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第5幕 噂の姫乃ちゃん
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時計を見ると結構な時間で、そろそろ戻らないとヤバイなと自分の教室に戻ることにした。回りきれなかったところは明日また回ろうと約束をし、悠斗が俺を送り届けてくれる。
「姫乃ちゃんやっと帰って来た! 王子様とのデートは楽しかった?」
「ははは……うん、まぁ」
「三浦さんありがとう。おかげで楽しかったよ。姫乃ちゃん着替えておいで。またあとで迎えに来るね」
俺と悠斗の会話を聞いていた三浦さんは、うんうんと納得した様子で言う。
「やっぱりいつも一緒だし、立花くんには正体バレちゃったか!」
「まぁね、悠斗またあとでな!」
やっとこ着替えができる。いそいそとバックヤードに向かうと、カラコンとつけまつ毛ウイッグを取ってもらう。さっとメイク落としシートで化粧を落すと、試着室に入って着替えを済ませていく。
脱いだ衣装に怪しい液体が付着していないか確認し、衣装係にメイド服を渡すと代わりに洗顔フォームを渡される。どうやら化粧をしっかり落とさないと、肌荒れの原因になるらしい。教室には洗面所はないので、仕方なしにトイレへ向かった。
トイレに行くと丁度村上が居て、化粧を落としているところだった。空いている洗面台で見様見真似で泡立て顔を洗っていると、洗い終えた村上に声を掛けられた。
「柳ちゃん? ちょいちょい、なんでひとりなの?」
「………ん……?」
「まぁ、このトイレを選んでくれて良かったよ。王子とデート楽しかった?」
パシャパシャと水で泡を流し、ふぅとひと息吐いて水気を手で拭うと村上にタオルを渡された。
「サンキュー。うん、まぁ……」
「そっか、ははっ! 顔真っ赤だね。こっちも意外と楽しかったよ!」
鏡を見るといつもの自分でホッとする。
「やっぱ明日も着なきゃダメかな?」
「ダメでしょ。女子の気合が柳ちゃんの完成度でさらにパワーアップしてるし、衣装作るの頑張ってくれたしさ。頑張ろう~よ」
明日は午後から女装のため、今日よりも長い接客になるかと思うと気が滅入る。けれど村上の言うように、あの衣装を見ると大変だったことも窺える。複雑な気持ちで苦笑いすると、ちょっとだけ気合を入れた俺だった。
明日の準備をみんなでさっと済ませ、下校の時刻になると悠斗と多澤が迎えに来てくれた。そのまま夕飯を食べて帰ろうということになり、四人でワックに向かった。
「あー疲れた……疲労感半端ねぇ。一日が一週間に思えた」
「慣れないパンプスだもんね。明日も痛くなったら無理しないでね?」
「柳ちゃんも足擦り剥けた? 俺も脱いだら結構マメだらけだった」
「瀬菜はそれだけじゃないだろ。絡まれるし、色んなやつから変な目で見られたし余計だろ」
俺はポカンとした顔で多澤を見てしまう。
「すげー! 多澤が俺を心配してくれてる!」
「お前……俺をなんだと思ってんだよ……」
「姫乃ちゃんやっと帰って来た! 王子様とのデートは楽しかった?」
「ははは……うん、まぁ」
「三浦さんありがとう。おかげで楽しかったよ。姫乃ちゃん着替えておいで。またあとで迎えに来るね」
俺と悠斗の会話を聞いていた三浦さんは、うんうんと納得した様子で言う。
「やっぱりいつも一緒だし、立花くんには正体バレちゃったか!」
「まぁね、悠斗またあとでな!」
やっとこ着替えができる。いそいそとバックヤードに向かうと、カラコンとつけまつ毛ウイッグを取ってもらう。さっとメイク落としシートで化粧を落すと、試着室に入って着替えを済ませていく。
脱いだ衣装に怪しい液体が付着していないか確認し、衣装係にメイド服を渡すと代わりに洗顔フォームを渡される。どうやら化粧をしっかり落とさないと、肌荒れの原因になるらしい。教室には洗面所はないので、仕方なしにトイレへ向かった。
トイレに行くと丁度村上が居て、化粧を落としているところだった。空いている洗面台で見様見真似で泡立て顔を洗っていると、洗い終えた村上に声を掛けられた。
「柳ちゃん? ちょいちょい、なんでひとりなの?」
「………ん……?」
「まぁ、このトイレを選んでくれて良かったよ。王子とデート楽しかった?」
パシャパシャと水で泡を流し、ふぅとひと息吐いて水気を手で拭うと村上にタオルを渡された。
「サンキュー。うん、まぁ……」
「そっか、ははっ! 顔真っ赤だね。こっちも意外と楽しかったよ!」
鏡を見るといつもの自分でホッとする。
「やっぱ明日も着なきゃダメかな?」
「ダメでしょ。女子の気合が柳ちゃんの完成度でさらにパワーアップしてるし、衣装作るの頑張ってくれたしさ。頑張ろう~よ」
明日は午後から女装のため、今日よりも長い接客になるかと思うと気が滅入る。けれど村上の言うように、あの衣装を見ると大変だったことも窺える。複雑な気持ちで苦笑いすると、ちょっとだけ気合を入れた俺だった。
明日の準備をみんなでさっと済ませ、下校の時刻になると悠斗と多澤が迎えに来てくれた。そのまま夕飯を食べて帰ろうということになり、四人でワックに向かった。
「あー疲れた……疲労感半端ねぇ。一日が一週間に思えた」
「慣れないパンプスだもんね。明日も痛くなったら無理しないでね?」
「柳ちゃんも足擦り剥けた? 俺も脱いだら結構マメだらけだった」
「瀬菜はそれだけじゃないだろ。絡まれるし、色んなやつから変な目で見られたし余計だろ」
俺はポカンとした顔で多澤を見てしまう。
「すげー! 多澤が俺を心配してくれてる!」
「お前……俺をなんだと思ってんだよ……」
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