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第2幕 逃亡劇の果てに
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店をあとにし家に帰るとばかり思っていたが、悠斗は駅とは異なる方向へ進んで行く。まもなく終電もなくなる時間帯だ。
強引な悠斗に、困惑よりも怒りが湧いてくる。怒っているとはいえ、行き先ぐらい教えてくれてもいいものだ。
「どこ行くんだよ!」
「……」
「家逆だろ! おいってば! 痛いんだよッ‼︎」
強く掴まれた腕が痛いと訴えると、力は緩むが離そうともせず、歩みを止めようともしない。
大通りに出ると悠斗はタクシーを停め、俺を押し込んだ。あとから乗車した悠斗が運転手に行き先を告げる。
「夢蘭町、フィオーレまでお願いします」
初めて行き先を知る。動き出したタクシーは、白桜とは逆の二つ先にある繁華街に向かっていた。夢蘭町は高級店などが数多く並ぶセレブな街で、俺には中々縁のない街だった。
スムーズに進むタクシーの車内は、ラジオすら流れておらず静まり返っている。チラリと横目で悠斗を窺うと、脚を組み頬杖を付きながら車窓から流れる夜の景色を眺めていた。ここまで喋らない悠斗も珍しい反面、相当怒っているということだけは鈍感な俺でも察することができた。
気まずい車内は息苦しく、早く降りたいと念じていると停車した。タクシーを降りると、目の前には大きな建物。躊躇なく進む悠斗に腕を引かれ、その中へと入って行った。
「立花様、お待ちしておりました」
「こんばんは、佐伯さん。そんな畏まらないでくださいよ」
「仕事中ですから」
佐伯さんという男性はそう言うと、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「祐一さんは今日は来ていますか?」
「明日、八時頃の予定です。挨拶に伺うように伝えておきます」
「いえ。その頃、僕からこちらに」
「では、お部屋に連絡致します」
「お願いします」
「お部屋は二十二階となっております。ご案内致します」
「案内は大丈夫です」
鍵を受け取った悠斗は、エレベーターに向かい勝手知ったるという様子で最上階のボタンを押した。二十二階に到着すると、数個あるセキュリティーを抜け、一番奥にある部屋の中に押し込まれた。
広々とした室内。フィオーレは俺でも知っている高級ホテルだ。ソファーに荷物を置いた悠斗は、冷蔵庫から水を取り出し口にすると、状況が今一理解できず扉の前で立ち尽くす俺に歩み寄って来る。
「ずっとそこに立っているつもり」
冷ややかな声で言われる。
「……俺……家に帰る」
「どうやって? 電車も終わっている」
「……お前がこんなところに連れ込むからだ。なんだよ……こんな、普通の高校生が泊まれるところじゃないだろ!」
「そんなこと、瀬菜が気にする必要はないよ。そんなに俺と居るのは嫌? 変なおっさんに着いて行ったほうがマシ? 嫌だって言いながら、実は気持ち良くて堪らなかったんじゃないの」
侮辱するような言い方に怒りが込み上げてくる。
「お前だって映像見ただろう! 俺……気持ち悪くて……」
思い出すだけで吐き気がすると同時に、悠斗の言葉に涙が溢れそうになる。
「……なんで逃げたの? 昨日、約束したばかりだよね?」
「──っ、それ……は……」
俺のはっきりしない返答に、大きなため息を漏らす悠斗。
「親友とも思えない、大っ嫌い……なら、俺と瀬菜はこれからなにになるの?」
悠斗の質問に言葉が詰まる。普通の友達、ただの知り合い……頭に浮かぶ文字が全て違う、嫌だと否定する。分かっているのに、そのひと言が怖くて言えない。
「自由にさせ過ぎた。あと一日、どんなに嫌がっても、俺の奴隷になってもらうよ」
強引な悠斗に、困惑よりも怒りが湧いてくる。怒っているとはいえ、行き先ぐらい教えてくれてもいいものだ。
「どこ行くんだよ!」
「……」
「家逆だろ! おいってば! 痛いんだよッ‼︎」
強く掴まれた腕が痛いと訴えると、力は緩むが離そうともせず、歩みを止めようともしない。
大通りに出ると悠斗はタクシーを停め、俺を押し込んだ。あとから乗車した悠斗が運転手に行き先を告げる。
「夢蘭町、フィオーレまでお願いします」
初めて行き先を知る。動き出したタクシーは、白桜とは逆の二つ先にある繁華街に向かっていた。夢蘭町は高級店などが数多く並ぶセレブな街で、俺には中々縁のない街だった。
スムーズに進むタクシーの車内は、ラジオすら流れておらず静まり返っている。チラリと横目で悠斗を窺うと、脚を組み頬杖を付きながら車窓から流れる夜の景色を眺めていた。ここまで喋らない悠斗も珍しい反面、相当怒っているということだけは鈍感な俺でも察することができた。
気まずい車内は息苦しく、早く降りたいと念じていると停車した。タクシーを降りると、目の前には大きな建物。躊躇なく進む悠斗に腕を引かれ、その中へと入って行った。
「立花様、お待ちしておりました」
「こんばんは、佐伯さん。そんな畏まらないでくださいよ」
「仕事中ですから」
佐伯さんという男性はそう言うと、人の良さそうな笑みを浮かべた。
「祐一さんは今日は来ていますか?」
「明日、八時頃の予定です。挨拶に伺うように伝えておきます」
「いえ。その頃、僕からこちらに」
「では、お部屋に連絡致します」
「お願いします」
「お部屋は二十二階となっております。ご案内致します」
「案内は大丈夫です」
鍵を受け取った悠斗は、エレベーターに向かい勝手知ったるという様子で最上階のボタンを押した。二十二階に到着すると、数個あるセキュリティーを抜け、一番奥にある部屋の中に押し込まれた。
広々とした室内。フィオーレは俺でも知っている高級ホテルだ。ソファーに荷物を置いた悠斗は、冷蔵庫から水を取り出し口にすると、状況が今一理解できず扉の前で立ち尽くす俺に歩み寄って来る。
「ずっとそこに立っているつもり」
冷ややかな声で言われる。
「……俺……家に帰る」
「どうやって? 電車も終わっている」
「……お前がこんなところに連れ込むからだ。なんだよ……こんな、普通の高校生が泊まれるところじゃないだろ!」
「そんなこと、瀬菜が気にする必要はないよ。そんなに俺と居るのは嫌? 変なおっさんに着いて行ったほうがマシ? 嫌だって言いながら、実は気持ち良くて堪らなかったんじゃないの」
侮辱するような言い方に怒りが込み上げてくる。
「お前だって映像見ただろう! 俺……気持ち悪くて……」
思い出すだけで吐き気がすると同時に、悠斗の言葉に涙が溢れそうになる。
「……なんで逃げたの? 昨日、約束したばかりだよね?」
「──っ、それ……は……」
俺のはっきりしない返答に、大きなため息を漏らす悠斗。
「親友とも思えない、大っ嫌い……なら、俺と瀬菜はこれからなにになるの?」
悠斗の質問に言葉が詰まる。普通の友達、ただの知り合い……頭に浮かぶ文字が全て違う、嫌だと否定する。分かっているのに、そのひと言が怖くて言えない。
「自由にさせ過ぎた。あと一日、どんなに嫌がっても、俺の奴隷になってもらうよ」
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