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第5幕 噂の姫乃ちゃん
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しおりを挟む埃っぽい匂いがする。
身体に違和感を感じる。
頭がズキズキと痛む。
俺、休憩中にトイレ行って……それからどうしたっけ……?
徐々に覚醒する頭で考えるが、頭がクラクラとしていて定まらない。
薄っすらと目を開き、ボーッとする視界で辺りを窺うが薄暗いどこかは焦点が合わず、今の状況が判断できない。
「あぁ、良かった。気が付いた?」
「これってそんなに効き目あったのかよ。危ねぇな」
聞き慣れない声がする。
それもひとりではないようだ。
「………だ……れ……?」
掠れた小さな声を発すると、男達はおちゃらけた弾んだ声で言う。
「ようこそ、姫乃ちゃん。清河に横取りされるかと思って焦っちゃったよ」
「だよなー。あいつずっと独占してるし。俺らの席、あいつのせいで来てもらえなかったからな! でもまぁ……今はこうして予定通りって感じで一安心」
「きよ、かわ……?」
誰の話をしているのだろうか。
人違いではないだろうか。
「えっ? 知り合いじゃないの? ずっと話し込んでいたじゃん」
「昨日は王子で、今日は清河。姫乃ちゃんは罪な子だね」
「……し、らなぃ……お前ら……誰。なんで、俺……ここ……どこ……」
「ここは体育館裏の体育準備用の倉庫だよ」
「俺達二人、君のファンなんだ」
男が二人、体育準備室の倉庫、俺のファン?
なんでこんなところに……。
トイレで鏡の前で……それから変な匂いがッ、頭痛い……。
俺はマットの上に仰向けで寝かされていた。倉庫の中は日の光がほんのりと差し込む程度で薄暗く埃っぽい。
二人の男の顔も朦朧とした頭ではハッキリと判断することができない。男は俺の頭側にひとり、足の間にひとり。
「おれっ……もどらないと──ッ!」
「あぁ、ほら急に動くと危ないよ」
「大丈夫? まだ横になってたほうがいいよ」
二人は俺を心配した風に装っているが、ベタベタと身体に触れてくる。仕舞いには俺の腕をマットに縫い付けるように押さえてくる。視界が徐々にクリアになると、心配な言葉とは裏腹に男達はどこかニヤけた表情をしていた。
身を捩り男達の手から逃れようとすれば、身体を撫でるように追いかけてくる。力の入らない今の自分では、跳ね除けることも敵わない。触られる手の感触に鳥肌が立ち、ゾクリと震えてしまう。
「──ッ、退いて……みんな心配してっ!」
「全然力入っていないじゃん。俺らも心配だよ。ほら、暴れちゃダメだよ」
「どうしちゃったの? 凄く震えてるね? こんな短いスカートだし寒いのかな?」
スルリと太ももをひと撫でされる。
気持ち悪さにビクッと身体を跳ねさせる。
「本当だ。震えちゃって。脚擦って温めてやれよ」
「平気だから、触るなっ! いい加減にっ‼︎」
「おっと、元気になって来ちゃった?」
「生きがいいのも萌えるね~」
「お前、ちゃんと押さえとけよ」
心配する口ぶりなのに、押さえろとはどういうことだ。
「お前ら……なにしようとしてるんだよ……」
この男達は俺のことなど、これっぽっちも心配していない。そう思うと恐怖に身がすくみそうになる。これからなにをされるのか不安ばかりが募っていく。
「なにって……そりゃ、はははっ」
「マジでこの状況でそんな純情なこと言ってんの? やべぇな……クククッ」
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