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第2幕 逃亡劇の果てに
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あれれ?
フカフカじゃ、ない……。
俺はなぜ床の上で寝ているのでしょうか?
朝起きると、床の上で目覚めました。
確かベッドで眠りについたはずなのに。
節々の痛さを感じながら起き上がり、ベッドのほうを覚醒していない思考で見つめると……。
そこにはお姫様ではなく、王子様がおりました──。
「……って! 起きやがれこのベッド泥棒‼︎」
思い切り俺と共に床に落とされた枕を悠斗に投げ付けると、うっすら目を開けた悠斗が爽やかに微笑み、これまた爽やかな朝の挨拶をしてくる。
「おはよう……瀬菜。今日は早起きだね?」
「お前がベッド取るからだろ! 俺は床に落ちて身体痛くて目覚めたわ!」
「それは瀬菜が悪いよ。折角ハグして寝ようって言ったのに嫌がるから」
自分は悪くないと悠斗は言う。
「……お前の感覚マジで分かんねぇ~。日本人だよな?」
「瀬菜が照れ屋さんなだけだと思うけど。それはそうとご飯食べて学校行かなきゃ」
あくびをしながら言う悠斗に、そうだったと思い出す。
昨日は浴衣で帰って来たのだ。制服やら諸々置きっ放しで取りに行かなければならない。そのあと白桜駅から五駅向こうの、待ち合わせ場所である百合樹駅に十六時半に集合なのだ。
「よし! 悠斗は俺をベッドから追い出したお詫びに飯ヨロシク~!」
「えー。奴隷ちゃんにご飯作ってあげるって、おかしくない?」
「それまだ続いてるのかよ。もういいだろ! ほら行ってこい!」
「ふふっ、なに言っているの。継続中だけど。これじゃ瀬菜が主人みたいだね? まぁ、それもありか……」
悠斗をキッチンに追いやり、俺はと言えば……。
今日のオシャレはどうしたものかとクローゼットを漁りだし、イケメン揃いの中でも真面に見える格好の服を物色していた。自分のセンスは他人にどう見られるかは謎だが、悩みに悩み無難な服をチョイスした頃、階下から俺を呼ぶ悠斗の声がしリビングへと向かった。
「やっぱり悠斗の飯は最高だよな!」
「クスッ、愛情たっぷりだからね。今日は凄くご機嫌だね」
「そりゃ飯は美味いし、今日の合コン俺、人生で初めてだからな!」
満面の笑みを浮かべる俺に悠斗は白けた目を向け言う。
「……彼女そんなに欲しいの?」
「なんだよ、悠斗は欲しくねぇの?」
「昨日は俺に甘えられないとか、可愛いこと言っていたくせに」
学校で咄嗟に口にしてしまったことを蒸し返される。
「あれはその……俺に彼女が居ない場合のことで。ほら、彼女ができたらきっと毎日お互い楽しいと思うんだ!」
「酷い言い方だね。まるで俺はそれまでの繋ぎみたいだ……」
「えっ? なに?」
ボソリと呟く悠斗。はっきり言えばいいではないか。
大きなため息を漏らすと、悠斗は不機嫌そうに返事を返す。
「……なんでもない。俺は彼女っていうよりも、片思いでも好きな子がいれば楽しいかな。それに両思いじゃなきゃ、付き合っても中々続かないだろうし」
「うん、まぁ、そうだけどさ……」
悠斗があまりにも切なそうに話すから、こいつ実は片思い中なのか? ……と気になってしまう。けれどこれから訪れるかもしれない衝撃的な出会いを胸に抱き、ウキウキ舞い上がる俺はそれ以上の追及はしなかった。
学校に荷物を取りに行き、お互いに支度があるからと家の前で一旦別れると、あっという間に時間が経過していた。慌てて朝チョイスした服に着替えると、悠斗が迎えに来た合図を知らせるチャイムが鳴り玄関に向かう。玄関の扉を開けるともうすぐ日が暮れるというのに、眩しい光に包まれた悠斗が待っていた。
あぁ……眩しい……どんだけ爽やか王子だよ。
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