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第3幕 溢れる疑惑
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しおりを挟む行くあてもなく流れる景色をぼんやりと見つめる。
ガタン、ガタン……と揺れる電車の車内は、深夜だからか閑散としている。
前にもこんなことあったな……。
あのときは痴漢にあって、多澤が助けてくれたんだっけ……。
悠斗はあのとき滅茶苦茶怒っていたな……。
恋人になったはずだけど、俺の勘違いだったのかな……。
停車した電車から降り、見慣れない繁華を彷徨う。家を出てどれぐらい経ったのか、今が何時なのかも不明だ。歩くのも億劫になり石造りの花壇に腰掛け、人が行き交うのをただ呆然と眺めていた。
今頃悠斗は多澤と……。
悠斗は誠実な人間だと思っていた。羞恥心に嫌がる俺。素直に悠斗を受け入れないことに、気持ちが冷めてしまったのか。それともなにもできない手の掛かる俺に、嫌気がさしたのかもしれない。
多澤の俺に対する態度は、俺への嫉妬心からだったのか。それとも最初から、俺など相手にしていないのか。多澤はいつでも自信に満ちている。
「そんなの、俺が敵うはずない……」
目頭が熱くなる。つま先と地面が滲んでいく。
「こんばんは。君、さっきからずっとここに座っているよね? 待ち合わせ?」
肩を揺さぶられ、俺に話しかけてるのかと見上げる。
「家出? 中学生? こんな遅い時間に出歩いていたら補導されちゃうよ? 行くところないなら俺のうち来る?」
知らない二十代ぐらいの男が声を掛けてくる。初めて会った俺をいきなり家に誘う男の意図が読めず、ブンブンと首を横に振り、また顔を伏せる。
無視を決め込む俺に、男はしつこく腕を引き行こうと促してくる。そんな男にうんざりすると、ぶっきら棒に声をあげた。
「……離せよ……俺は行かない」
「なんだよ。優しくしてやってんのに。純情そうな顔して、お前、客引きしてんだろ!」
「客引き? なんだよそれ……うざ……」
態度を一変させた男の手を払い除け、場所を変えようと立ち上がると、苛立った様子で強引に腕を掴まれ引っ張られる。
「いくらならいいんだ?」
「はぁ?」
「金に困っているんだろ? 二万? 三万までなら出してやる。おら、行くぞ。いいホテルに連れて行ってやるよ」
「やめっ! 痛いッ!」
男はそう言うと、俺の抵抗など顧みず歩き出した。
けばけばしいネオンが煌めく通りには『HOTEL』と書かれれた看板がいくつも並んでいた。
「いいホテルって、もちろん高級ホテルだよね? こんな安っぽいホテルになんて、まさか連れて行かないよね?」
「ハハッ、なんだよ。やっぱり売りかよ。勿体ぶりやがって。ラブホに決まってんだろ? セックスする場所なんて、どこだって変わらねぇよ」
「やだなぁ、ラブホでセックスするなんて。ねぇ、お兄さん」
男の足がピタリと止まる。
「それって、犯罪じゃないのかな?」
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