170 / 716
第5幕 噂の姫乃ちゃん
33
しおりを挟む
そっと囁くように伝えられ、咄嗟にメモを受け取ってしまう。先輩は「一回りしたらまた相手してね」と言い俺に手を振っている。村上に腕を引かれザワつき始めた室内から、隠れるようにバックヤードへと向かった。
「村上、ありがとう。でも聞きたいこと聞けなかった」
「聞きたいこと? でもあの先輩、柳ちゃんがひとりのとき明らかに狙っているよね」
「やっぱそう思う? なにしたいんだろ……」
「まぁ……気があるとか? 連絡しちゃダメだよ?」
「てか俺ら抜けて大丈夫かよ」
「一応、遅刻してきた奴らもさっき来たから少しなら。姫乃ちゃん独占禁止じゃないのって、クレームになり始めてたから騒ぎ収まるまで休憩だね」
もし先輩があの画像を拡散させた張本人ならば、俺に接触して来るのも分からなくはない。悠斗もあれから特になにも言っていなかったので、犯人が誰か未だに不明ではある。けれど拡散させてなにをしたいのだろかと、謎な先輩なだけに余計にどう接していいか慎重になってしまう。連絡先が書かれたメモを見つめ、取り敢えずポケットに入れておいた。
十五分ほど休憩してから表に出ると、室内のお客さんも入れ代わり先輩の姿もなく雰囲気は穏やかなものだった。先輩と被ってしまったお客さんには申し訳ないと思いつつ、気持ちを切り替え接客を再開した。
お客さんは途切れることなく入退室を繰り返す。休憩を少ししたとはいえ、慣れないことに俺はグッタリとしていた。見兼ねた三浦さんが再度休憩を勧めてくれ、言葉に甘え休むことにした。
バックヤードに回ろうとしたが、トイレにも午後から一度も行っていない。次の休憩がまたいつ入るか分からない。村上を誘って行こうとしたが、お客さんと丁度盛り上がっているところだった。負担ばかりかけては申し訳ないと、そっとひとりでトイレに行くことにした。
トイレ前で交互に表示板と睨めっこをする。
俺は男……格好は女の子……さてどうしたものだ?
女子トイレに入ったら、俺、痴漢じゃね?
男子トイレに入ったら、痴女じゃね?
スマホを取り出し悠斗に休憩中とメールを送る。それと合せトイレはどちらに入るべきか相談した。既読になり返事を待つと、電話の着信音が鳴った。
「ああ、悠斗? なぁ、どっちだと思う?」
『流石に女子トイレは色々まずいと思うよ? 入るなら男子トイレかな?』
「やっぱり? でも誰か居たら嫌だなって」
『なんで? 村上君一緒なら、明らかに男だし外で見ていてもらいなよ』
「村上一緒じゃないし。俺、今ひとりだから」
『はぁ⁉︎ なにやっているの! 今から行くから、そこどこ‼︎』
悠斗の声がうるさいほど鼓膜に叩かれる。
「声デカイよ! トイレぐらいひとりで行ける! それに待つなんて無理。俺、漏れそうだし……じゃぁな!」
『ちょっと! 瀬菜まっ──……』
膀胱は意外と限界だ。悠斗との通話を切ると、慌ててトイレに駆け込み、立ちションは流石に問題かもしれないと個室に入った。
はぁ……誰も居なくて良かった……。
ヤバイ、紐パンメンドくさっ! スカート邪魔!
紐を取り外し便座に腰掛けスカートをたくし上げる。ギリギリセーフだ。スッキリすると紐をリボン結びでしっかり止め、気配を窺って個室を出る。
手を洗い鏡を見ると、すっかりグロスが取れてしまっていた。付け直そうとポケットを探っていると、口と鼻をなにかで覆われていた。
「──ぅうッ‼ ングッ──‼」
背後から羽交い締めされていた。気配などなかったはずだ。
もがいていると鼻の奥がツーンと痛くなるような刺激臭に、俺の意識は薄れていった……。
「村上、ありがとう。でも聞きたいこと聞けなかった」
「聞きたいこと? でもあの先輩、柳ちゃんがひとりのとき明らかに狙っているよね」
「やっぱそう思う? なにしたいんだろ……」
「まぁ……気があるとか? 連絡しちゃダメだよ?」
「てか俺ら抜けて大丈夫かよ」
「一応、遅刻してきた奴らもさっき来たから少しなら。姫乃ちゃん独占禁止じゃないのって、クレームになり始めてたから騒ぎ収まるまで休憩だね」
もし先輩があの画像を拡散させた張本人ならば、俺に接触して来るのも分からなくはない。悠斗もあれから特になにも言っていなかったので、犯人が誰か未だに不明ではある。けれど拡散させてなにをしたいのだろかと、謎な先輩なだけに余計にどう接していいか慎重になってしまう。連絡先が書かれたメモを見つめ、取り敢えずポケットに入れておいた。
十五分ほど休憩してから表に出ると、室内のお客さんも入れ代わり先輩の姿もなく雰囲気は穏やかなものだった。先輩と被ってしまったお客さんには申し訳ないと思いつつ、気持ちを切り替え接客を再開した。
お客さんは途切れることなく入退室を繰り返す。休憩を少ししたとはいえ、慣れないことに俺はグッタリとしていた。見兼ねた三浦さんが再度休憩を勧めてくれ、言葉に甘え休むことにした。
バックヤードに回ろうとしたが、トイレにも午後から一度も行っていない。次の休憩がまたいつ入るか分からない。村上を誘って行こうとしたが、お客さんと丁度盛り上がっているところだった。負担ばかりかけては申し訳ないと、そっとひとりでトイレに行くことにした。
トイレ前で交互に表示板と睨めっこをする。
俺は男……格好は女の子……さてどうしたものだ?
女子トイレに入ったら、俺、痴漢じゃね?
男子トイレに入ったら、痴女じゃね?
スマホを取り出し悠斗に休憩中とメールを送る。それと合せトイレはどちらに入るべきか相談した。既読になり返事を待つと、電話の着信音が鳴った。
「ああ、悠斗? なぁ、どっちだと思う?」
『流石に女子トイレは色々まずいと思うよ? 入るなら男子トイレかな?』
「やっぱり? でも誰か居たら嫌だなって」
『なんで? 村上君一緒なら、明らかに男だし外で見ていてもらいなよ』
「村上一緒じゃないし。俺、今ひとりだから」
『はぁ⁉︎ なにやっているの! 今から行くから、そこどこ‼︎』
悠斗の声がうるさいほど鼓膜に叩かれる。
「声デカイよ! トイレぐらいひとりで行ける! それに待つなんて無理。俺、漏れそうだし……じゃぁな!」
『ちょっと! 瀬菜まっ──……』
膀胱は意外と限界だ。悠斗との通話を切ると、慌ててトイレに駆け込み、立ちションは流石に問題かもしれないと個室に入った。
はぁ……誰も居なくて良かった……。
ヤバイ、紐パンメンドくさっ! スカート邪魔!
紐を取り外し便座に腰掛けスカートをたくし上げる。ギリギリセーフだ。スッキリすると紐をリボン結びでしっかり止め、気配を窺って個室を出る。
手を洗い鏡を見ると、すっかりグロスが取れてしまっていた。付け直そうとポケットを探っていると、口と鼻をなにかで覆われていた。
「──ぅうッ‼ ングッ──‼」
背後から羽交い締めされていた。気配などなかったはずだ。
もがいていると鼻の奥がツーンと痛くなるような刺激臭に、俺の意識は薄れていった……。
0
お気に入りに追加
237
あなたにおすすめの小説
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる