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第9幕 王子と王子
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翌朝、寝坊せずに起き学校に行くと、案の定黄色い声援を耳にしながら校門を潜った。
なにかのイベントでもしているような人集り。一つ飛び出た悠斗のうしろ姿を遠目で見ながら教室に向かった。
今日もランチに誘われると身構えていたが、悠斗がやって来ることはなかった。それもそのはず、今日はバレンタインデー。今頃女の子達から追いかけ回されているに違いない。
俺が貰ったチョコは三浦さんからの義理チョコのみ。それでも貰えたことにちょっぴり元気になれた。
悠斗と友達になったとはいえ、義理チョコと同じように社交辞令でそう言ったまで。けれど俺は正直ホッとしていた。できればなるべく関わりたくはない。昨日の質問攻めは、精神的にも肉体的にもダメージが大きかった。
悠斗は賢く、人をよく理解している。俺の低レベルな言語能力では、ボロが出るのが目に見えている。
生徒会にも顔を出さずに授業が終わると、早々に学校をあとにした。途中コンビニに立ち寄り、夕飯を購入してから家へ帰宅する。
今日もおふくろは遅いようだ。食卓でひとり黙々とコンビニ弁当を食べていると、玄関のチャイムが鳴った。
「ああ、良かった!」
俺は驚き扉を開けて硬直した。
そんな俺に言い訳をするように悠斗は矢継ぎ早に言う。
「急にごめんね! その! 家に入って行くところが見えて、びっくりして思わず。まさか隣だったなんてね! 今まですれ違いもしないなんて……そう! 奇跡だよね‼」
目を丸める俺に、悠斗は苦笑いで居心地悪そうにしている。
黙っている訳にもいかない。
隣同士で顔も見たことがないなど中々ないことだ。『奇跡』と表現してくれた悠斗に便乗し、それとなくごまかす。
「えっ? 隣? それは凄いかも……全然知らなかった。俺も驚き過ぎて言葉も出なかったや」
「はは……急に押し掛けて迷惑だったかな?」
「いや、大丈夫。ひとりで飯食っていただけだし……」
「……ひとり? ごめんね、ご飯時に……あっ、そうそう、これ! 食後のデザートにでも食べて?」
差し出されたのはハート型のチョコレート。俺が悠斗にあげようと、用意していたものと同じだった。先ほどコンビニで見かけ、渡せなかったと手に取り感傷的になっていたのだ。
「さっきコンビニでずっと見ていたでしょ?」
「あー、見ていたのか? なんか滅茶苦茶恥ずかしいな」
「見ていたっていっても、ストーカーとかじゃないからね! たまたま見かけて……」
「そっか、けど俺……貰えないよ。貰う理由がない」
「……理由。ほら、あれだよ! 病院でずっと付き添ってくれたでしょ? そのお礼じゃ……ダメかな?」
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