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第2幕 逃亡劇の果てに
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しおりを挟む「今日は初めて会う人もいますが、軽い気持ちで歌って食べて楽しもうー! お酒じゃないけど取り敢えず。まずは、乾杯~♪」
軽く自己紹介を済ませると、村上がおっさんぽいノリで音頭を取り乾杯をする。コップを合わせてチンをすると、男女で半々に別れていた席を辻と奥井がシャッフルし、女の子と距離を縮め話していた。
村上は空気を盛り上げるため曲を選び、率先して歌い始めていた。意外と上手いではないか。村上の歌に手を叩いていると、悠斗が液晶のコントローラーを渡してくる。
「俺、歌は苦手」
村上の選曲が大音量でノリノリな曲だったのもあり、悠斗は俺の言葉を理解していない様子だ。悠斗の袖を引き、耳元まで顔を近づけ手をあて言う。
「俺、曲あんまし分からない。苦手だし」
「ならこれは? 一緒だったら歌える?」
悠斗も同じように耳元で言い、一緒なら歌えると承諾し、みんなが何曲かリクエストをしたあとに予約してもらった。
悠斗が居てくれて助かったと思いながら、次々と曲が終わるのを待っていると、俺の隣に小柄な目のクリッとした女の子が来て話しかけてきた。
「こんにちは♪ 柳君……だったよね! 私、柏木リナっていいます! ヨロシクね!」
「あんな適当な自己紹介で覚えてくれてたの? こちらこそヨロシク!」
「変わった名前だったから、すぐ覚えたよ~。せなっていい名前だね!」
「そっかな? 女の子みたいじゃね?」
いい感じで会話が弾みデレていると、隣に座る悠斗が俺の腕を引いてくる。ノリの良い曲が終わり、会話が聞き取れる静かさになっていた。
「話しているところごめんね? 次、僕たちの番だから」
柏木さんに笑顔を送り、俺にマイクを差し出してくる悠斗。いいところだったのにと、ぷすっと頬を膨らませながらマイクを受け取る。
場の雰囲気を盛り上げるには、ポップな曲のほうがいいけれど、バラードのほうが俺は好きだ。悠斗がチョイスしてくれた曲は歌いやすくて、悠斗がハモってくれるから凄く気持ち良く歌い上げることができた。
「……あー緊張したーー! なんかどんよりさせちゃったかな?」
「全然だよー、超感動したー」
「本当に‼︎ 凄い聴き入っちゃった!」
「キュンキュンだよーー。もっと聴いていたかった~~♪」
女の子は切ないの好きなのなと、褒められたことに照れながら、次誰か盛り上げてとバトンタッチする。
「悠斗が上手にカバーしてくれるから、俺が上手いみたいに聴こえるマジックだよな」
「瀬菜のバラード歌うときの声、俺好きだから久々に聴けて余計に頑張っちゃった」
「俺これ以上カラオケは無理! 恥ずかしくてぶっ倒れそう」
「一曲歌えば十分だよ。瀬菜が好きな唐揚げとかあるよ? 折角だから食べたら?」
食べることに専念しようと唐揚げを摘みモグモグしていると、柏木さんともうひとり女の子が悠斗と俺を挟んで両サイドに座り話しかけてきた。
「ずっと見てたけど、二人ともめちゃくちゃ仲良しだねー! あっ私、佐藤由香です♪」
「悠斗と俺、幼馴染で家も隣同士だから」
「そっかー、歌も凄い息合っていたし。二人とも凄くカッコ良かった!」
柏木さんがふんわりと微笑みそう言うと、悠斗側に座る佐藤さんが親しげに悠斗の腕に絡みつき、アレコレと質問攻めしていた。悠斗は笑顔で質問に答え紳士然と対応している。
そんな姿を横目に、俺は柏木さんとたわいもない会話を続ける。徐々に俺は空返事気味になっていく。どういう訳か悠斗と佐藤さんの会話が気になるのだ。
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