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第2幕 逃亡劇の果てに
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大きな声を店内に響かせ立ち上がると、強く机を叩き多澤に伝える。目を細め口角を上げた多澤は、両腕を頭のうしろに組み仰け反りながら口を開いた。
「……だとよー」
俺の後方へと焦点を合わせる多澤に硬直する。俺ではなく違う人物に言ったのだ。怖くて振り向けないでいると、こちらに近付く足音が聞こえ、息を切らした気配を真横で感じていた。
逃げたい……でも足が動かない……。
机に手を付いた状態のまま多澤のほうを向いていると、俺の隣に腰掛け退路を塞がれてしまう。
「悠斗お前、来るの遅えし」
「ごめん。これでも連絡貰って、すぐに駆け付けたんだ」
「保護者なんだからしっかり面倒見ろよ。変なおっさんには絡まれてるわ、迷子みたいに泣くわ……」
多澤の言葉に悠斗の眉間に皺が寄る。
「なにかあったの?」
「あーまぁな……。一応解決はしたから安心しろ」
「雅臣、ちゃんと説明して」
「大きな声じゃ言えねぇよ。大人しくこれ見て察しろ」
二人の会話が弾んでいるが全く耳に入ってこない。多澤がスマホを悠斗に渡すと、映像が流れ始めた。電車の揺れでブレているが、俺が痴漢されている動画だった。俺は見られたくない一心で、悠斗の手からスマホを奪い取ろうとした。けれど悠斗に敵うはずがない。
「……雅臣悪いんだけど、飲みもの頼んでいい?」
「へいへい。アイスコーヒーでいいんだろ?」
「うん、それでお願い」
「了解ー」
二人になり、色々問い詰められると思ったが、悠斗は静かに多澤のスマホからSDカードを抜き取り、自分のスマホに差しなにかをしていた。お互い無言の中、気不味い雰囲気だけが流れている。唇を噛み膝に置いた手をギュッと強く握り締める。
多澤が戻ると、ピリピリとした空気も少しはマシになる。悠斗はドリンクを受け取りひと息つくと、俺の存在がまるでないかのように多澤と二人で話し込んでいる。
「さっきのデータ、消したから」
「あぁ、どうせ自分のほうに移動させたんだろ」
「うん、一応なにかあったときのために」
「別に俺には必要ねぇし。あっ、やっべ時間切れ。俺このあと用事あるんだわ。まぁ、貸しイチってことで。あとでメールする」
「うん。ありがとう」
多澤が席を立ち、チラリと俺のほうへ視線を寄越す。多澤には仲介に入ってもらいたかったが、そう簡単にはいかないようだ。青い顔をし狼狽える俺に、多澤はニヤリと笑い意味深なことを言ってきた。
「瀬菜、月曜日までに頼むぜ」
ひらひらと手を振り、多澤は店を出て行ってしまった。
どう仲直りすればいいか何度もシュミレーションするが、最悪の結末しか訪れない。親友とは思えないと発言してしまったからなおさらだ。
悠斗はスマホを弄っているだけで、俺を見ようともしない。『ごめん』のひと言だけで、この状況が変わるとは当然思えなかった。口を開いては閉じるを繰り返し、時間ばかりが過ぎていく。
重苦しい空気に耐えられなくなり、立ち上がろうとすると、腕を掴まれ動けなくなる。離してと伝えようとすると、悠斗の双眸とぶつかる。それは今まで見たこともない、凍えそうなほど冷たいものだった。
「……だとよー」
俺の後方へと焦点を合わせる多澤に硬直する。俺ではなく違う人物に言ったのだ。怖くて振り向けないでいると、こちらに近付く足音が聞こえ、息を切らした気配を真横で感じていた。
逃げたい……でも足が動かない……。
机に手を付いた状態のまま多澤のほうを向いていると、俺の隣に腰掛け退路を塞がれてしまう。
「悠斗お前、来るの遅えし」
「ごめん。これでも連絡貰って、すぐに駆け付けたんだ」
「保護者なんだからしっかり面倒見ろよ。変なおっさんには絡まれてるわ、迷子みたいに泣くわ……」
多澤の言葉に悠斗の眉間に皺が寄る。
「なにかあったの?」
「あーまぁな……。一応解決はしたから安心しろ」
「雅臣、ちゃんと説明して」
「大きな声じゃ言えねぇよ。大人しくこれ見て察しろ」
二人の会話が弾んでいるが全く耳に入ってこない。多澤がスマホを悠斗に渡すと、映像が流れ始めた。電車の揺れでブレているが、俺が痴漢されている動画だった。俺は見られたくない一心で、悠斗の手からスマホを奪い取ろうとした。けれど悠斗に敵うはずがない。
「……雅臣悪いんだけど、飲みもの頼んでいい?」
「へいへい。アイスコーヒーでいいんだろ?」
「うん、それでお願い」
「了解ー」
二人になり、色々問い詰められると思ったが、悠斗は静かに多澤のスマホからSDカードを抜き取り、自分のスマホに差しなにかをしていた。お互い無言の中、気不味い雰囲気だけが流れている。唇を噛み膝に置いた手をギュッと強く握り締める。
多澤が戻ると、ピリピリとした空気も少しはマシになる。悠斗はドリンクを受け取りひと息つくと、俺の存在がまるでないかのように多澤と二人で話し込んでいる。
「さっきのデータ、消したから」
「あぁ、どうせ自分のほうに移動させたんだろ」
「うん、一応なにかあったときのために」
「別に俺には必要ねぇし。あっ、やっべ時間切れ。俺このあと用事あるんだわ。まぁ、貸しイチってことで。あとでメールする」
「うん。ありがとう」
多澤が席を立ち、チラリと俺のほうへ視線を寄越す。多澤には仲介に入ってもらいたかったが、そう簡単にはいかないようだ。青い顔をし狼狽える俺に、多澤はニヤリと笑い意味深なことを言ってきた。
「瀬菜、月曜日までに頼むぜ」
ひらひらと手を振り、多澤は店を出て行ってしまった。
どう仲直りすればいいか何度もシュミレーションするが、最悪の結末しか訪れない。親友とは思えないと発言してしまったからなおさらだ。
悠斗はスマホを弄っているだけで、俺を見ようともしない。『ごめん』のひと言だけで、この状況が変わるとは当然思えなかった。口を開いては閉じるを繰り返し、時間ばかりが過ぎていく。
重苦しい空気に耐えられなくなり、立ち上がろうとすると、腕を掴まれ動けなくなる。離してと伝えようとすると、悠斗の双眸とぶつかる。それは今まで見たこともない、凍えそうなほど冷たいものだった。
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