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第3幕 溢れる疑惑
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白桜駅に到着すると、駅前のスーパーで買い物をしてから家へと向かう。夕方になってもまだ日差しが強く、ムシムシする気候にジワジワと汗が吹き出てしまう。
「暑いーー。アイス食べたい……」
「本当に暑いね。家帰ったら食べよ?」
喉の渇きとジリジリとしたアスファルトの熱気に、アイスの冷たさを欲して駆け足気味に家へと急ぐ。角を曲がればもう家だ。
「わぅ──っ! うぅ……いたたぁ……ッ」
急いだせいで足が止まらず案の定転倒です……。
痛いのは地面についた手のひら。そして地面にしては妙に弾力がある。
「いってーッ、……って、なんだよ。ったく、お前本当に鈍くさいな‼︎」
柔らかな地面から声が聞こえた。それからふわりと漂う香りに違和感を覚える。身体を起こし、声の主へと視線を向けると、多澤が俺のクッションになっていた。
「あれ? 多澤……お前なんでここに居るんだ?」
「お前ぶつかっといて、謝罪もなしかよ。俺は……まぁ、少し用があってな……」
多澤はバツが悪そうに呟き、明後日の方向を見ている。
そんな態度に不審な顔をしていると、悠斗が冷ややかな声で俺達に言ってきた。
「二人共いつまで地面で寝転んでいるの? 密着していないで離れたら?」
悠斗に腰を引かれ起こされると、多澤にも手を差し出し介錯している。多澤の身体に付いた汚れを悠斗が払い怪我ない? と聞くと、多澤は笑顔で大丈夫だと答える。ぼんやりと二人の姿を眺めていると、悠斗に手を掴まれた。
「瀬菜、手見せて? あぁ……血が出てる」
「このぐらい平気だよ。多澤は怪我はないか?」
「ああ。けど、お前もう少し足腰鍛えたら?」
オープンになっている額に、軟弱だと軽くデコピンをされてしまう。
「ひでーー! 俺を老人みたいに言うなよ! 俺の足腰は強固だぞ!」
「ふーん……強固ね? そうは思えないけどな。悠斗も思うだろ?」
「ふふっ、雅臣そうやって揶揄わないの」
「ふんっ……まぁいいや。俺急ぐからまたな」
「うん、気を付けてね」
多澤は悠斗の肩をポンポンと叩き挨拶を交わすと、何事もなかったように行ってしまった。
ぶつかったのは悪かったけど……。
あいつ、一々俺に絡んでくるんだよな。
でも……なんでここに居たんだろ?
多澤の家、こっちじゃなかったはずだよな?
多澤のうしろ姿を眺めながら、先ほど感じた違和感と疑問を脳裏に浮かべる。
「瀬菜、家入るよ。手当しないと」
「あっ、うん!」
救急箱を手にソファーに座る。隣に座った悠斗が、手のひらに消毒液を塗布したガーゼで汚れを拭ってくれる。ジンジンと液体が傷口に染み眉を寄せる俺に、顔を窺いながら優しく手当をしてくれる。
「痛い? 我慢してね? 絆創膏で足りるかな? 結構範囲広いね」
「二枚ぐらい大きいの貼っておけば平気だろ? それよりアイス食いたい!」
「はい。取り敢えずこれで様子見ようか。もう、瀬菜は痛いのより、アイス優先なんだから……傷でも残ったらどうするの?」
「大げさだな~。こんな擦り傷じゃ、傷なんて残らないよ。俺、若いし回復力半端ないから♪」
アイス~アイス~♪ と言いながら冷蔵庫に向かい、半分に割れる棒アイスを折って片方を自分の口に入れ、もう片方を悠斗に、ほい! と差し出す。
悠斗は受け取らずにそのまま一口食べると、救急箱を片付けに立ち上がる。ソファーに戻るとまた一口食べ、そのまま俺の口の中にアイスを流し込んできた。
「んっ……むっ……うっ」
「ん……冷たくて美味しいね」
「自分で食べろよ……溶けるだろ」
「ん? 溶けたぐらいがいいの」
「暑いーー。アイス食べたい……」
「本当に暑いね。家帰ったら食べよ?」
喉の渇きとジリジリとしたアスファルトの熱気に、アイスの冷たさを欲して駆け足気味に家へと急ぐ。角を曲がればもう家だ。
「わぅ──っ! うぅ……いたたぁ……ッ」
急いだせいで足が止まらず案の定転倒です……。
痛いのは地面についた手のひら。そして地面にしては妙に弾力がある。
「いってーッ、……って、なんだよ。ったく、お前本当に鈍くさいな‼︎」
柔らかな地面から声が聞こえた。それからふわりと漂う香りに違和感を覚える。身体を起こし、声の主へと視線を向けると、多澤が俺のクッションになっていた。
「あれ? 多澤……お前なんでここに居るんだ?」
「お前ぶつかっといて、謝罪もなしかよ。俺は……まぁ、少し用があってな……」
多澤はバツが悪そうに呟き、明後日の方向を見ている。
そんな態度に不審な顔をしていると、悠斗が冷ややかな声で俺達に言ってきた。
「二人共いつまで地面で寝転んでいるの? 密着していないで離れたら?」
悠斗に腰を引かれ起こされると、多澤にも手を差し出し介錯している。多澤の身体に付いた汚れを悠斗が払い怪我ない? と聞くと、多澤は笑顔で大丈夫だと答える。ぼんやりと二人の姿を眺めていると、悠斗に手を掴まれた。
「瀬菜、手見せて? あぁ……血が出てる」
「このぐらい平気だよ。多澤は怪我はないか?」
「ああ。けど、お前もう少し足腰鍛えたら?」
オープンになっている額に、軟弱だと軽くデコピンをされてしまう。
「ひでーー! 俺を老人みたいに言うなよ! 俺の足腰は強固だぞ!」
「ふーん……強固ね? そうは思えないけどな。悠斗も思うだろ?」
「ふふっ、雅臣そうやって揶揄わないの」
「ふんっ……まぁいいや。俺急ぐからまたな」
「うん、気を付けてね」
多澤は悠斗の肩をポンポンと叩き挨拶を交わすと、何事もなかったように行ってしまった。
ぶつかったのは悪かったけど……。
あいつ、一々俺に絡んでくるんだよな。
でも……なんでここに居たんだろ?
多澤の家、こっちじゃなかったはずだよな?
多澤のうしろ姿を眺めながら、先ほど感じた違和感と疑問を脳裏に浮かべる。
「瀬菜、家入るよ。手当しないと」
「あっ、うん!」
救急箱を手にソファーに座る。隣に座った悠斗が、手のひらに消毒液を塗布したガーゼで汚れを拭ってくれる。ジンジンと液体が傷口に染み眉を寄せる俺に、顔を窺いながら優しく手当をしてくれる。
「痛い? 我慢してね? 絆創膏で足りるかな? 結構範囲広いね」
「二枚ぐらい大きいの貼っておけば平気だろ? それよりアイス食いたい!」
「はい。取り敢えずこれで様子見ようか。もう、瀬菜は痛いのより、アイス優先なんだから……傷でも残ったらどうするの?」
「大げさだな~。こんな擦り傷じゃ、傷なんて残らないよ。俺、若いし回復力半端ないから♪」
アイス~アイス~♪ と言いながら冷蔵庫に向かい、半分に割れる棒アイスを折って片方を自分の口に入れ、もう片方を悠斗に、ほい! と差し出す。
悠斗は受け取らずにそのまま一口食べると、救急箱を片付けに立ち上がる。ソファーに戻るとまた一口食べ、そのまま俺の口の中にアイスを流し込んできた。
「んっ……むっ……うっ」
「ん……冷たくて美味しいね」
「自分で食べろよ……溶けるだろ」
「ん? 溶けたぐらいがいいの」
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