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第2幕 逃亡劇の果てに
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Pluu……Pluu……。
「はい……今からそちらに……」
物音に身じろぎすると優しく髪を梳かれた。その手のぬくもりに心地良さを感じ、猫のように蹲る。
「まだ寝ていていいよ。少しフロントまで行ってくる。戻ったらご飯食べよ?」
「……ん……」
まどろみながら返事をすると、悠斗は頭に口付けを落とし離れていった。もう少し撫でていて欲しい……そう思いながら、俺はまた眠りに就いた。
誰かの声が仄かに聞こえる……。
目を覚ますと一瞬自分の状況が分からず慌てるが、昨日悠斗に連れて来られたホテルだと理解するまでそう時間は掛からなかった。
ベッドルームの外から悠斗の声と、聞いたことのないまだ若そうな男性の声。知らない声に戸惑い、裸では居られないと辺りを見渡し立ち上がる。
「──ぅっ、……いたぁ~……」
腰に鈍痛が走り顔を歪ませた。足腰が自分のものではないようだ。上手く立ち上がることができず、床にペタンと座り込んだまま動けない。
俺って意外とデリケートなんだな……。
まぁ、あんな滅茶苦茶にされたら、健康優良児でもこうなるか……。
無事じゃ済まないとは思ったけど……ははっ……。
ひとり心の中で呟くと、扉が開き悠斗が顔を出す。
「瀬菜、起きた? ふふっ……子鹿みたいだね。ひとりで立てる?」
「見て分かるだろ?」
ニコッとする悠斗は俺に手を差し伸べてくる。腰を支えられなんとか立ち上がり新しいバスローブに袖を通すと、リビングに居るであろう人物について質問してみた。
「……お客さん?」
「ああ、祐一さんだよ。瀬菜にどうしても会いたいって聞かなくて……」
昨日もその名前をフロントで聞いたような気がする。
俺に会いたいと言うが、俺はその人物に心当たりがなかった。
「なんで俺に?」
「そっか、昔一度だけ瀬菜も会っているけど、七歳ぐらいだったし覚えていないよね? 俺の従兄でこのホテルのオーナーだよ」
それでこの高級ホテルに泊まれたのかと納得する。悠斗の従兄であれば、金銭面の心配は不要ということだ。悠斗がどうやって支払いをするのか正直気がかりだった。
でも、どうして俺に会いたいんだろ……。
「俺、こんな格好だけど……」
「それでいいよ。気にする人じゃないから。おいで」
腰を支えられリビングに向かうと、ソファーに座っていた祐一さんが立ち上がり、パァーっと明るい表情を浮かべた。
「わー! あんなに小さかった瀬菜君が……大きくなったね~。感慨深いなぁ~。僕のこと覚えていないよね? 昔も可愛かったけど、今も小さくて可愛いね~♪」
祐一さんは一気にそう言うと、感傷に浸りながら眩しいオーラを発し、目をキラキラと輝かせている。けれど大きくなったのに小さいとはどういうことだ。
「祐一さん、ひと言余計です」
「えー! でも、僕よりも身長──」
「あー……それは言わないであげてください。それより自己紹介したらどうです?」
一向に話が進まずポカンとする俺。悠斗は空気を読んだのか祐一さんの言葉を遮り、苦笑い交じりにそう促した。
少し天然っぽいが見るからにいい人そうで人懐っこい。細身で背は俺より少し高めだが、悠斗の従兄だからか薄茶色の髪色で、全体的に色素が薄い。細身の銀縁眼鏡のせいか真面目な感じがするが、ひと言で表現するなら綺麗なお兄さんがしっくりくる。
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