王子×悪戯戯曲

そら汰★

文字の大きさ
上 下
176 / 716
第5幕 噂の姫乃ちゃん

39

しおりを挟む

「ゆうッ、悠斗、たすけッ、助けてッ‼︎」

 精一杯の声を張り上げ、全く望みのない状況に届けと念じながら大声を絞り出す。

「悠斗ーーーーッ‼︎」



 ────ガンッ‼︎

 ……と、大きな音が入り口から鳴り響き、外の明かりが一気に暗い室内を照らし出す。
 外の光はまるで暗闇から抜け出せそうなほどに眩しく明るい。涙に濡れた瞳が視界をぼやけさせるが、キラキラと光を浴びたシルエットは負の感情を浮上させてくれる。

「──ッ、瀬菜……。そんなに大声で叫んでどうしたの? 俺のこと呼んでいたよね。助けてって、ちゃんと外まで聞こえたよ?」

 扉を開ける大きな音と悠斗の声に、俺にのし掛かっていた二人の男は硬直し、環樹先輩は鼻で笑いながら扉に視線を向けていた。

「ゆ、うと……ぅ──ッ……」

 今まで止まらなかった涙が、悠斗の声にびっくりして引っ込んでしまう。ゆっくりと近付いて来る悠斗は、マントをはためかせながらコツコツと靴底を鳴らす。いつもの爽やかな表情とは程遠い無表情で、凍るような殺気を漲らせ男達を竦みあがらせていた。
 環樹先輩の横で立ち止まる悠斗に合わせるように、騎士姿の多澤やメイド姿の村上も駆け込んで来る。突然の乱入者に焦り出す男達は、ズボンに脚を捕らわれ逃げようとするが、もつれながら転倒している。二人の男の元に猛ダッシュで多澤と村上が駆け寄ると、取り押さえ腕を捻りあげた。

「現行犯逮捕よ! あんた達、生きていられると思わないことね!」
「おらッ! 逃げんじゃねぇよ。悠斗に殴られないだけありがたいと思え」

 無表情な悠斗は虫ケラを見るように二人の男を一瞥しながら、環樹先輩にも冷えた淡々とした声で尋ねる。

「……あなたも共犯ですか?」
「そう見える~?」

 目を細め環樹先輩を見る悠斗に、ニヤッとしながら両手を挙げて自分はなにもしていないとアピールし先輩は呟いた。

「倉庫の鍵を開けたのは誰だと思っているの? ここは先生呼ばない限り外からじゃ鍵は開かないよ?」
「……そうですね。開けてくださって、ありがとうございます」
「しかし、ギリギリセーフだねぇ~。もう少しで彼、突っ込まれちゃうところだったよ? でもこの広い校内で、よくここに柳瀬菜が居るって分かったねぇ~」
「ふんッ、その前にあなたがもちろん止めたでしょ? まぁ……場所は掴めていましたから。障害物が多過ぎて遅くなっただけですよ」

 悠斗はスマホの画面を環樹先輩に見せる。

「うわ~、過保護~! GPSとかびっくり! しかも人を障害物って君ってやっぱり……彼のことしか見えていないんだねぇ~♪」

 先輩は驚きながらもケラケラと笑っている。

「まぁいいや。こいつら捕まえることできたし。あとは生徒会と先生方に任せるとするよ。で、君は姫乃ちゃんの介抱をお願いねぇ~♪ ちょっと、いやかなりヤバそうな薬使われてるっぽいから!」

 そう言うと環樹先輩は多澤と村上に手伝ってね~と、男二人を連行し倉庫を出て行った。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

Take On Me 2

マン太
BL
 大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。  そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。  岳は仕方なく会うことにするが…。 ※絡みの表現は控え目です。 ※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

合鍵

茉莉花 香乃
BL
高校から好きだった太一に告白されて恋人になった。鍵も渡されたけれど、僕は見てしまった。太一の部屋から出て行く女の人を…… 他サイトにも公開しています

処理中です...