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第9幕 王子と王子
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しおりを挟む「……ん……ここは……。うッ──ク……ッ、……頭……痛ッ」
頭上からくぐもった声がする。
離れていくぬくもりに縋り付くように腕を絡める。
「……ん? 寝ているの? ふふっ、可愛い。俺の腕は抱きまくら? ……でも、真っ赤だ……」
頬に落ちる髪を払われ、目元にそっと指先が触れる。
夢心地に瞼を震わせ、惚けた顔で気配に声を出した。
「……ん……おば、さん? ごめん……俺、寝ちゃって……」
朦朧とする思考で謝罪を口にすると、ゆっくりと身体を起こした。ぼやける視界がクリアになると、ヒュッと喉を鳴らし目を拡げピタリと動きを止めた。
「起こしちゃったね。大丈夫? 悲しいことでもあったの?」
そう言いながらにこやかに微笑み、俺を見つめ心配そうに眉を寄せる悠斗の姿に、先ほどまで強がっていた気持ちが糸が切れたように決壊する。
くしゃりと顔を歪ませると、大粒の涙がポロポロと頰を伝いビー玉のように零れ落ちていく。
「えっ! どうしたの? あぁ、泣かないで?」
悠斗はティッシュを何枚か掴むと、俺の涙を拭いオロオロしている。
「悠くん! 気が付いたのね。身体の具合はどうなの?」
物音に目を覚ましたおばさんも悠斗に近付き、安心した面持ちで声をかけていた。
「母さん……頭が少し痛いけど大丈夫だよ?」
「良かったわ。あなた自分がどうなったか覚えている? 学校から連絡来たときはびっくりしたのよ? 瀬菜ちゃんも雅臣君も村上君も、凄く心配してくれて……。そうだわ、お母さん先生を呼んで来るから、もう少し横になっていなさい」
「うん、けど母さん……あのっ、……行っちゃった……」
悠斗の話もそこそこにおばさんは病室を出て行ってしまった。
ひくひくと肩を跳ねさせ泣く俺は、聞きたいことがいっぱいあるはずなのに、止まらない涙を手の甲で拭っていた。そんな俺を宥めるように、悠斗は何度も頭を撫でてくれる。
「そんなに泣かれると困っちゃうな。目が腫れちゃうよ? 折角可愛いのに……」
「……ふっ、うぇぐッ……うぅッ」
「僕、なにかしちゃったかな?」
なにか違和感を感じる。
「ゆぅ……と?」
「あれ? 僕のこと知っているの?」
悠斗のひと言に涙がピタリと止まる。丸い目で悠斗を凝視すると、首を傾げ覗き込むように俺の様子を窺ってくる。
「あっ、涙止まったね。もしかして病室間違えちゃった?」
「……なに冗談……言って……」
「ん? 冗談って?」
「……うそ……だろ? 俺のこと……」
薄暗い室内がシーンと静まり返る。驚愕の表情を見せる俺に、悠斗は視線を逸しなにかを考え込むようにしていた。それから手のひらを額に当てると、顔を歪め痛みに堪えている仕草を見せる。
「いたたッ……駄目だな……ごめんね? きみみたいな子に会ったら覚えていると思うんだけど、全然思い出せないや」
気不味い空気が流れる。その空気を断ち切るように、担当医と看護師、それからおばさんが病室に入って来た。
悠斗が診察をされている間、俺はなにか別世界の映像を見せられているのではと、ただ呆然とその様子を眺めていた──。
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