王子×悪戯戯曲

そら汰★

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第9幕 王子と王子

05

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 タクシーに押し込まれ揺られていた。気付くと見たことのある景色。中に入ると薬品の匂いが鼻を突くはずなのに、それすら感じ取れない。
 下に視線を落とすと、自分の足元とアイボリー色のつるりとした廊下。前を歩く村上の足元を道しるべに、ぼんやりと足を進める。頭がなにかに打つかる。柔らかな感触が、優しくそっと俺を包み込んだ。

「瀬菜、大丈夫?」

 頭上から聞き馴染んだ声がかかる。
 顔を上げると、白衣姿のおふくろがジッと俺を覗き込んでいた。

「あんた凄い顔色ね。搬送されて来たのがまさか悠斗君だと思わなかったけど……」

 いつもの調子でそう言うおふくろに、若干安心を覚える。

「おふくろ……悠斗は?」
「安心なさい。命には別状無いし検査も問題なかったわ。頭から出血していたから心配したけど、意識が戻れば……」
「……意識……ないのか? 出血って‼ 問題ないって本当なのか⁉」

 大きな声を上げ興奮する俺に、おふくろは苦笑いしながら俺を抱きしめた。

「こら、落ち着きなさい。私これでも医者よ? 元々頭から出血すると小さい傷でも量が多いのよ。麻酔が切れれば意識だって戻るわよ」

 背中をポンポンと叩かれ、肩の力がスーッと抜けていく。

「瀬菜……それよりもあなたよ! 全く、そんな顔して。なに我慢しているの? 泣きたいなら泣きなさい」

 おふくろが優しい笑顔で俺にそう言う。我慢している……訳ではなかったが、急の事態に気持ちが定まらないでいた。
 おふくろに声を掛けられてやっとこここが、おふくろが勤めている病院なのだと、自覚すると現実が襲って来る。

「ひっ──ッ! ふぇッ……うぇッ、ううぅぅッ」

 張り詰めていた緊張が緩むと、くしゃりと顔を歪ませポロポロと涙を溢れさせた。

「ふふふ……久し振りに可愛い息子の泣き顔が見れたわ! ねぇ、あなた達は友達?」
「はい。多澤です。初めまして」
「村上です! 初めまして!」
「私、まだ仕事あるから、この子頼んでいい?」

 おふくろは俺の背中を押すと、村上が背中を支えてくれた。

「あの、悠斗の病室入れますか?」
「ええ、この先の角部屋よ。個室だけど静かにね?」

 おふくろは俺達にウインクすると、白衣をなびかせ仕事に戻っていった。
 涙を流す俺が落ち着くまで、廊下の長椅子に座り辛抱強く二人は待ってくれていた。
 しばらくすると悠斗の病室の扉がカラカラとスライドされ、おじさんと美久さんの姿が目に映った。

「みんな来てくれていたの⁉ 中入ってくれれば良かったのに!」
「いや、瀬菜がこんなだから落ち着くまで」
「王……ああ、悠斗君、今は?」
「まだ目は覚めないけど、先生の話では問題ないみたいだ。わざわざ来てくれてありがとうね」

 美久さんは俺の前に腰を下ろすと、手を握り声をかけてくれた。

「せっちゃん、心配掛けてごめんね? でも悠くん強い子だから明日にはいつも通りだよ?」
「うん……」
「ほら、みんな中に入って安心しなさい」

 おじさんの言葉に大きく頷いて病室に入ると、頭に包帯を巻き点滴を打たれている悠斗が横になっていた。規則正しく呼吸をする悠斗の顔付きは穏やかで、整った顔が際立っていた。
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