗は耳を赤くしながらチョコを受け取ってくれた。
「ううん、本当に嬉しいよ? 実はね……チョコ貰うの今年はこれが初めてなんだ」
今度は俺が呆然とする。
今の悠斗に断る理由はないはずだ。人の好意を快く受け止める悠斗にしては、らしくないような気がした。
「……えっ? いっぱい貰ったんじゃ……断ったの?」
「うん、全部断っちゃった。僕も自分の行動が不思議だった。でも、なんでかな……貰っちゃいけないような気がして」
「それじゃ、それもダメだよね?」
「これはいいの! お礼だし!」
俺に奪われないためか、悠斗は背中にチョコを隠してしまう。そんな行動に自然と笑みが溢れてしまう。
「なにそれ……へへっ」
「ふふっ……さてと、もう少し話したいところだけど、そろそろお暇しようかな。柳君、今日はありがとう。楽しかった」
「うん、また学校で……」
「そこは、また来てね? じゃないの?」
冗談を言う悠斗にニコリと笑い掛ける。自分は今、ちゃんと笑えているのだろうか。
玄関まで見送ると、ドアノブに手を掛けた悠斗が振り返ってきた。
「あのさ……柳君。考えていたんだけど、明日から一緒に登校しない?」
「えっ? どうして?」
「ほら、朝苦手だって言っていたし、お隣さんだもん。あともっと仲良くなれるかなって」
悠斗の提案に狼狽えてしまうが、ここで断れば嫌悪しているように思われてしまう。
「そうだね……気が向いたら迎えに来てよ」
「……気が向いたら……か。それじゃ、また明日」
「うん、また明日……」
悠斗はふわりと笑いかけると、家へ帰っていった。俺は悠斗が出て行った玄関の扉を、ぼんやりと眺めていた。
しばらくすると全身の力が抜け、その場にヨロヨロと座り込んでしまう。大きなため息を吐き出し、誰に言うでもなく呟く。
「……友達って……結構シンドイな……」
多澤や村上に言われた言葉がのし掛かってくる。冷静でいられる訳がない……全くその通りだ。気持ちの浮き沈みが激しく、喜んだり落ち込んだり慌ただしい。ふよふよと空中を彷徨っているような感覚。
悠斗が記憶をなくしたのと同時に、俺も悠斗のことを忘れたかった。そしたらきっとこんな思いをせず、いい友人関係を築けたかもしれない。あり得ない現実と可能性を嫌でも望んでしまう。
悠斗の側に居たい……。
悠斗から離れたい……。
二つの気持ちがぶつかり弾ける。感情は振り子のように揺れ動く。届く距離に居られても、遥か遠くに居るような距離感。手を伸ばせば届くのに──。
どうか……思い出して……。
自然と思いが全面に押し出てきてしまう。それが俺の本心で一番の願い。その願望は胸を内側から抉り、心臓を鷲掴みに潰してくる。痛みに顔を歪めると、深呼吸を繰り返し、それらの感情に蓋をし遮断した。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる