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第5幕 噂の姫乃ちゃん
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しおりを挟む「ゆうッ、悠斗、たすけッ、助けてッ‼︎」
精一杯の声を張り上げ、全く望みのない状況に届けと念じながら大声を絞り出す。
「悠斗ーーーーッ‼︎」
────ガンッ‼︎
……と、大きな音が入り口から鳴り響き、外の明かりが一気に暗い室内を照らし出す。
外の光はまるで暗闇から抜け出せそうなほどに眩しく明るい。涙に濡れた瞳が視界をぼやけさせるが、キラキラと光を浴びたシルエットは負の感情を浮上させてくれる。
「──ッ、瀬菜……。そんなに大声で叫んでどうしたの? 俺のこと呼んでいたよね。助けてって、ちゃんと外まで聞こえたよ?」
扉を開ける大きな音と悠斗の声に、俺にのし掛かっていた二人の男は硬直し、環樹先輩は鼻で笑いながら扉に視線を向けていた。
「ゆ、うと……ぅ──ッ……」
今まで止まらなかった涙が、悠斗の声にびっくりして引っ込んでしまう。ゆっくりと近付いて来る悠斗は、マントをはためかせながらコツコツと靴底を鳴らす。いつもの爽やかな表情とは程遠い無表情で、凍るような殺気を漲らせ男達を竦みあがらせていた。
環樹先輩の横で立ち止まる悠斗に合わせるように、騎士姿の多澤やメイド姿の村上も駆け込んで来る。突然の乱入者に焦り出す男達は、ズボンに脚を捕らわれ逃げようとするが、もつれながら転倒している。二人の男の元に猛ダッシュで多澤と村上が駆け寄ると、取り押さえ腕を捻りあげた。
「現行犯逮捕よ! あんた達、生きていられると思わないことね!」
「おらッ! 逃げんじゃねぇよ。悠斗に殴られないだけありがたいと思え」
無表情な悠斗は虫ケラを見るように二人の男を一瞥しながら、環樹先輩にも冷えた淡々とした声で尋ねる。
「……あなたも共犯ですか?」
「そう見える~?」
目を細め環樹先輩を見る悠斗に、ニヤッとしながら両手を挙げて自分はなにもしていないとアピールし先輩は呟いた。
「倉庫の鍵を開けたのは誰だと思っているの? ここは先生呼ばない限り外からじゃ鍵は開かないよ?」
「……そうですね。開けてくださって、ありがとうございます」
「しかし、ギリギリセーフだねぇ~。もう少しで彼、突っ込まれちゃうところだったよ? でもこの広い校内で、よくここに柳瀬菜が居るって分かったねぇ~」
「ふんッ、その前にあなたがもちろん止めたでしょ? まぁ……場所は掴めていましたから。障害物が多過ぎて遅くなっただけですよ」
悠斗はスマホの画面を環樹先輩に見せる。
「うわ~、過保護~! GPSとかびっくり! しかも人を障害物って君ってやっぱり……彼のことしか見えていないんだねぇ~♪」
先輩は驚きながらもケラケラと笑っている。
「まぁいいや。こいつら捕まえることできたし。あとは生徒会と先生方に任せるとするよ。で、君は姫乃ちゃんの介抱をお願いねぇ~♪ ちょっと、いやかなりヤバそうな薬使われてるっぽいから!」
そう言うと環樹先輩は多澤と村上に手伝ってね~と、男二人を連行し倉庫を出て行った。
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